タイトル ピーター・パン&ウェンディ

公開年

2023年

監督

デヴィッド・ロウリー

脚本

デヴィッド・ロウリー トビー・ハルブルックス

主演

アレクサンダー・モロニー

制作国

アメリカ

 

本作はいい評判も悪い評判も全く耳に入らず、妙な気がしていたがそれもそのはず、ディズニーはDisney+で配信し、その後劇場公開が予定されていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、再びDisney+限定で2022年に公開されることが正式に発表された経緯がある。当時Disney+に入っていなかった自分に、情報が入らなかったのも頷ける。

本作の撮影は、コロナの影響で紆余曲折あったものの、カナダブリティッシュコロンビア州のバンクーバーで行われ、その後2021年8月にカナダのニューファンドランド・ラブラドール州で追加撮影が行われた。この「カナダでロケをやった」という事が、本作の特に映像面に深い影響を与えている気がする。ただし、あまりいい意味ではない。

映画は、明日寄宿学校に入るウェンディが陰鬱な気分でいたが、そこに影を探しにやって来たピーターパンが、ウェンディと二人の弟を連れ、ネバーランドに旅立つところから始まる。ここまではほぼオリジナルと一緒で、愛犬のナナに妖精の粉が降りかかり宙に浮きあがるところも同じ。そしてロンドンのビックベンの時計を突き破り、ネバーランドに行くのだが、本作のピークはここと言って過言はないと思う。

ネバーランドに到着し大はしゃぎの姉弟だが、暗く曇りがちの風景で、どう見ても「子供たちの楽園」と言った楽し気な要素は皆無と言って良い。

主なロケ地となった、バンクーバーの沿岸地帯は暖流の影響で降雨量が大きく、奥地は亜寒帯に分類される冷涼な気候。追加撮影が行われたニューファンドランド島は、夏でも高原は雪が残るほど寒冷な土地で、その影響からネバーランドはアニメ版のような明るく温かい雰囲気は感ない。ネバーランドに初めてやって来たウェンディ達が「うわあ~~❤」と歓声を上げるが、見ている限り歓声を上げる程楽しげな雰囲気は感じない。しかも、終始空は厚い雲に覆われ映像は暗くよどんでいる。ウェンディが地面に降り立ち、ロストボーイたちと出会うカットも、荒涼とした原野が広がり、海沿いは2時間ドラマのラストで、犯人が告白するシーンの様な断崖となっている。映画を見るとこの風景は最後まで変わらず、更に洞窟内や夜のシーンが多くて、明るく晴れ渡ったシーンは最後までなかった。おまけに色調を落としているから、モノクロ映画の一歩手前にしか見えない。

北欧を思わせる寒々しさしか感じない一面荒野のネバー・ランド

 

その後フック船長とのバトルを経て、ウェンディは荒野に墜落し、そこにロストボーイたちと出会うことになる。ロストボーイと言いつつ女の子がいるのは目をつぶるとして、ここで早くもタイガーリリーが登場。ただ、ロストボーイたちのリーダー格の立ち位置で、他のアメリカ先住民は登場しない。アニメ版ではピーターパンに絶対的な信頼感を置いていたが、本作で逆にピーターパンを助けるところが多く、ピーターパンの保護者的な立ち位置になっている。実際本作のピーターパンはアニメ版のようにカッコいいヒーローではなく、随分情けないキャラに成り下がっている。また、ティンカーベルはアニメ版だとウェンディに嫉妬して、ロストボーイ達をけしかけて殺そうとしたり、フック船長に騙されピーターパンの居所を喋ったりするが、本作ではそうした彼女の愚かな部分は丸ごとカットされ、物分かりのいいキャラに変更されている。ティンカーベルの魅力は、そうした彼女の愚かな部分だったので、その為存在感は薄く出番は多いがいるだけで空気と化している。実際にティンカーベルがいなくても、本作に何の支障もない。

ほとんど空気のティンカーベル。いなくても物語に何ら支障はない

 

アニメ版では捕らえられるのはタイガーリリーだが、本作だと二人の弟がその役割を担い、その為弟たちとロストボーイたちとの交流もなく、ウェンディが家に帰りたくなるきっかけの先住民のパーティのシーンもない。その代わり、フック船長とピーターパンの隠れた過去が明らかとなる。ここは一番の見どころとなるはずだが、かなり微妙で二人のキャラを深堀することにあまり役立っていない。結局フック船長はウェンディを殺そうとするし。

本作は子供向けファンタジーではなく大人向けの印象だが、その一方で終盤のバトルだと、年端もいかないガキンチョどもが、屈強な海賊たちを一方的にボコったり、どっちつかずの印象がある。

圧倒的な存在感を見せたジュード・ロウ。本作の数少ない収穫

 

本作で強調したことが、後半のセリフでも出てきた「大人になることも素晴らしい冒険である」ということ。それは至ってごもっともな事だが、それをテーマに据えることは、オリジナルの否定につながらないだろうか。「ずっと子供のままでいたい!無邪気なままでいたい!」って思えるのがピーターパンという作品の良さでは?と思うのだが。そりゃあいつかは大人になるけど、子供の心を持つことは悪い事ではないと思うが。その意味で本作は大人向きというよりも、やはり子供向き。ただし、作風は子供向きではないという、誰を対象にしたのか分からなくなっている。

他にも空を飛ぶところの合成などは、技術の高さを誇るディズニーにしては、えらく雑で背景と色調が全然あっていなかったりする。

ピーターパンを演じたアレクサンダー・モロニーやウェンディのエヴァー・アンダーソン等子役たちの演技は素晴らしく、フック船長のジュード・ロウも見ごたえがある。それだけに、もう少しオリジナルに忠実に作っていれば、面白くなっていたはず。リメイクには変えていい部分と変えていけない部分があり、本作はそこを間違えたように思う。なにせ、ラストを飾る父親のジョージがつぶやく、「そういえば、子供の頃あんな船を見た事があるな」すらカットされているんだから。