タイトル ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界

公開年

2022年

監督

ドン・ホール

脚本

クイ・グエン

声優

ジェイク・ジレンホール

制作国

アメリカ

 

ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念して制作された作品で、伝説的な冒険一家の親子3世代が、奇妙で不思議な世界で壮大な冒険を繰り広げる姿を描いたディズニー・アニメーション・スタジオの長編アニメーションで第61作目となる。

100周年記念作品としては、本作以降「リトル・マーメイド(実写版)」「マイ・エレメント」「ホーンテッドマンション」「ウィッシュ」と続くことになるが、まだ未公開の「ウィッシュ」を除き、いずれも興行成績は微妙なものとなっているのはご存じの通り。本作の興行成績も散々で、製作費1億8000万ドルに対して、7300万ドルと目を覆うばかりの結果となった。前作の「ミラベルと魔法だらけの家」の結果も微妙だったし、「アナと雪の女王2」以降、ディズニーはヒット作に恵まれていない。およそ有名どころのおとぎ話はやりつくし、オリジナル企画が中心となったこともあるのだろうが、それを言うなら「アナ雪」もほぼオリジナル企画と言っていい。それなのにヒット作が出ないには、それなりに理由がある。

動きが激しいから3本足だなんてよくわからないんだよ

 

イェーガーとサーチャーのクレイド親子は、アヴァロニアでも有名な冒険家親子で、いまだ誰もやったことがない巨大な山を越え、他の世界に行く探検をやっている。しかしサーチャーは緑色に輝く、不思議な植物を発見し、それを持ちかる事を主張し他のメンバーも同意するが、イェーガーは探検を続けるべきだ主張。一人だけ雪山に姿を消す。

それから25年。サーチャーが持ち帰った植物は「パンド」と名付けられ、発電機能があることから大量に栽培され、アヴァロニアではかつてない豊かな暮らしが実現した。発見者のサーチャーは父のイェーガーとともに国民的英雄としてたたえられているが、父への反発からサーチャーは冒険から距離を置き、パンドの栽培を行っていた。

ある日、イェーガーの冒険仲間で現在では大統領となっているカリスト・マルからパンドは急速に枯れ始めていることを知らされる。その原因を探るため、サーチャーの協力を求めてきたのだ。最初は難色を示していたが、パンドの危機に重い腰を上げるサーチャ。飛行船ベンチャー号で地下洞窟に向かうが、そこに冒険を熱望する息子のクレイドと愛犬レジェンドが密航していてそれに気づいた母のメリディアンも追いかけてくる。期せずして一家そろっての冒険旅行となる。

パンドはほぼ一つの根から枝分かれして生えていて、その中心は地下深くにあるから、そこで何かの異変が起きているというもの。とすると疑問が生じる。もともとパンドは野生種でそれを栽培したもの。根っこが一つなら、どうやって野生から栽培するようにしたのだろうか?

いきなり現れて「世界を救え」と言われても...

 

なんやかんやってサーチャーとレジェンドは、ベンチャー号から落下。そこで、25年前に行方不明となったイェーガーと出会う。

普通25年も異世界にいれば精神的に参るか、完全に同化するかのどちらかだろうが、彼は25年前と全く変わっていない。その間の食事などは特に描写されていないし、持っている火炎放射器の燃料はどうやっているのかも不明なまま。

そのあとこれもなんやかんやあって、二人と1匹はベンチャー号と合流できたが、イェーガーとサーチャーは過去の対立を引きずり、仲直りできないでいた。ようやく中心部に達していたが、そこでは地底世界の生物と、パンドの根っことが壮絶な戦いを繰り広げている。サーチャーはパンドの実を粉にして振りかければ、殺虫剤になる事に気が付くが。その頃、彼らの意思を離れたところでとんでもない事態が起きようとしていた。というのが大まかな粗筋。

ラブラブの二人だが...

元ネタはこの二人だとか...

 

ポリコレてんこ盛り等と言われるが、本作の人種構成は日本アニメ、「超時空要塞マクロス」の中で白人のロイ・フォッカーとアフリカ系のクローディアが恋人という設定を参考にしたようだ。ちなみに「マクロス」のヒロインは中国系のリン・ミンメイと多様性に満ちていた。その発端は「機動戦士ガンダム」だろう。ただ、「ガンダム」ではまだ日本人と白人がメインだったが、「マクロス」ではそれを深化させた。更にその前の「宇宙戦艦ヤマト」は日本人ばかり。人種の多様性という視点で日本アニメの変遷を見ると、面白いかもしれない。

究極の便利エネルギーパンド電池

元ネタは多分これ。シズマドライブ

 

またパンド電池の元ネタは、明言されていないが「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」に登場するシズマ・ドライブだろう。クリーンで安全なエネルギーとされつつも、世界を滅ぼしかねない欠陥がある点などは共通している。

