タイトル ウィッシュ

公開年

2023年

監督

クリス・バック ファウン・ヴィーラスンソーン

脚本

ジェニファー・リー アリソン・ムーア

声の出演

アリアナ・デボーズ

制作国

アメリカ

 

本作は、ウォルト・ディズニー・カンパニーの創立100周年を迎えるにあたって制作された記念作品。

歴史的惨敗を喫した前作「ストレンジワールド/もう一つの世界」の次に制作されることになったが、同じくディズニー100周年として、「実写版・リトルマーメイド」「マイ・エレメント」「ホーンテッドマンション」等の大ラスとして公開された。このうちスマッシュヒットを記録した「マイ・エレメント」以外はいずれも振るわず、それだけに絶対に失敗は許されない状況での公開となったが、全米では初動で躓きその後も動員は右肩下がり。全くいいとこ無い100周年記念となってしまった。2019年に「実写版・アラジン」「アナと雪の女王2」がいずれも10億ドル越えの大ヒットとなった事を想うと、その凋落ぶりは顕著だが、「負けにふしぎの負けなし」と言う通り、本作の失敗には歴然とした理由があるように思えるが、それは作品としての面白さによるものだけではない。

最近のディズニーヒロイン同様、彼女も最初から完成された人格を持ち成長しない

 

地中海に浮かぶ島に、魔法を学んだマグニフィコ王とアマヤ王妃はロサス王国を建国し、国民から願いを託される。王に願いを託したものはその願いを忘れるが、月に一度、数人だけ願いをかなえられる。

王宮で働く少女アーシャは、王の弟子となる面接を受ける。彼女の願いは、100歳になる祖父の願いが叶うこと。王と会ったアーシャは、すべての“願い”を叶うかは、王が決めているという衝撃(いや、当然だろう)の真実を彼女は知ってしまう。

その夜、みんなの願いが叶うために祈るアーシャの前に、願い星のスターが空から舞い降りる。スターの魔法によって相棒の子ヤギのバレンティノを始め、森の動植物たちは喋れるようになる。スターを得たアーシャはみんなの願いを取り戻すために、仲間たちと戦う決心をする。

これを知った王は、自分を上回る力を持つスターの出現に脅威を感じ、禁断の魔導書を手に取ってしまう。禁断の力を得た王は、アーシャと仲間たちを捕らえようとするのだった。と言うのが大まかな粗筋。

途中まで王妃が黒幕で、王を操っていると思っていたが、そんな物語の方が面白かったかも?

 

本作の弱点の一つは、キャラに深みが無い事が挙げられる。ヒロインのアーシャは物語始まって終わるまで、特に成長も見られない事から面白みがないし、最近のディズニー・ヒロインの最大公約数と言った感じがする。彼女の仲間たちも特にキャラも立っておらず、もう少しキャラ設定をちゃんとすべきだった。アーシャの親友のダリアは足に障害を持っているらしく杖を突いているが、特にその理由について語られない。そもそも7人って人数多すぎる。いや、分かるんだよ。なぜ7人かって。でも、それならちゃんと描き分けをしようよ!。

「主張」はよくわかるが、作品とかみ合っていない気が

 

続いてだが、ヴィランの目的がよく分からない様に感じた。人々から願いを奪い、それを城に閉じ込めておくことで、願いのない凡庸な人間ばかりにして統治しやすくするという事だが、確かに悪辣ではあるものの、旧ソ連や文化大革命期の中国、北朝鮮、ポルポト下のカンボジアなど人類の歴史の中では、国民から希望を奪い食うや食わずの極貧に叩きこんだ国は数多くあるが、このロサスではとりあえず国民は食えているし、毎月少しづつだが願いをかなえているだけましともいえる。そもそもみんなの願いを魔法で全部叶えたら、誰も努力しなくなるだろう。それこそデストピアにならないか?

マグニフィコ王が暴君と化すのは後半で、黒魔術を記した魔導書を手にしてからで、その原因はアーシャがスターを呼んでからなので、ひねくれた見方をすれば、彼女がマグニフィコ王を暴君にしたといえる。あまり王がヴィランぽくないから、途中まで王妃が王を操る真のヴィランじゃないかと思っていたぐらいだ。少なくとも前半は悪人に見えず、本作で一番キャラの掘り下げがなされているのがマグニフィコ王なので、観客はアーシャより彼に感情移入すると思う。

クリスマスシーズンに、ぬいぐるみを売るために生み出されたキャラ?

 

ただ、本作最大の問題点は「絶賛する程面白いわけではないが無いが、ぼろくそに言うほどつまらなくもない」と言う、なんとも中途半端さにあると思う。これは、100周年記念としては弱すぎる。

そうした作品としての弱さもさることながら、2021年の「ラーヤと龍の王国」以降のディズニーは、評価も興行成績も急降下していて、「ストレンジワールド」にとどめを刺された感がある。その結果、ディズニーのブランド力が大幅に低下し、最早観客は映画館に行く時、ディズニー作品を対象に選ばなくなってしまった事が大きいと思う。大々的に「ディズニー100周年記念」と謳いながら、初動でコケること自体末期症状と言って良い。今後、ディズニーは続編と名作の実写化路線で当面ファンを繋ぎとめる方針の様だが、それが一番現実的な作戦であると理解しつつも、しばらくディズニーの新作を見る事が出来ない事に一抹の寂しさを覚えてしまう。