タイトル ファンタジア(1940年版)

公開年

1940年

監督

ベン・シャープスティーン

脚本

ジョー・グラント ディック・ヒューマー

出演

ディームズ・テイラー

制作国

アメリカ

 

本作は、ディズニー長編アニメーション第3作であり、史上初のステレオ音声方式による映画となっている。アニメーションによる8編の物語集で、幕間に作曲家で音楽評論家でもあるディームズ・テイラーによる解説が入る構成。一部を除き、台詞は一切用いられず、すべて映像と音楽だけで表現されている。更に、オーケストラによるクラシック音楽をBGMとしていて、全編にわたっての音楽演奏は、レオポルド・ストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団が担当した。映画でも本人が出演しているが、後ろ姿のみで顔はほとんど見えない。

制作に100万枚以上に及ぶ原画(動画ではない)が描かれるなど、莫大な製作費が投じられたことから、リバイバル上映を繰り返して1970年代になるまでは制作費を回収できなかったとも言われる。この頃のディズニー作品は、ウォルトの情熱で採算度外視で作られたことから、経営は常に厳しかった。

日本での正式な公開は1955年だが、漫画家のうしおそうじは太平洋戦争開戦直前に、海軍が拿捕したアメリカの輸送船から押収したフィルムが東宝砧撮影所に送られて試写室で上映された際に観覧し、非常な衝撃を受けている。また、太平洋戦争勃発後、日本軍が占領した上海やマニラで「風と共に去りぬ」などと共に、本作のフィルムも押収され上映会が行われ、アニメーション監督の瀬尾光世は、「こんな映画を作る国には勝てない」と衝撃を受けたと語っている。率直な感想だと思う。正直本作が1940年に作られたことが、いまだに信じられない。

本作は下記の8曲から構成されている。ただ、7.8番目は1曲として編集されている。

 

1:「トッカータとフーガ ニ短調」

オーケストラの影やイメージとしての線で構成。

2:組曲「くるみ割り人形」

様々な自然現象を妖精と捉えたイメージにより構成。ディームズ・テイラーが行っている通り、くるみ割り人形は登場しない。

3:「魔法使いの弟子」

本作で一番有名なパート。ミッキー・マウスが師匠のイェン・シッドから言いつけられた水汲みを、ほうきにやらせたことから起きる騒動を描く。ちなみに魔法使いの名前のYen Sidは、Disneyを逆からつづったもの。

4:「春の祭典」

恐竜たちをメインキャストにして、地球創世期から恐竜絶滅までを描いている。最近は恐竜絶滅の原因は隕石落下が有力だが、本作では乾燥による砂漠化を原因としている。

休憩

このパートで指揮者のストコフスキーとミッキー・マウスが会話するシーンがある。その際、ミッキーの声はウォルト自身が担当している。

5:「田園交響曲」

舞台をギリシャ神話の世界を舞台にケンタウルスたちの恋愛模様を中心に、様々な神々やニンフたちが描かれているクライマックスで雷を落とすのはゼウス。彼に雷を渡すのはウゥルカーヌス。

6:「時の踊り」

カバの姿のヒヤシンス・ヒッポとワニの姿のベン・アリゲーターを中心に、動物たちの舞踊が描かれている。担当者は動物園やバレエ公演に通い実物を見ただけでなく、バレリーナの映像を参考にした上で製作された。

7:「はげ山の一夜」

8:「アヴェ・マリア」

前半はスラヴ神話に登場する黒い神チェルノボグが催す悪魔たちが集う夜会ではげ山の一夜。後半は巡礼者たちが集い荘厳な雰囲気でアヴェ・マリアが歌われる。

かなり実験作という趣向が強く、老いも若きも楽しんで見るという作品ではない。ただ、ディズニーを極めるうえでは避けて通れない作品だし、とても80年前のアニメとは思えない程、今見ても古さを全く感じない。というか、本作を見るとウォルトの狂気にも似た情熱を感じる。同時期の日本のアニメとして「くもとちゅうりっぷ」や「桃太郎と海鷲」等があるが、それらは上記の経緯で本作を見たアニメーション作家たちが、刺激を受けて作ったとされる。本作が「白雪姫」とともに太平洋戦争前に日本で公開されていたら、ひょっとしたら戦争は避けられたかもしれないと思わせるほど、当時の日米の差を思い知らされる作品だ。