彼が作ってくれたオムライス
それは僕にとって特別なモノだった
もうあれからどれ位経ったのだろう
彼が逝ってしまってから
痩せ型の彼は不健康そのもの
闘病中どんどんやせ細ってゆく
病床で見せる作り笑い
見るのが辛かった
病院嫌いの彼はすでに末期だった
僕は今までの空白を埋めるように
毎日通った
不器用な二人の距離感は平行線
二人の会話はどこかヨソヨソしく
決して弾みことはなかった
父は幸せだったのだろうか
父と交わした最期の約束
僕は果たせているのか
父の仕事は調理師
頑固で無口な料理人
お世辞にも社交性があるとは言えない
父は幼少期温泉旅館に勤めていた
家には週一程度
それでも決して寂しいとは思わなかった
父と遊んだ記憶は少ないが
ドライブでいろんな所連れて行ってもらった
職業柄か美味しいお店にも遠方まで
父の職場に夏休みになるとよく泊まりに行った
宿舎で一緒に寝て夜は大浴場
朝から昼食の仕込みをお手伝い
ケースいっぱいの生卵
空が入らないように
ボールに何個も割り続ける
オムレツの仕込み
当然その日のランチはオムライス
ケチャップたっぷり昔ながらのチキンライス
家では一切料理をしない
母の料理に口うるさい父の
思い出の味
心配や迷惑ばかりかけた
学生の頃
見守るだけで口うるさく無かった
親子ケンカもなかった
一度だけ父の胸ぐらを 今でも後悔
理由すら覚えていない
一人暮らしの様子を見に来た父を
バイト先のカラオケパブに招待
今思えば最初で最後の二人酒
毎日晩酌を欠かさない父
酔った時だけ流暢に話す
盛り上がった頃には一人潰れる父
晩年は吐き潰れることが多かった
酔うと毎回僕のカラオケを自慢げに話す父
苦笑いの僕
社会人になっても甘えてばかり
困った時には何かと援助してもらった
父が一番の理解者だったのだろう
そう言えば一度も来なかったな
僕の職場には
独立し店を持った後も
病床の父に紹介することができた彼女と
結婚し子供を授かり
今じゃ二児の父親
上の子が生まれる時は
まだまだ父親の実感がなかったが
子育てと共に自身が成長できたような
自身も父親になった今
父のことを考える
もっと話をしたかった
聞きたいことが沢山あった
もっと酒を飲み交わしたかった
孫を抱かせてあげたかった
きっと彼もそう感じていただろう
僕は父に何も返せていない
自身が父親になった今
子供のことを考える
教えたいこと伝えたいことが沢山ある
連れて行きたい場所
見せたい景色
経験や体験
失敗や成功
思い出を沢山作ってあげたい
そして伝えよう
自分が幸せであることを
後悔しないように