タイトル 将軍たちの夜

公開年

1966年

監督

アナトール・リトバク

脚本

ジョセフ・ケッセル ポール・デーン

主演

ピーター・オトゥール

制作国

アメリカ

 

第二次世界大戦時下のドイツ軍を舞台にした、ドイツの作家、ハンス・ヘルムート・キルストが1962年に発表のサスペンス長編小説をもとに、映画化したものが本作。この手の作品あるあるだが、登場人物はすべてドイツ人という設定なのに、出演者の大半はイギリス人で、オマー・シャリフに至ってはエジプト人。しかも全員英語で話すという不思議設定。しかしなれとは恐ろしいもので、本作を見た当初はこうしたおかしさに特に気が付かなかったが、今見ると異様に見える。この頃のハリウッド映画は、クレオパトラでも、カエサルでも、チンギス・ハーンでも、ナポレオンでも英語を話すのは当たり前。いや、現代でもナポレオンをホアキン・フェニックスが英語で演じたりするから、今でも変わっていない。そういえば、同じドイツ軍を舞台にしたアメリカ映画「戦争のはらわた」でも、みんな英語で話していたし、恐らく当分変わらないだろう。だからと言って本作が面白くないという訳ではない。むしろ、名作と言ってもいいぐらい面白い映画だ。

意外とナチの軍服が似合うオマー・シャリフ

 

映画は3部構成で前半は第2次大戦中のワルシャワが舞台となり、中盤はパリが舞台。そして後半は第2次大戦後となる。そして3部とも主要登場人物はだいたい同じ。

第1部はドイツ占領下のワルシャワ。1942年なので既にロシア戦線ではスターリングラードで泥沼の攻防戦が繰り広げられていた頃となる。その東部戦線の武勇で知られたタンツ将軍が、レジスタンスの鎮圧の為部隊共度もやってくる。丁度その頃ワルシャワの安アパートで娼婦が惨殺される。よくある事件と思われたが、その娼婦はドイツ占領軍の密偵を務めていた事から、情報部のグラウ少佐が呼ばれる。少佐の厳しい尋問で、アパートの住民からドイツ軍将校が犯行後部屋から出てきたとの証言を得る。しかもその将校のズボンには赤いストライプが入っていた。赤いストライプが入ったズボンをはくのは将官しかいない。

グラウ少佐は当夜、ワルシャワにいた3人の将官に目星をつけた。

3人とも細部が微妙に異なる軍服を着ているところは芸が細かい

 

占領軍司令官ガプラー将軍、参謀長カーレンベルク将軍、赴任してきたタンツ将軍。

3人とも一癖あるが、特にタンツ将軍は変わり者として知られていた。少佐はタンツ将軍の歓迎パーティに乗り込み3人に直接疑惑をぶつける。カプラーとカーレンベルクは不快感を示し、翌日面会を願い出ても門前払いをくらわすが、タンツだけは好意的で翌日のワルシャワ治安作戦に同道を許す。意外な成り行きに驚く少佐だったが、更に彼を驚かせる事態となる。作戦中のレジスタンスによる些細な反撃にタンツは全部隊を挙げての反撃を命令。その為、ワルシャワの半分は焦土と化し、それをタンツは満足げに眺めていた。その様子に恐怖を覚えた少佐はその場を後にする。その件を上司に報告するが、カーレンベルクの差し金で、グラウは中佐に昇進の上にパリへの転勤が決まった。

如何にもナチの将軍と言った風情のピーター・オトゥール

 

このパートはタンツを演じるピーター・オトゥールの怪演が見もので、ワルシャワ市内の視察中に、おなかをすかせた孤児にサンドイッチを分け与える優しさを見せたかと思ったら、従卒の手の汚さに激怒し、サンドイッチを手から払いのける。更に最初は理性的に作戦を指揮していたのが、自分に向けられた1発の銃弾で市の破壊を命じるなどいかにもヤバいナチの将軍を見事に演じている。いつもはしっかり美味しいところを持っていく、ドナルド・プレザンスも本作はすっかり形無し。

今でもポーランドがドイツを良く思っていない事が理解できるシーン

 

