「夜明けのすべて」 瀬尾まいこ

 

支え合いとは、思いやりとは。

きっと、言葉にできない曖昧で優しい、形のないものの連鎖なのだろうと思います。

それが人を生かしている部分も、たくさんあるのではないかな。

 

〈あらすじ〉

職場の人たちの理解に助けられながらも、月に一度のPMS(月経前症候群)でイライラが抑えられない美紗は、やる気がないように見える、転職してきたばかりの山添君に当たってしまう。山添君は、パニック障害になり、生きがいも気力も失っていた。互いに友情も恋も感じていないけれど、おせっかい者同士の二人は、自分の病気は治せなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになるー。生きるのが少し楽になる、心に優しい物語。

 

一言で表すのなら「優しい」です。

 

洋菓子のようなガツンと来る甘さのある優しさではなく、心に寄り添うような、和菓子のようなほんのりとした甘さの優しさ。

 

毎日の疲労に、手を添えるような優しさの小説でした。

心を温めてくれる。

 

PMSも、人間関係に影響を与えるし、パニック障害も生きていくにはとても大変ですね。

 

この小説を読んで、それを再度理解しました。

目には見えない病だから、理解されにくいし、常識で塗り固められた社会では、適合するのは難しい。

 

けれど、傷や恐怖を抱えて生きていかなければならない。

 

わたしも心の病を患っているので共感できますが、心の病にかかった後は自分自身の価値観も生活スタイルも一変します。

 

そんな中、離れていってしまう人もたくさんいます。

人だけではなく、自分自身の感情や行動やお金、場所も。

 

それは仕方ないですが、自分に自信もなく、行動もできない状況に陥っていると、支え合いなどできないんですよね。

 

生きがいもなければ喜びもない。

生きていても、自分を感じられず、人のぬくもりも感じられない。

 

だけど、この小説はそこに現れる優しい人間関係を描いてくれた。

そんな落ち込んで、前に進めない状況でも、ほんの少しの優しさがあれば前に進めると教えてくれた。

 

登場人物すべてが優しくて、この物語のなかの人たちが現実でもたくさん存在すれば、争いごとなんてなくなりますよね。

人はだれしも目に見えない不安を抱えている。

大きくても、小さくても、それはその人にとっての傷なんですよね。

 

きっと、その傷が可視化されているなら、もっと尊重し合える。

傷が可視化されてなくても、こうやってお互いを理解し合おうとするなら、尊重し合える。

 

美紗も、爆発してもしっかり生きている。

人に当たってしまっても、それでも、自分と向き合っている。

 

友情でも恋でもない関係、素敵です。

曖昧で、優しくて、柔らかくて。

思いやりが主軸になった関係はきっと名前なんてつけられない関係ですよね。

 

思いやりあるおせっかい、最高です。

 

しばらくこの本をお守りにして、生きていこうと思います。