成年被後見人とは。
成年被後見人とは。民法第7条、8条によると、成年被後見人とは「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあり」かつ「家庭裁判所に後見開始の審判を受けた者 」と定義されています。事理を弁識する能力とは何かですが、 自己がある行為をするとして、その行為の内容を理解し、またその結果を予測して行えるかどうかの判断能力のことです。たとえば彼は500円を持って町に出たとしましょう。お腹がすいたところに、ちょうど300円のパンが売られていました。・・・買えます。ただし買ってしまえば財布の中身が電車賃に足りなくなり、帰りは歩きとなってしまいます。よしんば300円のパンを購入することにより帰りは歩きとなってしまっても、彼がそれを認識し理解したうえで「こう行動する」と判断を下したのであれば、彼には事理弁識能力あり、ということになりましょう。そうした判断能力のことを民法では「事理弁識能力」という難しい言葉で呼んでいるわけです。そして条文の中に「常況」という文字が見えますが、これは誤字ではなく「ふだんのありさま」という意味として用いられる言葉です。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」 とは、すなわち精神上の障害により「そうした判断能力」を欠いている状態であることそれがベーシックな態様である方々を指します。そして「そうした判断能力を欠いている状態であることがベーシックな態様である者」のご本人様や親族様などは、彼が 「成年被後見人」たる認定を受けるために家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てることが可能なのです。これは彼を、法律的な保護を受けられる立場に置くことが狙いです。もちろん義務ではありませんが、そうすることがベターです。なぜなら、事理弁識能力に欠ける常態である彼が、パンの購入よりもさらに大きな経済的な取引の場面に直面したとすれば・・・これは大変な事態を招きかねません。事理弁識能力がないのに、ないからこそ、多額の借金を何時の間にか背負うことになるかも知れません。使いもしない高額な商品を購入する契約を、誰かと結ぶかもしれません。危険です。少なくとも本人も、周辺の人々も、常にそういった心配や不安を抱えて過ごさざるを得ません。不安でありかつ実際に危険であるがゆえに、少なくとも法律的に彼を保護、支援しやんとするための制度を「民法」は用意したわけです。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」である彼を保護、支援するための制度。それがいわゆる成年後見制度なのです。成年被後見人は、未成年と同じく「制限行為能力者」という枠組みに分類されます。このカテゴライズはどうしても「行為能力を制限されてしまった人」というネガティブなばかりのイメージをもたらしがちですが、実際には「成年被後見人」という、ある意味で身分か立場を、家庭裁判所に付与してもらう・・・というイメージの理解で差し支えありません。なにも物理的な意味あいで、彼がとりうる行為を制限、拘束されてしまうということではないのですから。民法第9条成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。 民法第120条行為能力の制限によって取り消すことができる行為は・・・以下略。本人保護たるこの制度の趣旨の、そのもっとも具体的な形がこれらの条文にあらわれています。すなわち成年被後見人や後見人に、成年被後見人がした法律行為の「取り消し権」という名の権能を与える、という形で、民法は「本人保護」をはかっています。さすがに「300円のパンを買った」であるとかの日常的な法律行為の取り消し権を相手方に行使することはできませんが、「いつの間にか自動車を買う契約をしてしまった・・・」といったような場合には、本人または後見人は、契約の相手方にその契約の取り消しを求めることができるというわけです。この事象を別な角度から眺めると、成年被後見人のした法律行為は、常に取り消し可能な・・・つまり生煮えの法律行為に過ぎない、と見えます。「なかったことにできる約束しかできない」それが成年被後見人と呼ばれる方々です。「でも、だからこそ、なかったことにできる」それも成年被後見人と呼ばれる方々です。そして、そういった表裏的な方法論により保護されうるのが成年被後見人ひいては制限行為能力者であるかぎり、不安定な立場に立たされる者が存在します。「契約の相手方」です。たとえば認知症により成年被後見人となった人でも、一時的にでも症状が回復する瞬間がないとは言い切れません。それでも「常況」として認知症であることによって成年被後見人たる認定を受けている限り、一時的に回復した瞬間であってもその人はやはり成年被後見人のままです。そして一時的に回復した瞬間にその人が「高級車を買おう」と思うことも、ないとは言い切れません。一時的に回復していて”普通”の人に見えたからこそ自動車を売ることにしたのだから・・・・後から売買契約を取り消すなんてヒドイ、という販売業者(契約の相手方)側の主張は通らないのです。ある意味でそのために「この人はいつだって成年被後見人」と、家庭裁判所の認定を受けているわけでもあるのですから。お客様が成年被後見人だと最初からわかっていたら・・・。「契約の相手方」の側に常に生まれる思いは、これでしょう。なので「契約の相手方」にとっての取引上の安全を企図した制度も存在します。が、それはまた別の記事として説明させていただきます。ひとまずは成年被後見人とは・・・の説明でした。