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 はじめにお読みください



『’あの・・・・,』


  10月のある日、隼人が話を切り出した。


  「なあに?隼人さん・・・」


  隼人が引っ越してきてから1週間。 この生活にも少しずつ慣れてきた頃だった。

 家賃のほかに、月に1万円を食費として出す・・・これが隼人の最大の譲歩だった。



  『’今度の日曜日、ビデオ屋のメンバーと芋煮会をするんですけれども、もしよろしかったらいかがですか?,』

  「芋煮?」

  『芋煮・・・懐かしいわね~~。 奈央、芋煮ってね、宮城の秋の行事なのよ。まぁ、もともとは山形県なんだけれども、仙台でもよくやるのよ。』

  「もしかして、芋を煮るの?」

  『ぴんぽ~~ん♪♪♪』

  「え~~・・・。焼き芋みたいなものなの??? な~~んか楽しくなさそう・・・」

  『芋煮がどんなものかは、聞くより見たほうが早いわ。 絶対楽しいから行きましょうよ~~』

  「隼人さんが行くんだったら・・・ メンバーは?」

  『’ビデオ屋の先輩の尾山さん・・・ 尾山さんは山形出身だから、今回のリーダーになりますね・・・。あとは、千葉さんと、もう一人女性の方と・・・,』

  「あとは、私とお母さんね・・・。 オッケー!! 尾山さんと千葉さんって、本当に面白いんですもの!!楽しみにします♪」

  『尾山さん、山形出身なんですね・・・だったら期待できそうです♪』

  『’かなりはりきっていますよ~~。仙台のは芋が入っていないから認められない!ってね。,』

  『確かに・・・』

  『’「芋煮」なんだから、山形風のが元祖だ!って・・・俺にとってはどちらでもいいんですけれども・・・,』

  「なんだか分からないけれども、尾山さんらしい~~ww」

  『じゃあ、しょうゆ味なのね・・。何か用意したほうがいいかしら・・・』

  『’いえ・・特にいいらしいですよ。,』

  『そう。じゃあ、楽しみにしています♪♪♪』

  
 ー☆ー☆ー☆ー☆ー


 芋煮当日


 いつもの様に隼人が2階に上がってきて3人で朝食後、穏やかな時間をすごしていた。

 『’そろそろ迎えに来る頃かな・・・,』

 隼人が時計を見つめながら言った。
 
 


