4月5日
4月5日。
ほぼ全ての荷物を運び終わり、僕は、
電話で呼ばれ、実家に迎う。
母と祖母だけが残っていた。
父と話をする前に、祖母が挨拶ぐらいしていくと、
「今まで、ありがとうございました。今日から出ていきますのでお体には気をつけて、それでは」
声は震え、擦れていた。
祖母にも抑えきれないほどの思いをこの一言に乗せていたのだろう。
祖母が新居に向かい、父、母、僕での離婚協議が始まる。
淡々と僕は協議内容を読み上げる。
感情のない、ニュースでも棒読みするような口振りで。
父は罵声も何もない。
こちらが拍子抜けするほど感情を出さず。
ただ聞き、事務的に終わらせた。
母も拍子抜けしていた。
全て終わり。新居で落ち着く。
しかし、僕は父の姿が逆に僕の裏切りを見て何も言う気がなくなった。
というように見えて仕方なかった。
後ろめたさがそうさせた。
そういえばそれまでだが。
新居では、
「さすが長男やな」
「やる時はやるな」
「さすが頼りになるわ」
と、皆を心配してくれていた伯父や伯母に誉められる。
僕はありがとうとも何も言えなかった。
うなずくしかしなかった。
何も良いことなどしてない。
表面上助けたというような良いことに見えるかも知れないが。
ただ一人の人間を裏切ってこれから始まる孤独な人生に落とし込んだだけ。
人を無表情で淡々と裏切っただけ。
平気な顔で、実の父親の離婚届に保証人として記名しただけ。
何を良いことしたのか。
ただ、母達にとっては本当に良かったと思わせてくれるほど、安堵の表情を見せてくれる。
本当に解放されたような顔つきをみせてくれた。
ほぼ全ての荷物を運び終わり、僕は、
電話で呼ばれ、実家に迎う。
母と祖母だけが残っていた。
父と話をする前に、祖母が挨拶ぐらいしていくと、
「今まで、ありがとうございました。今日から出ていきますのでお体には気をつけて、それでは」
声は震え、擦れていた。
祖母にも抑えきれないほどの思いをこの一言に乗せていたのだろう。
祖母が新居に向かい、父、母、僕での離婚協議が始まる。
淡々と僕は協議内容を読み上げる。
感情のない、ニュースでも棒読みするような口振りで。
父は罵声も何もない。
こちらが拍子抜けするほど感情を出さず。
ただ聞き、事務的に終わらせた。
母も拍子抜けしていた。
全て終わり。新居で落ち着く。
しかし、僕は父の姿が逆に僕の裏切りを見て何も言う気がなくなった。
というように見えて仕方なかった。
後ろめたさがそうさせた。
そういえばそれまでだが。
新居では、
「さすが長男やな」
「やる時はやるな」
「さすが頼りになるわ」
と、皆を心配してくれていた伯父や伯母に誉められる。
僕はありがとうとも何も言えなかった。
うなずくしかしなかった。
何も良いことなどしてない。
表面上助けたというような良いことに見えるかも知れないが。
ただ一人の人間を裏切ってこれから始まる孤独な人生に落とし込んだだけ。
人を無表情で淡々と裏切っただけ。
平気な顔で、実の父親の離婚届に保証人として記名しただけ。
何を良いことしたのか。
ただ、母達にとっては本当に良かったと思わせてくれるほど、安堵の表情を見せてくれる。
本当に解放されたような顔つきをみせてくれた。
記憶
今、
僕は、
両親の離婚を形にするために、
養育費、年金分割等の誓約を記した離婚協議書を作成している。
文面は、冷たい、
条文で記されている。
キーボードを叩きながら、
冷たさとは正反対の温かい記憶が甦る。
家族の記憶。
家族全員で旅行に行った記憶。
しかし、僕の思いは錯綜する。
「温かい家族だった」
「かあさんは苦しんでる」
「親父だって悪い奴じゃない」
「このまま見過ごして皆に苦しい思いをさせ続けるのか」
「その後親父だけ苦しい思いをするかも知れないのに」
「皆の悲しい顔はもう見たくない」
「親父を裏切ってもか」
キーボードは止まる。
画面が、滲む。
「助けたい」
本当にこれが最良の選択か。
答えも見つからないまま最後の一文を打っていた。
4月5日 甲乙ともにこの協議書に異議のないことを証明する。
僕は、
両親の離婚を形にするために、
養育費、年金分割等の誓約を記した離婚協議書を作成している。
文面は、冷たい、
条文で記されている。
キーボードを叩きながら、
冷たさとは正反対の温かい記憶が甦る。
家族の記憶。
家族全員で旅行に行った記憶。
しかし、僕の思いは錯綜する。
「温かい家族だった」
「かあさんは苦しんでる」
「親父だって悪い奴じゃない」
「このまま見過ごして皆に苦しい思いをさせ続けるのか」
「その後親父だけ苦しい思いをするかも知れないのに」
「皆の悲しい顔はもう見たくない」
「親父を裏切ってもか」
キーボードは止まる。
画面が、滲む。
「助けたい」
本当にこれが最良の選択か。
答えも見つからないまま最後の一文を打っていた。
4月5日 甲乙ともにこの協議書に異議のないことを証明する。
鈍る決心
引っ越す家が決まったそうな。
安堵。
そんな感じだった。
あとは、僕がついて話をするだけ。
母は家財などはいらない、ただ弟の専門の学費とせめて引っ越しにかかる費用ぐらいあれば何もいらないという。
その話も僕がする。
その後のある夜、
仕事の為に借りていた実家の車を返しに行った。
車を停め切った時、
父が家から出てきた。
「仕事遅くまでお疲れさん」
他の家族ならまず有り得ない一言。
そんな言葉言うなよ。
そう思う。
大切な家族が傷つけられ、許せない気持ちは確かだ。
ただ、惨劇を目にするまで寡黙だが優しい父だ。
と、僕の中で感じていたことも事実で。
母への罵倒はダメな人間だ。
なんて思うことでおざなりに留まっていた。
「お疲れさん」
もしかしたら、
父は僕さえ自分の味方でいてくれたら良い。
そんな風に思っているかも知れない。
確かに僕が話をつければ父は独りになる。
その時は、裏切られたと絶望を見せることになるかも知れない。
人生も後半に差し掛かる一人に僕が
安堵。
そんな感じだった。
あとは、僕がついて話をするだけ。
母は家財などはいらない、ただ弟の専門の学費とせめて引っ越しにかかる費用ぐらいあれば何もいらないという。
その話も僕がする。
その後のある夜、
仕事の為に借りていた実家の車を返しに行った。
車を停め切った時、
父が家から出てきた。
「仕事遅くまでお疲れさん」
他の家族ならまず有り得ない一言。
そんな言葉言うなよ。
そう思う。
大切な家族が傷つけられ、許せない気持ちは確かだ。
ただ、惨劇を目にするまで寡黙だが優しい父だ。
と、僕の中で感じていたことも事実で。
母への罵倒はダメな人間だ。
なんて思うことでおざなりに留まっていた。
「お疲れさん」
もしかしたら、
父は僕さえ自分の味方でいてくれたら良い。
そんな風に思っているかも知れない。
確かに僕が話をつければ父は独りになる。
その時は、裏切られたと絶望を見せることになるかも知れない。
人生も後半に差し掛かる一人に僕が
