タイトル 原子怪獣現わる

公開年

1954年

監督

ユージン・ローリー

脚本

ルー・モーハイム フレッド・フリーバーガー

主演

ポール・クリスチャン

制作国

アメリカ

 

本作は、核実験で現代に蘇った恐竜と人間との攻防を描き、映画史上初めて核実験の影響を受けた怪獣が登場した特撮怪獣映画。この設定は翌年公開の「ゴジラ」をはじめ、数多くの映画に多大な影響を与えた。特撮部分をレイ・ハリーハウゼンが担当している。

原作は1951年にレイ・ブラッドベリが執筆した短編小説「霧笛」でブラッドベリ作品の映画化を企画し、早期に映画化の権利を取得した。と、公式にはアナウンスされているが、実はこれには裏があって、脚本製作中は「霧笛」にインスパイアされたという扱いだった。しかし、レイ・ハリーハウゼンが脚本を読んだ事で事態は一変。実はハリーハウゼンは、レイ・ブラッドベリと大の仲良しで、ブラッドベリに脚本を見せ意見を求める。当然のごとく驚愕したブラッドベリから、プロデューサーに抗議があり、慌てて原作権を買い取ったというのが真相。この頃の映画界のいい加減さが現れているエピソードだ。

ローランド・エメリッヒ版の「GODZILLA」は、実は本作のリメイクだったという説が聞かれるが、所謂都市伝説の域を出ない話だ。ただ、「GODZILLA」のプロデューサーのディーン・デヴリンは「当初はレイ・ハリーハウゼンの特撮映画をリメイクしようとしたが資金が出なかったため、ゴジラのネームバリューを借りた」という主旨の発言をしており、それが尾ひれをつけて広がったものと考えられる。

映画の冒頭、北極で核実験が行われ、その調査の為物理学者のトーマス・ネスビットが派遣されるが、彼はそこで巨大な恐竜のような怪物を目撃。当たり前だが、誰からも相手にされる精神異常を疑われ入院させられる。

しかしその間も海では、漁船が次々と沈没する事故が発生。生存者は一様に「怪獣を見た」と証言するが、相手にされないのはトーマスと同じ。そのうち、遂に灯台が襲われ嵐も地震もなかったのに破壊されてしまう。ここが有名なレイ・ブラッドベリの「霧笛」のシーンで、当時の挿絵を意識してこのシーンは影絵を思わせるように描かれている。

挿絵を思わせる秀逸なカット

 

トーマスが連れて来た目撃者との証言が一致したことから、最初は信じなかった古生物学者のエルソン教授も信じるようになり、バチスカーフで調査を行うが怪獣に襲われ命を落とす。

そうした中、怪獣はニューヨークに上陸。武装した警官たちの反撃も意に介さず、町を蹂躙する。

そこで州兵が出動し、バズーカ砲で攻撃。これには怪獣も負傷し出血の後に逃走する。しかし、その血に触れた州兵たちがバタバタと倒れる事態に。あの怪獣は放射能の影響で、危険な細菌を放出しているので、攻撃するとニューヨーク中が汚染される事態になる。

その後定番として超兵器が登場するが、それを扱っているのが、後にマカロニウェスタンで大ブレイクする事になるリー・ヴァン・クリーフ。同じくマカロニウェスタンで大スターとなったクリント・イーストウッドも若い頃に、「世紀の怪物/タランチュラの襲撃」に端役で出ていたのが面白い。

鋭い眼光はこの頃からのリー・ヴァン・クリーフ

 

「ゴジラ」に影響を与えたというだけに、本作の原題が「The Beast from 20,000 Fathoms(海底2万尋の怪獣)」。一方ゴジラの企画段階のタイトルが「海底2万尋から来た怪獣」と酷似している。今見ると高圧電線で恐竜の侵入を防ごうとしたり共通点も多い。製作時期からパクリとまでは言えないが、かなり影響を受けた事は間違いなく、本作が無ければ日本が世界に誇る一大コンテンツは誕生しなかったかもしれない。

本作の特撮は着ぐるみではなく、レイ・ハリーハウゼンお得意のストップモーション・アニメが使われているが、動きが滑らかでとてもコマ撮りの撮影とは思えないほど。昨今のCGと比べてもそん色ない。もっとも「ゴジラ」でも最初はストップモーション・アニメが検討されたが、予算がかかるということで没になっているが…。

物語の展開もその後に与えた影響は大きく、最初の目撃者が精神異常扱いされ相手にされないが、その間小さな事件が連続して起き、それが次第と大都市に近づき、そして大惨事となるという展開は今見てもハラハラさせられるし、そして最後に謎の超兵器で倒され余韻を残して終わるというのも、その後幾多数多の亜流を生み出すに至った。

公開から70年を経過するが、日本が誇る「ゴジラ」と共に、今なお輝き続ける怪獣映画の傑作と言っていいと思う。