実用品にも著作権、は当然として… | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

ヨーロッパ出張からDCへ帰ってきたと思ったら、大雪だ!家の中に引きこもっている。

暇にまかせて、長い間、書きかけのままにしてあった「TRIPP TRAPP」幼児用椅子著作権侵害事件について書いておく。この事件は私にとって大変に身近に感じられるもので、ブログに書いておきたいと思っていた。ただし、この控訴審判決が知財高裁で2015年4月14日に出て以来、多くの専門家が解説をしているので、専門的な解説はそちらに任せる。


「原告が上告せず、今回の判決は確定した」とのことで書かれたこの日経の記事:

椅子デザインにも「著作権」
知財高裁「実用品は意匠権」から一転 保護長期化、そっくり家具姿消す?
2015/10/5付日本経済新聞 朝刊[有料会員限定]
 
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92426360T01C15A0TCJ000/

「有料会員限定」とのことなので大胆な引用は差し控えるが、判決内容そのものは極めて妥当なところだと私は思う。これが、被告の製品が著作権侵害だという内容なら、すごいことだけれども、非侵害なのである。違和感は無い。


判決中に、原告の椅子について著作性を認めた表現が入っていることは、確かに大変重要なポイントであり、画期的と言ってよい。特に、「応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである」との判示内容は、“今までの裁判所の考え方は間違っていた”と言っていることになるが、今回の考え方の方が理にかなっているので何の問題もない。



本件に個人的に特に関心が強かったのは、うちではこれを使っているからだ。

Keekaroo Height Right High Chair
http://www.amazon.com/dp/B0044R7I00/ref=ams_at_2844740684725_B00VN7L1Q6

被告の製品にとてもよく似ている。

現在5歳の娘のために最初に買って、あまりに使い勝手がよいものだから、現在2歳の双子の息子用にも買って、我が家には合計3脚ある。今回の判決が“侵害”で終わっていたなら、米国で使っているだけだから違法性の心配は直接には出てこないのではあるが、一応“弁理士”だし、ちょっと間が悪いことになるところだった。

我が家で、「TRIPP TRAPP」の類似品を購入したのは、もう5年前だけれども、「TRIPP TRAPP」と比較しながらその類似品である上記製品を買った。まさしく、「TRIPP TRAPP」側が提訴するベースとなっていると思われる消費者の購買行動を私も取ったのである。

当時、「TRIPP TRAPP」にどこまで新規性があったのかは知らないが、「デザインはかっこいいけれども、安定性と耐久性を考えるとこっちの方がよい」と考えて類似品の方を購入した。板を抜き差しして高さ調整をする機能は同じで、あとはデザインのかっこよさを取るか取らないかの選択だった。

この調整構造は、高さだけでなく、奥行きの調整もできるところが重要なポイントだ。実際に使ってみると、高さ調整より奥行き調整の方が効果として優れていることが実感できる。この奥行き調整機能によって、子供は、小さいときには小さいときに適した座面の奥行きが得られ、大きくなればなったでそれに適した奥行きが得られる。言い換えると、背もたれの位置が常に正しい位置にあるように調整できるのだ。これがすばらしい。しかも、その機能を極めてシンプルな機構で実現しているのである。

また、正しい部品名称は知らないけれども、座板と足板との大きさ(奥行き長さ)が違い、それらに互換性があるデザインも賢い。子供が小さいうちは小さい方の板を座板に使い、子供が大きくなると、それまで足板として使っていた大きい方を座板に使い、小さい方を足板に使う。

この2枚板差込み構造を考えた人はエライ!これが特許権で保護されていないようなのであるが、「TRIPP TRAPP」がデザインされたときには既に新規性のない機構だったのかもしれない。もしこの部分を「TRIPP TRAPP」のデザイナーが考え出したのなら、それが模倣されまくっている状態は、弁理士としては少々残念な気になる。この2枚板差込み構造に新規性があったのなら、「TRIPP TRAPP」のデザイナーは大いに後悔してしかるべきだと思う。


最初のものを購入してから5年経つが、まったく劣化してこない。これからまだ10年は使いたいと考えているけれども、おそらく何の問題もなく使えるだけの耐久性を持っている。この耐久性については、デザインとは関係ないのだけれど、この椅子を買った満足度の高さを支えている地味な特徴である。

「TRIPP TRAPP」も、その類似品も、皆、エライ!!


なお、判決にあるように「TRIPP TRAPP」には著作性が認められるので、デッドコピー品はダメである。著作権侵害となる。デッドコピーは、「TRIPP TRAPP」のデザインのかっこよさからして、禁止されるのが心情的にも自然なところだ。

「TRIPP TRAPP」に著作性が認められるとともに、被告製品は非侵害とした、この知財高裁の判決はいろんな角度から妥当な線を引いていただいたと思う。