ここから第2部で舞台は1944年のパリに移る。すでにノルマンディの連合軍は上陸し、日に日に戦況は悪化している。そんな中、ここでも娼婦の惨殺事件が起きグラウ中佐は、懇意にしているパリ警察のモラン警部に協力を要請。今回もガプラー将軍、カーレンベルク将軍、タンツ将軍3人ともパリに駐在していた。しかしカーレンベルク将軍らは、戦況の悪化を憂いて、ヒトラー暗殺を企んでいて、ヒトラーに絶対の忠誠心を抱くタンツの存在は計画に邪魔だった。そこで、無理やり休暇を取らせ、司令部から遠ざける事に成功する。タンツは従卒のハルトマン伍長を運転手にパリを観光するが、ハルトマンはタンツの異常さに気が付き、遂に娼婦を殺害するところを目撃。タンツはその罪をハルトマンに着せて自分は罪を逃れようとする。

事件が発覚すると、誰もがハルトマンを犯人と思うが、グラウは当日彼がタンツを案内していた事を知り、犯人がタンツだと確信し、彼の司令部に向かい逮捕しようとする。しかし、この日がヒトラー暗殺の決行の日だった。すでにタンツの逮捕命令が出て、パリの司令部から反ヒトラー派が逮捕に向かっている。それを知りつつグラウは、タンツの司令部に向かう。反乱軍に逮捕されるより、自分で逮捕しようとするが、そこにヒトラーは無事との報告が入り、タンツはグラウを射殺し反撃に向かう。

ここでもピーター・オトゥールは独壇場だが、ワルシャワ時代は国防軍だったのに、ここでは武装親衛隊となっている。ここが謎だったが、この際のタンツのモデルの1人がパウル・ハウザー武装親衛隊大将で、彼は陸軍中将として退役。その後、ナチスに魅せられ後に武装親衛隊の設立に大きく携わった。丁度この頃西部戦線にいて反ヒトラー派の逮捕に協力したことが背景にある様だ。ただ、この頃現場を無視した命令を繰り返すヒトラーにハウザーの忠誠心は揺らいでいたともいわれている。彼が武装親衛隊に入ったのは第2次大戦前であり、戦争中に鞍替えしたわけではない。これは親衛隊の将官のズボンには、赤いストライプは入っていないからワルシャワでは国防軍にする必要があったのだろう。

中心にいるのがロンメルで、演じているクリストファー・ブラマーは、同時期パリで「トリプルクロス」に出演していた

 

第2部で、ピーター・オトゥールに負けないほど異彩を放っていうのが、オマー・シャリフが演じるグラウ中佐で、一見すると正義感あふれるまともな人物に見えるが、ある意味タンツ以上の変人と言える。毎日のように戦場で人が死ぬ時代に、娼婦の殺人事件の犯人がドイツ軍の将軍という事で執着する。しかも将軍たちはヒトラー暗殺を企んでいる事を知りつつも、それに一切興味を示さず娼婦殺害の犯人逮捕に執着するが、彼にとっては娼婦の命などどうでも良くて、ただ表の顔に隠れた裏の顔を引きはがしたいという事に情熱を傾ける。その一方で、それとは別にタンツに人間としての嫌悪感を抱き、犯人が彼とわかるとほっといても間もなく逮捕されるのに、自ら逮捕に向かうというのは、相当な偏執狂と言える。

常に手袋を離さないところに、彼の神経質さが良く出ている

 

ただ本作で一つだけ残念なのは、特にミスリードもしていないので、早い段階で犯人が分かってしまう事。そして、割とあっさり決着がつく事だろう。実際本作が、戦争中を舞台とする必然性は前半のワルシャワ破壊以外あまりなく、あれも無ければ無いで成立する映画だ。ただ、あれが無いと魅力が半減する事になるだろうが。

 

ソ連製BTR-152がドイツ軍のSd Kfz 251を演じる

バックはT34改造のティーガー1型戦車。細部は微妙だが雰囲気はよく出ている

M24を改造したパンター戦車。これは「パリは燃えているか」に登場した戦車だが、この頃パリは第2次大戦を舞台にした大作映画のラッシュ。そこで、協定を作って小道具や衣装、戦闘車両などの貸し借りが行われていた。つまり本作は”パンター”と”ティーガー”が登場した稀有な映画となる