REAL ME -261ページ目

人の眼を見て怖いと感じたのは初めてだった。

その人の瞳は灰色で鋭く、そして濁っていた。

その他は何の変哲もない三十代後半の男性だ。


気のせい。
一旦はそう考えた。


でも明らかに彼の眼は普通ではなかった。
例えるならまさに蛇そのものだった。


私は施術を受けている間中、彼の口から細長い赤い舌がちろちろと出て来ないことを願った。



その場を何とか凌いだ私は二度と彼の元を訪れなかった。



彼はきっと蛇に違いなかった。


あれから7年。
今だにあの眼が脳裏に焼き付いて離れない。



また今日もくだらないテレビ番組が延々と流れてる。
ただ無音と孤独感を掻き消すためだけについている電源。

もちろん興味を引くものなど何も映し出していない、いつものことだ。


私はやたらと騒がしい部屋で本を開く。

これもいつものことだ。



でも、
その日は何かが違ったんだ。

何故か、ふとテレビの画面に目を移した。




私は一瞬で目を奪われた。

画面の中では“彼”が悲痛な叫び声をあげていたんだ。

私の中の何かと彼の叫び声が一瞬共鳴して、私の心臓は一気に締め上げられた。


目を逸らすことも出来ずに私は彼を見つめ、彼の叫び声に耳を傾けていた。





私は一瞬で恋に落ちた。



薄暗い廊下
薄汚れた緑色の壁、天井、床
どこまでも続いている


あまりにも長い為か、前方も後方も霞んでいて良く見えない


嫌な湿気が肌にまとわりつく
肌寒い空気の中で汗ばんだような不快感を覚える





いつまでここにいるのか


歩きだす気も湧かないのは先が見えないからだろう

もうどちらから歩いて来てどちらへ歩いて行けばいいのかも分からない


どこかで水の音がする

もうどれくらいここに立っているかも分からないが不思議と空腹感も無ければ喉も渇かない




それよりこの窓一つない穴蔵のような場所がほんのりと明るいのは何故だろう




今はただ、何も考えずにもう少しこの場所にたたずんでいよう