 ・・・と、隼人のケータイがなる。

 『’・・・あ、そう 住んでいるのは101号なんだけれども、今は2階の202号にいるんだ。いいよ。すぐに降りていくから・・・あ・・・そう・・・,』


 隼人は押し切られるようにケータイの電話を切った。

 『’あ、今バイトの子がここまで来るそうです。いいって言ったんですけれども・・・,』

 
 と、チャイムが鳴る。

 『’あ、僕が出ます。,』

 
  玄関先からにぎやかな声が聞こえる。 
 
 景子と奈央は荷物を持って玄関へ向かった。


 『’あ、かあさん、奈央ちゃん。 この方は・・・,』

  隼人の声をかき消すように女性が口を開いた。


 奈緒美「津山奈緒美で~す。ハヤトとは、同じビデオ屋でバイトをしていまぁす。よろしくお願いしま~すっ」

 『久保田景子です。そして娘の奈央です。
  今日は誘ってくださってありがとうございます。よろしくお願いします。』

 頭を下げる景子を奈緒美は見下げるように鼻で笑った。 ・・・・様に感じた。

 『’,じゃあ、行きましょうか』
  
 奈緒美「あ、ハヤト、先に行ってて~~~♪ほら、女性陣同士仲良くしたいから・・・。ほらっ!」

 『’・・・お、おぅ,』

  追い出されるように隼人は階段を降りていった。

 程なく楽しそうな話し声が聞こえてきた。

 『’・・・奈緒美さんは、学生さんなんですか?,』

 奈緒美が玄関に居座るので外に出ることもできず、景子はとりあえず話を切り出してみた。

 奈緒美「・・・ええ。専門学校生です。・・・って、私のこと「ナオ」って呼んでください。皆にそういわれていますから。」

 奈緒美は鏡を見つめながら答えた。 声のトーンに先ほどのキャピキャピさはなかった。

 「・・・私と同じ・・・」
 
 奈緒美「・・・そっか、あなた「奈央」ちゃんだっけ?ごめんねぇ~~。私が「ナオ」だからあなたは・・・」

 奈緒美は鏡から奈央に視線を移す


 奈緒美「そうねぇ~~。「バンビちゃん」でいいかしらぁ~」

 「・・・バンビ?」

 奈緒美「やっだぁぁぁぁ、バンビも知らないのぉぉ?!!」

 「・・・知ってますよ! どうして私がバンビって呼ばれなければならないんですか?って事ですよ!!」

 奈央がイライラしているのがよく分かった。


 奈緒美「だってぇぇぇ。中学生のおこちゃまだものぉぉ~~ うふふふっ♪」

  奈央は、プイっと横を向いてしまった。

 奈緒美は、その様子を見たあと、また鏡を見つめながら話し始めた。


 奈緒美「それと・・・私は、誘ってませんから。」

 『・・・え?』

 奈緒美「さっき、おばさんが「誘って下さってありがとうございました」なんて言いましたけど、私は誘っていませんから勘違いしないでくださいね」

 『は、はぁ・・・』

 社交辞令をわざわざ否定するなんて・・・

 奈央を子ども扱いしているけれども、奈緒美も十分子供ね・・と景子は思った。

 
 奈緒美「じゃあ、そういうことだから、ヨロシクね!!」

 そう言い放って「ナオ」は先に出て行った。

 「・・・ヨロシクって・・どういう意味?」

 奈央は困惑していた。

 『さぁ、行きましょう』

 ヨロシクの意味を雰囲気で理解できていたが、それをわざわざ奈央に伝える必要はないなと景子は思った。


 ー☆ー☆ー☆ー☆ー


 奈緒美に続いて駐車場に行ったら、メンバーはすでに車に乗っていた。

 助手席の窓が開く

 『あ・・・久保田です。今日は・・・』
 
 千葉「あ~~、そんな堅苦しい挨拶は抜き抜きっ♪♪ うしろから乗ってくださいね~~~♪」

 千葉の明るいテンションが景子を少しホッとさせてくれた。


 景子は笑顔で後部座席のスライドドアを開け・・・   


 ・・・・開かない。

 『あ・・・あれ?』

 今の車はハイテクだから開け方が違うのかしら・・・と景子はあせった。

 首をかしげながらカチャカチャとドアを開けようとする。

 おかしい・・・と思い、ふと上を見上げた。

 視線の先には、中から冷ややかに景子たちを見下げる奈緒美の姿があった。


 『!!!』

  びっくりして、景子は目を見開いた。


  今日の芋煮は、快晴のもと大嵐になる予感がした景子であった・・・
 
 


  続く  
 


 小山です。すっかりスローペースですみませんっ。・゜・(/Д`)・゜・


 しかも、今度の更新は再来週以降になる予定です ガ━━━(゚ロ゚;)━━ン!!


  本当にすみませんです・・・il||li _| ̄|○ il||li

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 はじめにお読みください




 2003年10月


  仙台の町並みもすっかり秋模様となった。
 
  ・・・とは言ってもまだまだ過ごしやすい日が続いている。


 「でも朝は、だんだん涼しくなったね~~。 また寒い冬が来るんだ・・・」


  奈央が身震いをした。


 『そうね・・・そして、この冬が過ぎたら・・・』

  景子がニヤニヤと奈央の顔を覗き込む

 「受験!!受験でしょ?!!分かっているよ!・・それにしても、子供の将来をたった一日で決めるなんて・・受験って酷よね・・・」

 『お母さんもみんな通ってきた道なのよ。』

 「わかっていますよ!!でも、お母さんみたいにナンバースクールには行かないからね。背伸びしてレベルの高い学校に行っても苦しむだけだもん。」

   奈央は、隼人のおかげで「ナンバースクール」と呼ばれる仙台の伝統校にも手が届く位置まで来ていた。しかし、仙台で生まれ育っていない奈央にとってはどうでもいいことなのだろう・・・

