「同時性解消」という考え方 | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

このブログエントリーを、今回の主張旅行で実際のビジネス活動が始まる直前に、東京のホテルで書いている。

 

私のブログの前回のこの記事

 

ウーバーUber、初体験 2017-06-17

 

から早くも1か月が経過しているが、そこで書いた出張からの帰りにも、ダレス空港から自宅まで私はUberを使った。今回の日本出張でも、自宅からダレス空港までの移動にUberを利用した。私はすっかりUber大好き人間となってしまった(笑)。

 

そんな中、ワシントンDCの自宅から東京のホテルまでの途上で、以下の記事を読んで感じるものがあったので、書いておきたい。

 

宅配問題を抜本的に解決する「同時性解消」とは

Diamond Online 2017.7.22(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)

http://diamond.jp/articles/-/136031

 

この記事は、Amazonとヤマト運輸との間を中心に起こったネットショッピング(EC)向け配達サービスに関する問題を主として扱っている。提案されている解決策は「宅配ロッカー」で、それをソフトドリンクの自動販売機や郵便ポストのように街中に多数配置していくアイデアだ。これによって、宅配における「同時性」問題を緩和できる。

 

ここで使われている「同時性」は、厳密に表現すれば「同時&同所」の問題である。宅配の場合には、宅配業者が配達物を受け手の住所に届けるのが原則だ。この場合、受け手が在宅する「時間」と、自宅という「場所」の制約を受ける。今までのネットショッピングでは、商品の購入決定の際には売り手・買い手ともに「同時性」の制約から解放されているのに、商品の配達のところでは強い「同時性」が残ったままになっている。この後者の「同時性」の解消に「宅配ロッカー」が機能し得る。

 

この記事を読みながら、Uberのサービスも「同時性解消」の流れで考えると、なぜ旧来のタクシーサービスより優れているのかが理解できるように思った。実際に使ってみるとわかるが旧来のタクシーサービスよりクオリティの高いサービスが、Uberで安心・安価に得られる。このUberのビジネスモデルも「同時性解消」での“進化”ととらえることができるようだ。

 

スマホのアプリからUberの車を呼ぶシステムは、電話でタクシーを呼ぶ昔からのシステムと大して変わらない。電話よりインターネットの方が効率よくサービスが進むことは間違いないが、そこには根本的な違い、特に「同時性」という観点での違いはない。

 

Uberによって大きく進歩したのは、タクシーサービス利用側よりむしろタクシーサービス提供側、特にドライバーにとっての「同時性解消」だろう。就業時間の柔軟性が高い(ドライバーが好きに決められる)Uberの仕事を通じて、私が遭遇したUberのドライバーは、自らのキャリアを改善し個人としての労働生産性を上げることができたようだ。

 

前回のエントリーに登場した女性ドライバーは、Uberドライバーをやりながら修士号を取得し、それをベースにして9月に新しい職に就くという話だった。今回乗ったUber車のドライバーは、米国農務省に務める国家公務員だった。余暇の時間を使ってUberで副次的収入を得ているそうだ。そのドライバーは博士号保持者で、その取得ために相当な出費をしたことは容易に推察できる。来年には公務員の方はリタイヤして、教職に就こうと考えているとのことだった。

 

Uberは、日本ではタクシー業界の既得権の壁を打ち破れないでいるようだが、米国でもUberとタクシー業界の間に軋轢はある。タクシー業界に属する人たちは、ドライバーを含め、旧来のタクシー業務を通じ収入を得て生活をしていることに変わりはないのだ。

 

しかし、もう少し高所からタクシービジネスの状況を見てみると、旧来のタクシービジネスモデルは効率が悪い。タクシーサービスは、基本的に「同時性」が必要になるサービスだ。ある1カ所で、ある時刻に、タクシーサービスを必要とする受け手と、サービス提供側の車とがミートする必要がある。

 

この同時性要求は、旧来のタクシーであれば、長時間勤務の交代制で働くドライバーが大量に車を「流す」ことで処理されていた。その結果どのようなことが起こったかというと、客を乗せずに待機する大量のタクシー車と、その中に座っている大量の待機ドライバーの出現だ。その待機時間中は生産的ではないから、このままでは生産性は上がらない。生産性が上がらなければ、利用者も、サービス提供者も幸せになれない。

 

Uberは、ドライバー側に革命的な勤務時間の柔軟性をもたらした。その結果、たくさんのタクシー車が待ち行列を作り、その中で専属ドライバーがボーっとしている光景は、「仕方のないこと」ではなくなった。私が会ったUberドライバーは、勤務時間の柔軟性を有効活用して自らの学力(学歴)を向上させ、付加価値の高い職業につけるように自己改革することができた。すなわち、これらのドライバーは自らの生産性を上げることができたのだ。

 

Uberと同じくアメリカ発のビジネスであるAmazonもおそらく負けていないと思う。

 

上記Diamond Onlineの記事には「今年4月、宅配便最大手のヤマト運輸は、『働き方改革』に取り組むと発表した」とあるが、それが「配達員の休憩時間確保のための配達時間帯の指定区分『12-14時』の廃止、負荷が集中する『20-21時』の『19-21時』への変更、運送料金の値上げ」であれば、改善にはなるとは思うが“改革”には程遠い。

 

Amazonの方は配送の自前化を進めることになりそうだ。http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/090200078/041700120/

この自前化プランには、Uberが改善したドライバー側の「同時性」問題と似た、配送車・配送ドライバー側の「同時性解消」アイデアがおそらく盛り込まれるのではないだろうか。もちろん、宅配業務にもいろいろな規制があり、法律違反をしないことが前提になる。また、新しいビジネスモデルが導入されると、それからネガティブな影響を受ける既得権者が問題視して、それが政治問題化していくことも十分に考えられる。「既得権」というやつはいつでもどこでも厄介である。Amazonには是非頑張っていただきたい。

 

 

さて、私の属する「特許事務所」業界はどうであろう?そこに「同時性」の問題は隠れていないだろうか?時間軸と空間軸上の制約がどこにあるのか?「同時性」の解消度を向上することで、よりよきサービスを提供できないだろうか?…ちょっと考えてみたい。