ロイとクローディアは今も根強い人気があるが、本作の異人種カップルが人気が無いのは何故か?理由は簡単で、魅力がないから。身もふたもない言い方だが。本作のキャラは総じて特徴に乏しく、キャラそのものの深みも乏しい。「ミラベルと魔法だらけの家」のミラベルも丸顔で眼鏡に、団子鼻とお世辞にも美少女とは言い難かったが、それでも明るく元気な中にも孤独を抱えている等人物が深堀されていて魅力があったが、本作は地味なうえに深堀されていないから誰も魅力を感じない。25年地下世界をさまよっていたはずのイェーガーも深堀すれば面白くなったのに、ステレオタイプのキャラのままだ。更に主人公のサーチャーは、いかに父の事が嫌いでも目の前で行方不明になったのに、25年も探さないなんて、人間として共感を持てない。

25年も地底世界をさまよっていたのに全く変わらず

 

余談だが、ある人が調べたら本作の2次創作物が全く見つからなかったとあった。試しにpixivで調べたら、見つかったのはたった1件。それもマスコットキャラのスプラットだった。ミラベルでさえたくさんあったので、いかに本作のキャラが人気が無いのか良くわかると言うもの。

あと地底世界の魅力のなさも問題と言えると思う。単細胞生物みたいなキャラばかりで、可愛くない。そしてマスコットキャラのスプラットもスライムみたいで、人によっては不快感を覚えるはず。そして集合体恐怖症の人は、絶対に視聴しない方がいいだろう。もっとも、これには理由があるのだが、それについては後述する。

集合体恐怖症の人は注意

 

反LGBT界隈をざわつかせたイーサンが同性愛者という設定も、本作では冒頭と中盤あたりにちらっと出てくる程度で、それほど大きなウェートをしめていない。それどころか無くても、全く問題はない。恐らくぼんやりと見ていれば見逃すレベルだし、気づいてもボーイッシュな女の子と思うかもしれない。そもそもあのキャラがいなくても、全く物語に支障がない。というか、本作にはヒロインがいない。女性キャラと言えばイーサンの母親と大統領ぐらいだが、二人ともヒロインとは言い難い。

また犬のレジェンドが3本足の件だが、これも言及されないし動きが激しいので、ぼんやり見ていると気が付かないだろう。本作に登場するポリコレ要素は、いずれも本編を構成するうえで全く必要ない事ばかりだ。だからポリコレが原因でこけたというのは当たっていない。

ただこれはネタバレとなるが、本作の舞台は地球ではなく、地球に似た他の惑星という設定。彼らが地球人でない以上、この星では同性愛は珍しくないばかりか、そもそも性別という概念がなく同性カップルでも子供が出来るのかもしれない。そしてこの星の人類は人種という概念がなく、見た目黒人同士のカップルから白人が生まれるような生態系なのかもしれない。また、この星では犬(に見える生物)は3本足が当たり前なのかもしれない。この辺りは活動家に配慮すれば観客からそっぽ向かれ、観客のニーズにこたえれば活動家を刺激するという事で、ディズニーがとった苦肉の策なのかもしれない。この事からも、イメージと異なりディズニーは意外と?保守的な会社だと分かるのではないかな?

それらとは別に、本作には重大な問題点がある。それがこの星の人類は、環境の為にあっさりと文明を捨てている事だ。

実はアヴァロニアは惑星に浮かぶ浮島のようなもので、それは亀の様な巨大生物という設定。彼らが踏み込んだ地底世界は、この生物の体内だった。地底世界の生物たちが、アメーバの様なのも、それは体内に住む微生物や免疫機能なのだ。そしてそれをパンドは蝕んでいるという事。あのままなら彼らの住む大地は死ぬだろうし、それがどんな影響があるかは分からないが、果たして人間は一度手にした便利な生活を手放せるだろうか?今の自分たちに置き換えると、ある日突然電気も車もネットもシステムキッチンも、自動給湯器もなくなった生活を送れるか?相当な葛藤があるだろうが、でもアヴァロニアの人達は、何の葛藤もなく、あっさりと受け入れ中世の生活に戻っている。しかしディズニーさん。そうなったら映画もディズニープラスなくなるんだけど、それでもいいんだね?

こんな星で、どうやって人類は誕生したのか?生物進化史がどうなっているのか知りたいものだ

 

ヒットの要件は魅力的なキャラと、胸躍るストーリー。納得できる結末等色々あるが、観客のニーズにこたえるのが最大限重要。でも本作は観客のニーズを無視した映画だから、こうしてみるとコケるべくしてコケた映画と言えると思う。そしてみんながディズニーに望んでいるのは、今も昔も変わっていないと思う。実際、初動こそ大爆死状態だったが、そこから驚異の粘りを見せた「マイ・エレメント」は古典的なロミオとジュリエットだった事が、一つの回答になっていないだろうか。

これを見ただけで、何故こけたのか分かると思うのだが