 「隼人さんはすごいなぁぁぁぁ。学校に通いながらバイトをして・・・お母さんって全然家に帰ってこないって言うから、もう一人暮らしをしているのも同然だし・・・」

 『そうなんだ・・・』

  景子はびっくりした。 と同時に隼人の事は全然知らない事に気がついた。

  隼人は、本当につかみどころのない男性だ・・・ということは分かっている。

        近づいたかな、と思えばすぐに離れる。

  もともと寡黙ではあるが、それ以上に考え込んで自分の殻に閉じこもってしまうことも度々ある。

  近づけば苦しむのは分かっているのについつい惹かれてしまう・・・。40を目の前にしてもまだまだだな、と景子は笑ってしまうのであった。



ー☆ー☆ー☆ー☆ー


 『’ こんばんわ・・・ ,』 

  隼人がやってきた。 明らかに様子がおかしい・・・。


 『こんばんわ・・・ 隼人君、大丈夫?』


 『’・・・え、何がですか?,』

 『えっ・・・ううん・・・なんか、調子が悪いのかな・・と思って・・』

  隼人は答える代わりに目を伏せた


  もう、この話題には触れないでといわれたような気がして景子は口を閉ざした。



 「あっ、隼人さんおっそ~~~い!! ・・・どうしたの? なんか元気ないねぇぇ」

   と、奈央は隼人の肩を叩いた。

 
   そんな奈央に改めて景子は驚いた。

  と同時に、この無鉄砲に・・・相手のなかに入り込める奈央をうらやましくも思った。



  ー☆ー☆ー☆ー☆ー


 「ね~、お母さん、隼人さんね、アパート追い出されちゃったんだって。」

  奈央が大声で景子に話す。  その事にびっくりして隼人は食べかけのご飯を噴出してしまった。


 『’・・・な、奈央ちゃん、その話は・・・,』

  景子に内緒で・・ということで、勉強していた時に
奈央に相談していたのだ・・・。

  そのことに少しショックを受ける景子。

  「あら、いいじゃない!! 今、バイト先の先輩のところに居候しているんですって。どっちのほう?」

 『’どっちのほうって・・・ よく声優の真似をする方・・・ でも、今、ちょっと用事があって実家に帰ってるんですけれども・・・。 ,』
 
 『そうなの・・・』

 『’ですので心配なさらないでください。 大丈夫ですから・・・。 ,』

  まだ高校生なのに・・・ 学業以外のことでこんなにも苦労しているのに・・・

 心配させてほしいのに、それを拒絶されて景子は暗い気持ちになった。


 「あのね、住むのにいい場所があるんだけれども~~~。 どおですか???」

 『’・・え?どこ?,』

  隼人の問いに奈央は笑顔で答えた。


 「えへへへっ。ここ~~~~♪♪♪」

  奈央は両手で床を指差す。

  はぁ・・・と隼人と景子は奈央から目をそらした。

 「なんでなんで? だってさ、もうこうやって一緒にご飯を食べているし・・・いいじゃんいいじゃん。」

 『奈央、さすがにそれはいけないわよ・・・』
  
 『’そうだよ。さすがにそれは・・・,』

 「いやだっ!おかあさん!! そうじゃないってば!! ここよここ!!」

  奈央がまた床を指さす。


