タイトル アラジン

公開年

1992年

監督

ジョン・マスカー ロン・クレメンツ

声優

スコット・ウェインガー

制作国

アメリカ

 

「アラビアン・ナイト」の中で有名な「アラジンと魔法のランプ」を原案に、不思議なランプを手にいれた若者が、愛する人を守るため冒険に挑む姿を描くファンタジー・アニメーション。劇中アラジンとジャスミン姫が、魔法の絨毯で世界中を旅するシーンで流れる曲「ホール・ニュー・ワールド」は、いまだ世界中で愛されている名曲。

ヒロインのジャスミン姫は、強さと優しさを兼ね備え、それまでのヒーローの助けを待つだけのヒロインから脱却し、新たなヒロイン像を作り上げた。

ディズニーの新たなるプリンセス像を作ったジャスミン姫

 

またランプの精ジーニーの明るく陽気で、ハイテンションな喋りでジョークを連発するキャラは秀逸。ただ、当初のシナリオでは控えめだったのが、声を担当したロビン・ウィリアムズがアドリブ全開でハイテンションな喋りを披露したことから、あのキャラになったとか。一方日本語吹き替え版では山寺宏一が、ロビン・ウィリアムズに負けないハイテンショントークを披露している。

声優と言えば公開当時の日本語吹き替え版では、アラジンの声優は羽賀研二が務めていた。完全に話題狙いの起用だったが、うるさ型のアニメファンからも好評だった様だ。ただ、ご存じの通り後の事件で声優は交代し、羽賀研二版は封印されてしまった。

お人よしの王様と腹黒大臣という分かりやすい関係

 

オープニングで砂漠の行商人が、観客に古びたランプを手に取り物語を語り掛けるところから映画が始まる。これはかつておとぎ話を基にしたディズニーアニメが、分厚い表紙の本を開くところから始まるイントロを彷彿とさせる。

夜の砂漠でジャファーは手下の泥棒がエンブレムのようなものを持って来させ、自分が持っているものとぴったり合う事から、魔法の洞窟を呼び出した。洞窟が言うには「入れるのはダイヤの原石のみ」。ジャファーに命じられ入ろうとした泥棒は閉じ込められてしまった。

砂漠の王国アグラバーに暮らす、青年アラジンは盗みで生計を立てていた。

このアラジンが「ダイヤの原石」なのだが、見たところ健康体なのに働きもせず盗みで生計を立てるもののどこが「ダイヤの原石」なのか?彼を捕まえようとする兵士を悪役のように描いているが、これは全くの逆。もし盗まれたパン屋が、それをきっかけに生計が立たなくなって自殺したらどうする?まあ、この辺り安定のディズニー・クオリティ。

秀逸なジニーのキャラ。彼なしに本作は成立しない

 

一方、王から押し付けられる婚約者に嫌気がさしたジャスミン王女は、宮廷を抜け出し、そこでアラジンと出会い心を通わせる。だが、王国を支配しようとするジャファーによってアラジンは王女の誘拐犯に間違えられて捕まり、牢屋に入れられてしまう。ジャファーは「ダイヤの原石」として選ばれたアラジンに、洞窟の奥にある不思議な魔法のランプを取って来させるための策略だった。

言葉巧みにアラジンを唆し、洞窟から魔法のランプを持って来させようとする。仲良くなった魔法の絨毯の手助けもあり無事ランプを手にいれることができるが、ジャファーは最後に裏切りランプを独り占めにしてアラジンを洞窟に閉じ込めた。しかしランプはアラジンの相棒、子猿のアブーが取り戻していた。ランプをこするとジーニーが出現し、何とか脱出に成功。ジーニーによると、ランプの持ち主に仕え3つの願いをかなえるという。そこで自分を王子にしてもらい、ジャスミンとの身分差をなくし結婚しようと企むが、アラジンの事で頭がいっぱいのジャスミンは彼がアラジンだと見抜き、とっさにアラジンは変装して街に出たのだと言い逃れる。次第に愛し合う二人だったが、ジャファーの姦計でアラジンは海に放り込まれてしまう。間一髪のところでジーニーに助けられたアラジンは、ジャファーの正体を知り、サルタンの宮廷へ向かうのだった。

安定安心のディズニー印ミュージカルシーン

 

その頃王宮ではジャファーに魔術で操られたサルタンがジャスミンにジャファーとの結婚を迫るが、そこに現れたアラジンにより姦計が暴かれてしまう。この時アラジンが魔法のランプを持っていることを突き止めたジャファーは、ランプを入手。サルタンとジャスミンを奴隷にし、アクラバー王国を支配。アラジンの魔法を時本のみすぼらしい青年に変え塔に押し込むと、塔ごと雪が降る山岳地帯へ飛ばすのだった。というのが大まかな粗筋。

本作はいたって単純明快なストーリー。その日暮らしのビンボーだがイケメンの若者が、ささいな事からお姫様と知り合い恋に落ちる。そして大願成就の為魔法使いの助力もあって、二人はめでたく結ばれると言うもの。ある意味王道と言えるが、それだけでないところが本作が大ヒットした部分だろう。

一番の貢献はジャスミン姫。前述の通りジャスミンは、これまでのディズニープリンセスとは真逆のキャラ。窮屈な宮廷暮らしに飽き飽きして、外に飛び出すアクティブさや、恋を貫く一途さ、アラジンを助けるためジャファーをも欺く強さを併せ持っている。

こうしてみると。登場人物は「ヒーロー」「美女」「ヴィラン」「お助けキャラ」「お笑い担当」と役割がはっきりとわかれていてとても分かりやすい。それだけに突っ込み所を見つけようとしても、見事に跳ね返されてしまう。

その一方でキャラの情報は最低限にしている。アラジンの両親について言及はないし、ジーニーの前歴も全く触れていない。また魔法の絨毯がなぜアラジンに懐いたのか謎のままだ。普通ならこうした点も脚本に起こすが、本作では潔くカットすることで、中だるみを防いでいる。

生き生きとした二人の表情も魅力

 

よく、歴史あるシリーズものを引き受けた監督や脚本家で「これまでの伝統を壊した」と、どや顔で言って、それを持ち上げる評論家もいるが、伝統を壊すことなど、どんな無能な監督や脚本家でもできる。伝統を壊したうえで、新しい伝統を作り上げてこそ真の名監督、脚本家となる。その意味で本作はこれまでのディズニーの伝統を壊しつつも、新しい道を切り開いたといえるだろう。