逮捕された治療師の話も3回目になりましが、今回は断食の話をします。

 加藤清さんは結核性の痔瘻を断食で治しました。私の師匠の日野厚先生は難治性の下痢症を断食で治しました。二人とも、どんな治療をしても治らず、絶望の中で死を覚悟して断食をしたのだと思います。

 断食をすればどうして病気が治るのでしょうか。断食は医学の世界に治療法として入っていませんでした。断食は水だけ飲んで食物は一切食べません。命を終わらせるためには、食べ物を断つのが良いでしょうが、命を長引かせるための方法として断食をするわけですが、これは一か八かの命がけの勝負なのです。

 断食は宗教の世界で修行のために行われていました。肉体の力を無くして、精神性を高めるのでしょうか。私が医者になった頃、日本の各地に断食道場がありました。約20日間入所して、10日間の断食をするのが普通のパターンでした。何が目的っだかと言うと、精神的な悩みを解決するのが目的だったのです。

 昔、神経衰弱と言う病気がありました。その後、ノイローゼと言う病気も流行りました。そして今はうつ病と言う病気が多くなっています。これらの病気は精神が病んだ状態です。

 今は断食も理解されるようになり、西洋医学でも取り上げるようになりました。西洋医学では断食と言う言葉を使わないで、絶食療法と言って心療内科が行っています。心療内科で診る病気ですから、精神、神経に関係した病気です。がんは命にかかわるような病気ですから、がんに対して絶食療法をすることはありません。

 加藤清さんががん患者を断食で治すと言うのは、医学常識を超えた世界になります。加藤さんは病院の医学療法で治らなかった自分の病気(結核性の痔瘻)が断食で治ったわけですから、常識を超えた医療の世界に興味を持ち断食療法の道に進んだのです。

 初めに八戸で断食道場を開業しました。仕事の方はうまくいっていた様ですが、経営に失敗し、破産して、一家離散と言う厳しい目に遭っています。それで一から出直すために大阪にやって来たのです。

 加藤さんの断食は粉ミルク断食と名がついていますが、初めから粉ミルク断食をやったのではありません。初めは水断食です。断食と言うのは水だけ飲んで、食べ物は食べない修行なのです。

 加藤さんも普通の水を飲ませる断食を行って病気の改善をしていたのですが、水だけでは体力が持たないような患者がきて、この人をどうしても治したい気持ちになった時、粉ミルクを飲ます方法がひらめいたのです。

 断食がどうしてがんに効くかと言うことですが、簡単に言うとがんに餌を与えないと言うことです。がんに餌を与えないと言うのは簡単ですが、がんは体の中に住んでいるのですから、がんに餌を与えないことは難しいことなのです。

 人が断食をしても、がんは自由に人の中の栄養分を食っています。がんはブドウ糖を主に食べていますから、人がブドウ糖を食べなければいいのかと言うと、人も何かを食べなければ生きて行けません。自分が食を断つことは、自分の意志で可能ですが、がんに食を断つように仕向けるにはどうしたら良いかと言うことになります。

 私が考えたのはこんな方法です。自分の食べ量を、極力減らして腹ペコにし、体の中に余分な糖質を無くすればよいのではないかと言う方法です。

 

 以前にがんの患者を指導していた時、患者の一人が私にこう言いました。

 「がんが死ぬか、自分が死ぬかですね。」

 私はドキッとして聞きました。こんなふうに考える人もいるのかと思ったのです。

 私が考えている、がんを治すための食事は、理屈から言うと、生きてゆくのに必要最小量の食事です。制限をし過ぎて自分が死んではなんともなりません。

 医者に見放されて、末期と言われても、体力があって元気な人もいます。反対にやせ細って弱っている人もいます。

 加藤さんの所に来る人は、断食をしたくなるような条件のある人です。医者から治療法がないと言われ、死を待つだけになった状態の人は来る可能性があります。がんの末期と言われ、体力の無くなった人は断食をする気が起こらないでしょうが、体力があって、まだ生きてしたいことがあり、死にたくないと思う人は、何か生き延びる方法は無いかと探す人もいるでしょう。

 そんな人が加藤さんの話を聞くと、行ってみようかと思う人もいるでしょう。

 加藤さんの言うがんが治るというのは、がんが消えたという事ではありません。治ったと言うのは、体調が回復して、苦痛も無くなり、日常生活が普通に出来るようになったという事でしょう。このような状態になれば、本人は治ったような気になると思います。

 がんの特徴として進行が止まることがないと思っている人は、加藤さんの治療は信じがたいものになると思います。がんは体質の状態によって進行が止まったり、小さくなったりすることがあるのです。加藤さんの治療は粉ミルク断食や指圧・マッサージによって、がんが進行を止めるように持って行っているのです。

 そして、その治療によって体調が良くなると、がんが治ると言う評判になり、多くのがんの人が集まってきたのだと思います。

 ここでもう一つの治療の柱である指圧・マッサージについて話そうと思いますが、長くなったので次回にします。