 『だから・・・ 同じ部屋は・・・ あっ。 もしかして・・・』


  奈央はにた~~っと笑う。


 「ここの下の部屋、空いているんだよね。ここの下の階の部屋は一人暮らし用だから、1Kで隼人さんにもちょうどいいと思うし・・・」

 『そうね・・。 確かに。』

 「そりゃあ、ちゃんと家賃をもらいますよ~~。 商売ですから♪」
 
 『’・・・っていうと???,』

   奈央は、手をスリスリしながら景子に言った。


 「ね~~。 大家さん。 どうですか? 空き部屋を解消させるのも大切なこと・・なんだよね?!」

 『・・・そうね・・・。 あ、ここのアパートは、私の親が所有しているの。 だから入ることができるわ。』

 『’そうなんですか・・・,』

 「だから、隼人さん、住もうよ♪♪♪  ねっ。」

 『’・・いや、そういうわけにはいかないよ・・・,』
 
 「そんなぁぁぁ!! だって、じゃあどうするの?いつまでも先輩のところにお世話になるわけには行かないんでしょう?」

 『’・・・そうだけれども、これ以上お世話になるわけには・・・・,』

 「何言ってんの?!! 全然お世話してないよっ!!」

 『そうよ、隼人君。今まで何にもお世話していないわ。 お世話になっているけれども・・・』

 「そうだよ!! いつも勉強を教えてくれて、本当に成績が上がったんだよ!!」


 『それにね、隼人君・・・

   この前、ある人が言っていたの。 日本人は、大切なものを失っているって。

  日本人はなにより和を重んじてきたんですって。情とね。』


 『’ 情・・・? ,』


 『そう。 おしょうゆやお味噌が切れたらお隣に借りに行く。 テレビを見させてもらう。電話を借りる。 ご近所さんが助け合って生きてきたのよ。』


 「あ、それ、聞いたことがある♪」


 『うん。 親切にされたからって、何も金品だけで礼をしなくてもいいのよ。情でお返しするっていうのも通じたのよ、昔は・・・・』


 「情でお返し・・?」


 『そう。私は、・・・私を含め、今の日本人って、親切にされた時にどういうリアクションをすればいいのかって・・・・そこのところがすごく苦手になったような気がするの。他人に甘えるというかな・・・・。』


 『’他人に甘える・・・,』


 『そうよ、その人が甘えていいよって手を差し出したら、思い切って甘えてもいいのよ。 その代わり、その恩をいつか返してくれれば・・・ ううん。 手を差し伸べるほうは見返りなんて思ってはいないけれどもね・・・』

 「そうだよ!! 隼人さん。 突っ張らないで受け止めてよ!!」


 『’・・・他人に甘える・・・

  そんなことが許されるのでしょうか? 
 

  僕は、小学生の時に祖父母を亡くしてから他人にも・・・母にも甘えず一人生きてきました。 そうしなければ、生きていけないと思ったからです。

  ですので、正直、甘え方を知りません。 甘えたら、自分が壊れると思っています。,』


 「そこがおかしいよ・・・」


 『’おかしい・・・? おかしいかもしれないけれども、そう思わなければ孤独につぶされて死んでしまったかもしれない・・・。 ご両親の愛情をたくさん受けて育った奈央ちゃんには分からないよ。,』


