500冊!読む!(85)
- 奥野 修司
- 心にナイフをしのばせて
『更生』とは何か?それを深く深く考えさせられる名著。
事は、1969年に起きた高校生の同級生殺害事件から始まる。
少年Aが、放課後の帰り道で加賀美君を滅多刺しにして殺害。
警察の解剖所見によれば,胸部12ヶ所、背中7ヶ所、頭部12ヶ所、
顔面16ヶ所の計47ヶ所を刺し、鎖骨下の動脈も切断されていた。
駆けつけた先生の証言によると、首が胴体から10cmほど離れていて、
つつじ畑のあぜ道に転がっていた。
そしてこの加賀美君殺害に端を発し、加賀美君の家族(母、父、妹)はほぼ内部分裂。
母は精神疾患、妹はリストカットと時とともに、どんどん崩壊していく。
しかしこの遺族に加害者家族がしたことは、払わなければいけない
慰謝料の700万余円を40万ほど払ったところで踏み倒し、
少年Aの父は他界。
けれど少年Aには返済義務が無いので、そのお金は払われることは無い。
遺族も「Aも社会的制裁を受けているはずだし、何よりお金では戻ってこない。」と言い、
むやみに請求しなかった。Aに接触することで事件を思い出すから、関わりたくないと
考えていたのかもしれない。。。
しかし、少年Aは少年法の庇護の元、国家から無償の教育を受け、
少年院を退院したあと国立大学に入り卒業し、また大学で勉強しなおしたのち、
地元で名士と言われるぐらいの、弁護士になっていた。
かたや、息子(兄)が殺されて一家離散状態。
(余談だが、初めは殺害された加賀美君の母にインタビューしていたが、
事件後3年間の記憶がほとんど無いというので、妹にインタビューして書かれている。
実は母は、事件後3年間ずっと24時間食事をする時以外寝たきりで過ごしていた。)
かたや、少年法で前科無しで少年院を出て、過去を完全に消し去り
弁護士になった少年A。(ちなみに、遺族に対しての謝罪は無し。墓参りにも行っていない。)
現状の少年の更生という観点では、とてつもない大成功だろう。
だが大成功の裏には、被害者の数多くの苦しみや悔しさがある。
これは『更生』と言えるのだろうか・・・。
非常にミニマムな話になって申し訳ないが、
芸能人に昔はこんなに悪かったみたいに武勇伝みたいに話す奴が居るが、あれ何?
今が立派だからといって過去を清算出来ているというのは、
被害者側からの視点を全く排除された、幻想のだと思うのですけど。。。