しつこく『妖怪大戦争』

3日目ですにひひ



荒俣宏さんの本はすごーく前に

『神秘学マニア』というのを読んだことがありますが、そういった目に見えないものがお好きなんでしょうか?


いまのところこの2冊だけ。


『帝都物語』の作者でもありますが、まだぱんだは読んでいません。


妖怪大戦争の『加藤』は帝都物語の加藤保憲だそうです。


妖怪の敵役として登場しています。



映画では加藤に尽くす妖女、鳥刺のアギを栗山千秋さんがやってましたが・・・

美しいラブラブ!

これだけでも一見の価値あり!!



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アギはもともと特殊能力を持った人間でした。

見えない世界を見ることの出来る人間。


鳥刺とは鳥の動きで神意を占う巫女のことであり、鳥とは魂のことだそうです。


幼い頃、野盗に家族を殺され、自身も深い傷を負うのですが人買いに助けられました。

そして加藤に買われ・・・

加藤に救われたと思い込んだのでした。



アギは加藤のために妖怪を狩ります。



でもその最後はまた悲しいものでした。

アギはアギ自身の愛のために裏切られることになるのです。



さて、小説の中で、荒俣さんが妖怪について語っていること。

本当はこれが今回書きたかったことだったのです。



やっとたどりつきました。



この物語の中の種族は3つ。

現在も主流と思われる人間、ヤマトン衆

ヤマトン衆に追われて鬼になった加藤と、死んだ鬼たちの怨みの権化ヨモツモノ

そして妖怪



ヨモツモノはヤマトン衆以前の先住民ですが、怨みの心を持っている。

そこが妖怪との違いです。


妖怪も人間に居場所を奪われますが、怨むということをしません。



妖怪の主力はただの霊や、ただの川の精や、百年経って霊が宿ったガラクタ。

弱くて、ずるくて、そのかわりに助平なことが大好きで、なによりも、せこい。

だからこそ何万年も繁栄してこられたのだと、本書の中で河童が言うのですが、つまり作者もそのように考えているのでしょう。



また麒麟送子が最初にかっぱに遭遇したとき、エンコは言いました。

(エンコとは河童のことなのですが、エンコに言わせるとそれは差別用語なのだそうです。)

「わしらは野や川や海の聖霊だからな。川が濁れば、死ぬし、空気が悪くなっても、死ぬ。現に、都会じゃエンコは死に絶えた。この国には同居する異界の者たちが、たくさんいるってことを、人間は忘れとるのか?」

「人間の世界と異界とは、地つづきなんや。せいぜい気をつけることだな」

(後半、東京はおいてけ堀のかっぱがちょこっと登場しますが、突っ込まないでください)



麒麟送子は見えないものたちのために戦います。



半分妖怪化しているような、主人公タダシ(麒麟送子)のおじいちゃんは言います。

「この世の平和とはそういうことだからじゃよ。見えないものどもが安全に暮らせれば、人だって幸福に生きられる」



このおじいちゃん、なんかただものじゃない感じです。

映画では菅原文太さんが演じてました。


ボケてるのか全てを知っているのかよくわからない・・・

なんか人間の域を超えてるような感じ、とでもいいましょうか・・・



いずれにしろ、怨みの心を持たない妖怪の住処を、人間は奪い続けているのです。


「何がこわいといって、おれたちから闇を奪った人間が怖い」

と、天井なめは言います。

「だって、人間も妖怪を怖がってるよ」

聴きかえすタダシに妖怪は言うのでした。

「へ! こいつはおどろきだ。おまえらみたいな乱暴な生き物がか? だったら、おれたち先住民をもっと大事にしろよ!」



それでも妖怪は人間を怨まない。



戦争を好まない。

だから、鬼とも手を組まない。



といって麒麟送子と一緒に戦うというわけでもないのですが・・・

なにしろ戦争は嫌いなので・・・



でもともかく数が多い。

八百万の神々、(作者は妖怪とは働く神だとも言っています)

戦争は嫌いだけれど、盆踊りは大好き!!!



東京でヨモツモノ麒麟送子の戦いが始まったとき・・・

赤坂紀伊國坂で夜なきソバの屋台を出していたぬっぺらぼうから、うわさはひろがり、日本全国の妖怪に伝播する頃には、大変な事態がいつのまにか江戸で大盆踊り大会が開かれるという噂に変わっていたのでした。



「大盆踊り大会、これは行かなくちゃ!!」

ということで百鬼夜行、東京に向けて妖怪の大群が押し寄せます。

戦争は嫌い、でも盆踊りなら大歓迎。



何がなにやらわからないうちに、ごくごく内輪の事情で、加藤の野望は砕かれます。



そして、先日も書いた妖怪大翁の台詞。

「戦争はいけません。腹が減るだけです」

につながっていくのですね。



普通の人間には見えない闇のどこかで、楽しくひっそりと暮らしている妖怪たち。



普通の人間が妖怪を見る方法がひとつだけあります。

どうすればいいのか?

酔っ払うことです。

酩酊は見えないものを見させてくれる力があるそうです。



見えない世界。

見えないだけであって、存在しないわけではない。



聞こえない声に耳をすませば、近頃問題の地球温暖化もいくらか緩和されるのかもしれませんね。

電気を消して闇を作る。

妖怪が安心して遊べる時間が少しでも長くなれば・・・

見えない者たちが安心して暮らせる世界になれば、人も幸福でいることができるのでしょう。


※「」内の引用はほぼ全て角川書店株式会社発行の『妖怪大戦争』からです。



荒俣 宏
妖怪大戦争 (角川文庫)