タイトル ピノキオ(1940年版)

公開年

1940年

監督

ベン・シャープスティーン ハミルトン・ラスク

脚本

テッド・シアーズ オットー・イングランダー他

声優

ディッキー・ジョーンズ

制作国

アメリカ

 

本作は、イタリアの作家カルロ・コッローディの童話「ピノッキオの冒険」を原作としたアニメーション映画だ。「白雪姫」が爆発的な大ヒットをした事から、「再び同じような映画を」という依頼がウォルトに多数寄せられたが、彼が選んだのは「ピノキオ」。原作は政治批判や皮肉が込められ、童話ながらお世辞にも子供が見るようなものではなかったので。それを長冒険ファンタジーへと改変することにしたが、ウォルトが考えるよりも長い年月がかかってしまった。そんな苦労するなら素直に、おとぎ話を原作にすればいいと思うが、何か思うところがあったようだ。もちろん現代の我々は、その判断が間違っていなかったことを知っているのだが、本人も他のスタッフも気が気じゃなかったはずだ。

初登場時は魂のない人形

 

最終的に、意志を持って話をする丸太を木の人形にし、ピノッキオと名付けるという誕生秘話は割愛され、女神から命を宿されるというファンタジーに変えられ、怠け者で楽できる事に引き付けられる堕落した性格から、無邪気で純真無垢な性格に変更された。さらに原作では、何かと諫めることから、ピノキオにすぐに殺されてしまうコオロギを、ピノキオの良心、そして語り手として再設定され最後まで生き残ることにした。こうして難産の末完成した本作だったが、おりしも第2次世界大戦がはじまり、欧州での上映が不可能となったため、興行的には惨敗で株価の大暴落を招く結果となる。しかし年月を重ねるごとに人気は急上昇。今では不朽の名作として、多くの人に愛されているのはご存じの通り。

映画はこおろぎのジミニー・クリケットが、語り手として物語の前説をするところから始まる。分厚い本をめくる当時のディズニー作品のお約束もちゃんとある。

旅に疲れたジミニーは一軒の家に入り込み誰もいないことから、しばらく居座ることにする。そこは玩具職人のゼペット爺さんの工房で、やがて2階から降りてきた爺さんは人間の子供と同じ大きさの人形ピノキオを完成させる。出来上がりに満足した爺さんは星に願いをかける。爺さんたちが寝静まった後で、女神が降りてきてピノキオに人間の魂を入れ、ジミニーに彼の良心を監視するよう言いつけた。騒ぎに起きてきた爺さんは、ピノキオが動くのを見て大喜び。自分の子供として育てることにした。

普通、人形が動き出したら恐怖にかられるものだが、そこはディズニー。ホラーにすることはない。生きている人形だから、さしずめ「生き人形」か?某怪談の巨匠の有名な話にそんなのあったな?

折に触れ登場しピノキオを悪の道に誘うオネスト・ジョンだが、何故か憎めない

 

翌日、学校に通うピノキオを見つけたオネスト・ジョンは、言葉巧みにだまし興行師のストロンボリに売り飛ばす。大人気となり家に帰ろうとするが、ピノキオはストロンボリによって篭の中に閉じ込められた。ジミニーは助けようとするが、鍵が固くてどうすることもできない。その時、夜空に輝く星を見つけ一心不乱に祈った結果、再び女神が現れ助けられた。

この時、嘘を言ったピノキオの鼻が伸びる有名なシーンがある。

喜び勇んで家に帰る途中、ピノキオはまたもオネスト・ジョンに騙され、遊びの島「プレジャー・アイランド」に連れていかれる。ここで散々悪いことを覚えたピノキオに、ジミニーも愛想が尽きて帰ろうとするが、連れてこられた子供たちがロバに代わっているのを見つけ、慌ててピノキオの元に戻るが、すでに耳と尻尾が生えていた。あわてて逃げ出し今度こそ家に帰ったがもぬけの殻。ゼペット爺さんはピノキオを探しに旅に出た挙句に、巨大な怪物鯨に呑まれていたのだ。そのことを知ったピノキオはジミニーとともに世界中の海を探し回り、ようやく怪物鯨を発見するのだった。というのが大まかな粗筋。

ちなみに原作だと鯨ではなく、巨大な鮫となっている。鮫のままだったら、いわゆる「サメ映画」の嚆矢となっていたはずだ。ただ、この怪物鯨の描写を見ると、現在の西洋の異常なまでの海洋哺乳類への片思いは、割と最近始まったことがわかる。

本作はしばしば「ディズニーにしては暗い」と言われる事が多い。実際夜のシーンが多いし、終盤は海の中と鯨の腹の中だから、映像として暗いのは当然としても、ウォルトらの努力でかなり明るくなったとはいえ、やはり物語そのものの暗さは完全には払しょくできなかったようだ。

本作に登場する悪役は、ディズニー・ヴィランの中でも特にえげつないし、誰一人として最後まで報いを受けることがないから後味が悪い。特に、コーチマンは子供をロバに変えて売り飛ばすという、明らかな人身売買を生業としている。しかも、ロバとなって売られていく子供達は、そのままで救いがない。この辺りは原作がそうなのだろうし、何か追加しようとしたら、ただでさえきつい制作環境が破綻していただろう。実際にこの頃ディズニー社でストライキが起きている。

そうした問題はあるにしても、やはり魅力が上回っている。イタリアの小さな町から始まり、操り人形一座にプレジャー・アイランド。そして海の中から鯨の体内と、目まぐるしく舞台が入れ替わり、繰り出される冒険の数々。それを潜り抜け大きく成長し、最後は最愛のゼペット爺さんたちと再会を果たし、希望をかなえてもらえる。説教臭いかもしれないが、それでも二人が抱き合う姿に素直に感動できる。そして、あの名曲「星に願いを」を生んだだけで、この映画の価値は計り知れないと思う。

 

ディズニー屈指の名曲「星に願いを(When You Wish Upon A Star)」