「……。」
見知らぬ女の子が俺に向かって語りかける。
「…やだ。」
沈黙が続く。
「…嫌だよ…」
再び彼女が口を開こうとする前に俺は彼女に問い掛けた。
「ちょ、なんだよ!?誰なんだ、君は!?」
そして彼女は叫んだ。
「忘れたくないよおっっ!→」
プツッー
「うわあああっ!」
「はぁっ…はぁっ。…またあの夢か…。」
空一面に広がる灰色の雲は少年の心をまるで鏡の様に映していた。
少し肌寒い11月上旬の朝、少年…黒沢孝一はたまに見る意味不明な夢で目が覚める。
「朝か…」
ふと窓を見ると、窓に水滴が溜まっていた。
「暖房つけたまま寝ちゃったのか…。確か飽和って言うんだっけか、この現象。中学生の時に習ったばっかだな。」
ふと中学生の頃を思い出しながら、まだ少し新しい制服に着替える。
階段を下りると魚の焼けた良い匂いと、聞き慣れた母と祖母の声…そして聞き覚えのあるどこか懐かしい女の声がした。
「朝から客かよ。誰でもイイケド朝っぱらから人様ん家に来るなよな~。」
孝一が少し不機嫌になりながらリビングのドアを開けると、焼き魚をほうばっている女の子と目が合った。
「!?」
「あーっ!コウちゃんだあ!」
孝一は目を疑った。
「……?」
孝一が驚くのも無理はなかった。何故なら目の前にいる彼女はいつも孝一の夢に出て来る女の子にうりふたつだった。
孝一が困惑していると、キッチンの方からしてやったり顔の母が近付いてきた。
「孝一、いい驚きっぷりだねえ。あんたに内緒にしてた甲斐があったもんよ」
母の清子が腕を組みながら頷く。
「どういう事だよ、内緒って、この子は、なんで家に、夢の…」
孝一は困惑してしまい、支離滅裂になりながらも一番聞きたい事をかろうじて口にした。
「母さん…この子は誰なんだ?」
清子は怪訝そうな顔で孝一を見つめる。
「あんた、幼なじみの顔も忘れたのかい?」
呆れ顔で清子は話続ける。
「ゆりかちゃんだよ!吉井ゆりかちゃん!小学校まで一緒だったろ?」
孝一は頭をフル回転させながら記憶を辿る。
記憶を巡っている間に清子がさらに困惑する言葉を
放った。
「ゆりかちゃんの家の事情でね。当分の間、家で預かる事になったから。」
「ええ!?」
そんな二人のやり取りを横目に少女は焼き魚を夢中で食べ続ける。
こうして波乱の同居生活が始まるのであった。