空飛ぶゆうれい船(1969年) 監督 池田宏 声の出演 野沢雅子

 

ある霧の夜、古めかしいゆうれい船が、豪華船やタンカーを襲って世界中を恐怖にまきこんだ。だが、不思議なことに、襲われた船は、いずれも黒汐コンツェルンに関係のあるものばかりだった。それから間もなく、ゆうれい船の使者と名乗るロボット・ゴーレムが現われ、平和な街々を破壊しはじめた。迎え撃つ国防軍は、近代兵器で応戦したが、壊滅的打撃を受け撤退せざるを得なかった。この戦いで父母を失った隼人少年は育ての両親に復讐を誓った。ある日隼人は愛犬ジャックを連れて敵を追ううち、黒汐会長の邸宅の地下に大兵器工場を発見し、大富豪の黒汐や国防長官がゴーレムをあやつっている悪の手先であることを知った。その背後には、地球征服を企む海底魔王ボアーがいた。

 

1960年の月刊誌『少年』に掲載された石ノ森章太郎の短編漫画「ゆうれい船」を「、ゲゲゲの鬼太郎」の辻真先が脚色し、「どうぶつ宝島」「魔法使いサリー」の池田宏が演出したSF長編アニメ。本作は原作のストーリーを踏襲しつつも、更にスケールの大きな娯楽作品へと仕上がっている。中盤で巨大ロボット・ゴーレムの迎撃のため戦車が渋滞する自動車を踏み潰して前進するシーンや、戦闘機のコクピットからゴーレムを捉える構図を取り入れるなど、革新的な映像自体の見応えが評価される意欲作。なお、原画スタッフとして宮﨑駿が参加しているが、のちに宮崎は「新ルパン3世」の「さらば愛しのルパン」で、本作同様の戦車が渋滞する自動車を踏み潰すシーンを再現している。後半、ボアの放った巨大ガニが年を蹂躙する中進む戦車。しかし乗員はボアジュースのせいで溶けてしまい中は無人。この辺りの絶望感の出し方は見事としか言いようがない。

また、本作が後世のクリエイター達に与えた影響も大きく、多くのオマージュもされている。主人公がゆうれい船の船長と実の親子である点など、「ふしぎの海のナディア」には類似点が多い。

ただ、ビジュアル面に比べると、子供向きということを差し引いても、脚本に難があることは否めない。ボアジュースがあれば、そのままで人類滅亡に追いやれたし、ボアと黒潮会長らとの関係もいまいちよくわからない。テレビで明らかにされただけで粛清するか?中盤から後半にかけて、突然話がはしょられているような展開も。そもそも主人公は、自分の行動でゆうれい船を大破させ、大勢の乗組員を死に至らしめたのに、呑気に看護婦の美少女と恋バナするんじゃない。そもそも序盤から中盤にかけては、軍産複合体がゆうれい船を悪役に仕立て、自作自演で脅威を煽り愚民を扇動するという、子供向き作品にしては妙に生々しい敵が描かれていたのに、急にボアが登場しひっくり返していくところは、展開が急で理解が追い付かない。その他もろもろ、辻真先の仕事にしては少々雑。ただ、全体的な構成はとても良い。ホラータッチで始まったのに、最終的に本格的SFへと無理なく着地させている。

主人公隼人の声は野沢雅子。声を聴くと、最近とほとんど変わっていないことに驚かされる。さすがレジェンド声優。その育ての親は俳優としても活躍していた名古屋章。このころは声の仕事も数多くこなしていた。実父のゆうれい船船長は納谷悟郎。船長という役といい、服装といい、どうしても沖田艦長と被ってしまう。

古い作品だが、ビジュアル面は素晴らしいだけに、風呂敷を広げ過ぎたようなストーリーは返す返すも残念。ただ、古いアニメの入門編として見るのは悪くないと思う。見ると「アッ,これあのアニメのあのシーンだ」というのをお目にかかれるはず。

余談だが、前半でよく流れた「ボアジュース」のCMソングを歌っているのは、堀絢子と滝口順平。キャストを見ても他で見当たらないので、歌のためだけの出演だったようだ。このころの劇場アニメは豪華。