日本政府は急激な感染拡大を抑止するための手法として「緊急事態宣言」を法律で定義し、運用しました。
しかし「緊急事態宣言」を発すると行動制限などの規制などを必要とする事から、急激な感染に至る前に制御するための手段として「まん延防止等重点措置」を制定し、すでに幾度か適用されています。
しかしながら「まん延防止等重点措置」を法制定するにあたり、「まん延」とはどのような状態を指すのか、あるいは、その状態を判断するための手法は分科会で置き去りにされ、これまで実施されてきた「まん延防止等重点措置」は、その時々の政権メンバーによる感覚に頼らざるを得なかったのが実態でした。
ところで普通の疾患、例えば「ガン」などにおいての統計では、地域ごとに異なる食生活の状況や、地域の環境などの外因により疾患に至る比率が変わり得ることから、統計的に処理する場合には「人口10万人あたり」のように居住者数に対する比率が用いられるのが一般的です。
ところが「人から人へ」と伝播する「感染症」においては、人から人への伝播し易さを考慮しなければなりませんので、「人口10万人あたり」のような指標を用いた統計処理では意味を成さないことになります。
そこで一考してみたのが単位面積当たりの「人口密度」と「感染者密度」の相関関係です。
この概念は「10cm四方の範囲に長さ2cmの針をばら撒いた時、いくつの交点が生じるか」という数学の問題と似通っています。
針をばら撒いた時にできる交点の数は、人同士の接触の多さを表わしており、ばら撒く針の中には「感染者」と同じように「錆びた針」が混ざっていて、錆びていない針を錆びさせてしまう可能性をを持つとするモデルと同一に扱うことができます。
※ 実際には人が居住する空間において感染は発生しますので「人口密度」には「可住地人口密度」を用います。
2021年夏には東京都でオリンピックが開催されることから感染拡大は必至と考え、毎日の都道府県別感染者数を調べて記録を取り、分析してきました。
第5波の時、感染者数がピークに達したのは2021年8月20日でした。
その時の感染状況をグラフにすると次に掲げるような状態でした。
ここで着目するのは「決定係数」(R²)の値です。
「決定係数」は「標本値から求めた回帰方程式(モデル)のあてはまりの良さの尺度」として知られる数値で、0~1の範囲の値を取り、0であればモデルは不成立、1に近づくほどにモデルへの適合性が高いと判断できます。
一般的には「決定係数0.8以上」となると、「ほぼ理論通り」の観測結果が得られているとされます。
感染流行においては「人による抑制は効いておらず、ウイルスや細菌の広がり方が持つ物理的特性に従っている」と判断できます。
第6波は急激な拡大で、しかも「決定係数」のピーク時(2022年3月16日)には、何と「0.93」を超えていたのです。
この「決定係数」(R²)や縦軸切片、傾きに関しては表計算ソフトでグラフを描く時に添えるだけでなく、別途、日々の値を計算して一覧表の中へ貯め込み、さらに「時系列グラフ」とすることも可能です。
この決定係数がどの程度の適合性を持つかの厳密な基準はありませんが、社会事象の 場合には「0.5 以上であれば概ね精度が高 く、0.8 以上であれば非常に精度が高い」と言われます。
感染においては「人による抑制効果が十分に発揮できているか、ウイルスや細菌による数理的原理に従うままとなっているか」を判断する基準となりますが、ほぼ全ての地域において「人為的制御ができていない状況」を「感染まん延」と定義することにより、「決定係数」(R²)を「感染まん延」の尺度として利用することが可能です。
決定係数R²による適合度の判断は対象とする事象などによっても異なりますが、ちなみに一般的に使われる安全指針の策定手法には70%ルールがあります。
これは100V交流電源のピーク値が約141V(√2倍)であるのに対して逆数を取り、約70%の範囲を最大として制御する手法です。
さらに変化速度が著しく速い場合は、70%の70%(約50%)を最大として扱い、その範囲を超えないよう制御するケースもあります。
新型コロナウイルス感染症は、その伝播は速く、しかもオミクロン株になってからは更に速くなっているようですので50%ルールを用い、決定係数が0.5を超えない範囲で社会的な制御を行うぐらいにしないと、感染拡大時には対策が追従できなくなります。
ちなみに上記で掲げたのは新型コロナウイルスに関する観察結果によるグラフですが、結核でも類似のグラフになる事が判明しています。
こちらは5年間分の新規登録結核患者数を基にしたグラフです。
データの期間が長くなればなるほどに、地域間での発生時期に関する格差が吸収されますし、政令指定都市も含んでいますので、決定係数は0.96に達しており、いかに「単位面積当たりの感染者数」と「可住地の人口密度」の相関関係が感染対策には重要であるかを示しています。








