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Tower Of Pain

積み上げた痛みの塔。一つずつ箱を開けて降りていく。分別奮闘記。

「会いたい」













無性に会いたくなる時がある。


会っても仕方ないけれど。


会えば負担になってしまうから。


きっとただぁたしが甘えるだけで


何もしてあげられないから。












けど、会いたくてたまらなくなる。


声が聞きたくてたまらなくなる。













彼にプレッシャーを与えたくなくて


素直に会いたいと言えないでいる時がある。


ハードルを上げてしまうような気がしてしまう。













そして


そっとしまいこんで


平気だょって笑ってしまう。













本当は会いたくて


傍に居たくて


抱きしめてほしくて


そして


抱きしめたくて


仕方がないんです。


あなたが愛おしくて


仕方がないんです。













会いたい。

「ただ生きていてさえいればいい」













母が最近不安がる。


ある出来事について


「ハッキリ思い出せない…」という。












それは特別ショックな出来事ではなくて


些細な


日常の他愛もない出来事がほとんど。


例えば


兄の誕生祝をしたかどうか曖昧になって


使ったロウソクを見るまで確信が持てなかった。


毎週火曜・金曜のゴミの日を


思い出すのに少し時間がかかった。


仕事で10年間やってきた


計算法をとっさに思い出せなかった。














私たちの年齢では


些細な、たかが物忘れ。


母にとっては少し恐怖だったようで。


「痴呆かなぁ…」と伏し目がちに笑った。













考えることや覚えておかなきゃいけないことが


一人の人間である母には多すぎて


キャパオーバーなんよ、


そう笑って励まそうとしたけれど


目を見ることができなかった。


私にとっても恐怖だから。












大手術で軽い脳梗塞を起こした祖母。


最近痴呆が進んだように感じる。


「生きてさえくれたら、ボケても…」


そう言って周りは祖母の命を優先したけれど


実際問題、


痴呆が進み始めると


周りの態度は少しずつ変わっていった。


そんな様子を見てきたからこそ思う。













たった一人しかいない母。


生きてさえいてくれたら痴呆なんて。


ただ、生きていてさえくれたら。


だけど、支えて一緒に生きていくには


目の当たりにしたあの人たちのように


私もなっていくんだろうか?


怖い。


家族を愛せなくなるのが怖い。


疎ましく思うことが怖い。


何かが変わってしまうことが怖い。














朝起きて、母は言う。


「最近、寝ても疲れがとれへんねん」


同じようにそう言って間もなく、


脳梗塞で倒れ


帰らぬ人となった母の友達がいる。













母は死なない。


子どものころからそう思っていた。


けれどいつか終わりが来る。


だけどそれはまだ先のこと。


誰だってそう思うんだろうな。













ただ、ただ、


生きていてさえくれたらそれでいいよ。


ぼけたっていいよ。


疎ましくなんて思わない。


きっと。

「自分の速さ」












就職して3年目。


中堅から受けた、いじめにも似た圧力。


その圧力は相手が退職するまで続いたけれど



誰かに言えば「被害妄想」と片付けられかねないほど



尻尾の掴めない物だった。


だけど私は人に恵まれてたな…。













寄り添ってくれる同期が居た。


私を「強い」と言ってくれた。


慰めてくれる先輩も居た。


「話聞くしか出来んくてごめんね…」と言ってくれた。


3年目にしてやっと打ち明けることができた上司。


中堅がもしも戻ってくることがあれば、


私は無責任だけれど、即退職します、そう伝えた時


「どっちを取るかと聞かれたら、迷わず君を選ぶ」と言ってくれた。


「全力で守る」と言ってくれた。














私は、心の病気にはならなかったけど体調に現れた。


自律神経失調症。


けれど、実際の症状は


平衡感覚と聴覚、体温調節に少し異常があるのみ。


日常生活に支障はなかった。



誰にも言わなければ、気付かれない。


けれど、職場の先輩が声を掛けてくれた。














「大丈夫?最近笑ってない気がする。」













打ち抜かれるような衝撃と共に


じんわり、あったかいような気持ちになった。


誰かが私を見てる。


ひっそり、目立たないように、


標的にならないようにしてた私にとって


それは恐ろしい注目ではなくて


あたたかい注目だった。














少しずつ、少しずつ話し始めた。


先輩も同じ病気の持ち主だった。


同じように言わずに過ごしてきた人でもあった。


翌日、わざわざ私の所まで来た先輩。


「あのね、プレゼントがあるねん。」













差し出されたのは、


326(ナカムラ ミツル)の絵と詩だった。


誰かの速さに合わそうとしていた自分。


注目されないように


周りの速さに合わせていた自分。


意見を言わず、顔色を伺って、


嫌われない人間になろうとした自分。


疲れていた。


笑えなくなっていたことに気付かされた。














先輩。


私は今、仕事が楽しいと思えます。


苦しいことも疲れることもあるけれど


今、すごくすごく、充実してます。


自分らしく、自分の速さで歩き始めています。


先輩のハンマーソングのおかげで、開いた箱。


























・以下、326詩。














急ぐ必要はない。


君の速さで歩けばいい。


君が君でいる事が何よりも大切なんだから。