 「それは・・・ そうだけどさ・・・」

   奈央は、うつむいてしまった。


 『隼人君・・・ 亡くなったおじいちゃんとおばあちゃんにたくさん愛情をもらった?』

 『’はい。,』

 『そして、たくさん甘えられた?』

 『’はい。生きていた頃は・・・,』

 『じゃあ、大丈夫!!』

 「大丈夫・・?」
   奈央が顔を上げる。

 『うん。隼人君は、甘え方をちゃんと知っている。 あとは、私たちをもうちょっと信用してくれれば、きっと大丈夫。』


 「隼人さんっ!奈央のこと信用してなかったんですか?!!」

   奈央が隼人を睨む。  隼人が一瞬ひるむ・・・。

   少し場が和んできたのを景子は感じた。


 『奈央も私も隼人君に甘えてほしいと思うの。だって、私も奈央もすっかり隼人君に甘えているんだもの。』

 『’・・・甘えている?,』

 『そうよ。 隼人君が来てくれるだけで、安心しているのよ。 どうしても女二人暮らしだといろいろと物騒だわ。だから、私たち母娘にとって、すごく大きな存在なのよ。』

 『’そうなんですか・・・,』

 「そうそう!本当に甘えているんですよ~~。」

  奈央は、隼人にスリスリし始めた。


 『だから、遠慮しないで、もう少し甘えることも覚えてほしいの。 大人になるためには必要な要素よ。』

 『’甘えることですね・・・ 少し考えてみます。,』




 ー☆ー☆ー☆ー☆ー


  数日後、隼人が下の住人になることが決まった。

 とはいっても、未成年であるし、母親とは連絡が取れないということなので、正式な契約は交わさないこととした。


 「だって、隼人さんは、家族同然ですもの~~。家賃も無しよ!!」

  奈央はかなりウキウキだ。

 祖父「ただ、一時的なものじゃからな。 特別じゃよ。」

 「はぁ~~い ありがとうおじいちゃん!!」


   隼人との新しい生活・・・ どうなるものか、全く予見できないが、少しでも隼人の壁が低くなれたら・・・と願う景子であった。


     続く
  

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 はじめにお読みください


 


 トメ吉が救急車で運ばれた・・・


 景子は、何ともいえない不安に駆られた


 「今ね、家族の方から連絡を受けて病院に来ているの・・・。とにかく、お嫁さんが動揺しちゃって・・・」

 『はい・・』

 「それでどうしようもなくなって、息子さんが私に電話をくれたんだけれども・・・」

 『それで、トメ吉さんの容態はどうなんですか?』

  景子は、たまらず質問する。


 「あ・・・あのね、脳の方や、心臓の方ではないんですって。」


 『あぁそうなんですね・・・。』

  脳卒中や、心筋梗塞などではなくて少しホッとする。


 
 「ただね、かなり悪いわね・・・ 原因はよく分からないんだけれども、敗血症を発症している恐れがあるんですって。 まだ敗血症ショックまではいっていないらしいんだけれども、なにせ体力が落ちているから・・・」

 『敗血症・・・ですか・・・』

  敗血症は体の中に細菌が入って、いろんな症状をきたす恐ろしい病だ。
 


 「敗血症ショックまで移行した場合、死亡率は40%にもなるわ・・・」

 『ええ。』
  ええ・・と答えながらも、40%の高さに改めて愕然とする。



 もし、死神に「この箱に10個ボールが入っています。そのうち、6個は当たりなのでこのままですが、残り4個を引いたらすぐに命をいただきます」と言われたら・・・

 そう考えると、私だったら怖くて引けない・・・




 「あとは、トメ吉さんの生命力・・・体力ではなくて生命力次第なんですって・・・」

 『そうなんですね・・・』

  トメ吉は、戦火を生き延び、今まで生きてきた。
  その生命力、精神力を信じるしかない・・・。


 「それだけ久保田さんに伝えたかったの。 私は今日このまま病院にいるから・・・

  ・・え?病院に?ううん。ご家族の方も疲れきっているし、お見舞いは・・・」


  景子もトメ吉の元へ・・・ってい嘆願したが、和子の言葉を聞いて遠慮することにした。





  景子は切れたケータイを見つめながらトメ吉の言葉を思い出していた・・・


  「戦火から生き延びて命さえあれば何とかなる・・・と思ってやってきたが、今は・・・

  ・・・この現実よりも幸せな場所がある・・そう思えるようになっておるよ。」


   だめよ!トメ吉さん!!まだやらなくてはならないことがあるでしょう!!

