タイトル 海底から来た女
公開年 |
1959年 |
監督 |
蔵原惟繕 |
脚本 |
石原慎太郎 蔵原弓弧 |
制作国 |
日本 |
出演者
少女(筑波久子)鱶の化身
敏夫(川地民夫)別荘に住む青年
克彦(水谷貞雄)敏夫の兄
ガンちゃん(武藤章生)敏夫の友人
堤(内田良平)敏夫の近所に住む小説家
藤作(浜村純)漁師
婆や(本間文子)敏夫の家政婦
本作は、1958年の「文學界」10月号に発表石原慎太郎の短編小説鮫「鱶女」を原作にしたファンタジー映画。鱶の化身の女と孤独な青年との愛を描いた作品で、後にテレビドラマにもなっている。ファンタジー映画と分類したが、題材としてはホラー映画にもなりそうだが、怪奇描写は徹底的に抑え、特撮や特殊メイクすら施さずにひたすら恋愛譚として描いているのが特徴。日活は無国籍アクション時代の映画はかなり見たが、これはその前の映画で正直こんな映画があること自体知らなかった。アマプラでお勧めに挙がってきたので暇つぶしに見たが、意外と面白くて感想を書くことにした。
主人公の敏夫は海辺の別荘で婆や愛犬と過ごすヨットを愛する孤独な青年。対照的に兄の勝彦は、社交的で俗物的。二人の家庭に何やら事情がある様子だが、兄は仲間の悪ふざけから弟をかばおうとする程度には仲が良い様子。近所に住む小説家の堤は、敏夫に不思議な女と出会った事を話すが、要領を得ず敏夫は彼の頭がおかしいと思う。
ある時、敏夫は自分のヨットに見知らぬ女性が泳いできて、勝手にヨットにあがりこんでいるのに遭遇。黒いビキニだけを纏った女は、魚を生で貪り食べていた。た。その時から女は、繰り返し敏夫の前に姿を現すようになるのだが、女性の正体は謎のままだった。私なら「生魚をそのまま貪り食っている」という時点で、まともな人間でないと思うが、本作の敏夫はあまり気にしていない様子。
そのころ、漁村では漁師の青年が海で行方不明になったことで。村はその話題で持ちきり。その家では、かつて浜に現れたつがいの鱶の片方を殺したため、もう1匹の鱶に祟られていて、三代にわたって海で事故にあっていた。その時、村の長老が女を険しい表情で睨んでいる事に、敏夫は気が付いた。そして女も気が付くと、逃げるようにその場から立ち去る。
しばらくの間、女は敏夫のもとに来なくなり、友達に誘われて登山に出かけたる。その間別荘には兄の克彦が彼女を連れて泊まっていたが、そこに女が現れ敏夫が戻るまで留まるという。これを好機と考えた克彦は、彼女を返してヨットで海にでかけるが、その夜海が荒れ誰も乗っていないヨットだけが戻ってきた。
敏夫が別荘に戻ると、そこに女が戻ってくる。
一連の出来事から、漁師たちは敏夫にその女こそが鱶の化身であると忠告するが、敏夫は取り合わない。そこで漁師たちは、その女性を殺そうと、罠を仕掛けるのだった。
原作者の石原慎太郎は、今でこそ保守派の重鎮という認識だが、若い頃は作品に若々しい情熱や生々しい風俗描写、反倫理的な内容みなぎり、かなり反権力的だったことから賛否両論を巻き起こし、当時の“保守派”からは否定的な評価が下されていたが、今の視点で見るとその現象は面白く感じる。本作はまさに、その“ブイブイ”言わせていた頃だけに、怪奇とエロチシズム溢れる内容だが、インモラルな雰囲気をあまり感じないのは、主演女優の影響が大きいと思う。
映画comやアマプラに書いてある粗筋だと、本作のヒロインを「少女」としているが主演の筑波久子は後にハリウッドで映画プロデューサーとして活躍するが、この頃は日本で豊満な肉体と妖艶な容貌を生かしてヴァンプ女優として活躍していた。川地民夫は、青春スターとして売り出していた頃で、それだけに年上のお姉さまが童貞の少年を弄んでいる様に見えるが、二人はこの頃1歳違いでしかも川地の方が年上。とても「少女」と呼ぶには無理があるし、「全裸で魚を貪る」とあるが本作では全裸はおろか、セミヌードすら披露する事は無く終始ビキニ。それも現代では、デビューしたての清純派アイドルでさえ、もっと小さめのビキニを披露するぐらいのシロモノで、この辺りに時代を感じる。原作は読んでいいないが、恐らく原作だと「全裸」の「少女」だったのだろうが、この時代にそれを実現するのは不可能。もっと少女っぽさのある女優だと、全編水着での撮影は不可能だったろうし。従って映画comやアマプラの粗筋は、原作「鱶娘」の粗筋が流用されたものと思われる。ただ、石原慎太郎が脚本に参加しているので、それほど違いはないはずだし、尺が1時間強と暇つぶしに見るにちょうどいい。
色々と問題点はあるものの、日本時代の筑波久子の出演作の中では、主演だしなかなか雰囲気があって面白い作品。それに同じ原作を使い、今ならエロティック・ホラー・ファンタジーとしてもできそうなので、誰かリメイクしてくれないだろうか。
ちなみに筑波久子は59年には11本もの映画に出演している。ほぼ月一なので役作りはどうしていたのか。一度聞いてみたいものだ。いや、何も考えずに監督の言うとおりにやってたんだろうな。