 マドンナに逢うまでは。。。  


  

  景子はただ祈るしかなかった・・・・。



ー☆ー☆ー☆ー☆ー


 それから    一週間後・・・・



  トメ吉さんは、静かに旅立ちました。




  家に戻ることも・・なく




       

   少しさみしいけれども

     「そこ」がトメ吉さんの「幸せの場所」なら・・・・




  いつか会いに行きますからね・・・   トメ吉さん・・・・








 
 ー☆ー☆ー☆ー☆ー


 「・・・久保田さん、なに感傷に浸っているの?」
 
   和子が景子の顔を覗き込んだ

 『・・えっ?!! あ、 あの・・・トメ吉さん元気かな~~と思いまして・・・』

 「あ、久保田さん、トメ吉さんから葉書が届いているわよ」

 『えっ!本当ですか?!!』

  景子は和子から葉書を受け取る。

 そこにはトメ吉の字でこう書いてあった。



 
  すずらんの皆様  お元気でしょうか?


  小生は、施設にもすっかり慣れて、毎日楽しく暮らしています。

 
  また家族と一緒に暮らせるようにリハビリにも励んでおります。


  皆様も御身体に気をつけてください。




  『トメ吉さん・・・』
 

  「トメ吉さん、いつかマドンナに逢う!という思いが、病気をはねのけたのね。」


   葉書を横から覗きながら和子が言った。

   よく見ると、追伸があった。



 
  追伸

   麗しの君と同じ空気を吸うだけで幸せ

   生きているだけで丸もうけ








ー☆ー☆ー☆ー☆ー


  「でも、佐伯さんすごいですよ~~!ケアマネさんと話し合って施設への入所の段取りをつけていたなんて!!」

   博美がやってきてつぶやいた


  「ま、それだけだったら簡単だったんだけれどもね・・・
   ただ施設に入れただけじゃあ、トメ吉さんは余計落ち込むわ・・『姥捨て山・・ついに捨てられたか・・・』ってね」


  「気丈な分、落ち込むと大変なんですよね・・・」


  「そうそう。それに、やっぱりトメ吉さんの夢のお手伝いをしたいじゃない? 二つの願いを叶えさせるためにはここしかなかったのよ。」


  『二つの夢・・・?』


  「そう。一つは、マドンナに逢うこと。 マドンナに逢うのは難しいかもしれないけれども、マドンナが生まれ育った街で暮らしたら、それだけで嬉しいと思うわ。」


  景子は消印を見た。


  気仙沼  と書いてある。


  そう、マドンナの出身校は、鼎が浦高等女学校。 鼎(かなえ)が浦とは聞きなれないが、気仙沼湾の別名だそうだ。
 
  
 「そしてもう一つの夢・・・  また再び家族と「生活をする」ということ。」

 『生活・・・ですね。』

 「そう。排泄やその他自分でできるようになって、再び家族と過ごす・・・。そうなると・・・」


 『だから介護老人保健施設・・・なんですね?!!』


 「そう。老人施設にはいろいろあるわ・・・。そのなかの一つ、介護老人保健施設・・・「老健」は、介護が必要な方がリハビリを行い、再び自立した生活を戻れる事を目的とした施設よ。
 再び家族と過ごせるようにPT・・・理学療養士が、一人一人のプランを立ててリハビリをする・・・」


 『ええ。』


 「リハビリは、簡単じゃ意味がないし、厳しすぎると体を壊すわ。本人にとって少し辛い・・ところで行われる。
だから、リハビリは辛いかもしれないけれども、絶対トメ吉さんならやり遂げると思うの。」

 『はい!私もそう思います。』
  景子は月月火水木金金を歌っていたトメ吉の姿を思い出した。


 「老健のほうも、なかなか空きがなくてね・・・それで遅れてしまったけれども、何とか間に合ってよかった。 お嫁さんのほうも、なかなか首を縦に振らなかったんだけれども、今回の騒動ですっかり弱くなってしまったわ。」

 『葉書を見るところ、お元気そうですし・・・本当に良かったです』
 
 葉書をもう一度眺める。

 絵葉書には、白と赤い花がきれいに咲いていた。


 いつか、気仙沼に行こう・・・ トメ吉に会いに行こう・・・と思う景子であった。





             第二章    完