九州本土決戦に向けて

士気極めて旺盛

「九州南部に米軍上陸の後、海岸線で敵に決戦を強要する」

が、九州における本土決戦の骨子です。

　そして、もし海岸線を突破されて敵の第二波・第三波の上陸部隊が侵攻して来ても、山岳地帯にこもって各種の「斬り込み隊」を昼夜を問わずに浸透させ、更に徹底的なゲリラ戦を行う。

　こちらは中野学校出身者が事前に、南九州一帯の山谷・河川・洞窟等の地形を調べているので、夜討ち朝駆けはお手の物。

　正面からの決戦ではなく、滝の上から石を落とし、敵の寝込みを襲い、また別の誰かかが寝込みを襲い、あらゆる手段を用いた遊撃戦で敵の神経をチクチクとすり減らして行く（後のベトナム戦争の戦い方です）。

　そして九州の地で遊撃戦を展開する事で、敵の関東侵攻作戦を後方から撹乱。

　のみならず、敵は戦闘終結後は占領地帯に必ず傀儡行政を打ち立てるので、中野学校出身者はその中に入り込んで枢要な地位に就き、そこでの情報収集や謀略の実施に取り組む。

　ここでこそ、中野学校出身者による秘密謀略戦の本領が発揮される。

　つまり、内通者となって「外部」にいる日本軍と連絡を取り合い、占領行政を内部から切り崩す。

　とにかく、海岸線での米軍との正面決戦で突破された後は、後方の山岳地帯に下がって遊撃戦を展開し、更に米軍占領後もあくまでも戦う。

　それが、九州各地に配属された陸軍中野学校関係の兵隊に課せられた使命でした。

　凄いとしか言いようがないです。

　九州での本土決戦が始まった場合、それらの活動を指揮するのが、中野学校式の遊撃戦を伝授された「霧島部隊」です。

　ここでご紹介するのは、その霧島部隊に所属していた八児雄三郎先生。

　中野学校仕込みの、九州での遊撃戦に向けた準備をしている時に、終戦となりました。

　大正14年(1925年)生まれ。福岡県桂川町ご出身。

　昭和17年に甲種合格し、翌昭和18年4月、志願により久留米の陸軍西部49部隊・戦車隊に入営。

　しかし「100人に対して、戦車は4台しかない」状況でした。

　昭和20年1月、西部軍遊撃隊「霧島部隊」幹部要員として、宮崎県日南市で6ヶ月間、中野学校仕込みの訓練(64人)を受けます。

　本土決戦に向け、この64人は九州各県に配置されました。

　八児先生は大分司令部へ転属となり、大分県下を巡回。米軍上陸への対応作戦を練り上げます。

　戦争終結後、昭和21年9月に上京した時には東京は全くの廃墟。

「住む所も職もない苦しい経験は忘れられない」

との事でした。

　その後は大手レコード会社に入社して戦後の歌謡史を築き、数年前まで各所で、昭和歌謡の歴史と合わせてご自身の戦争体験の講演を開いておりました。

　以下、八児先生のお話し。

　…私は甲種合格で通りましたので、良かったね、と。

　九州なんかでは「甲種合格じゃないと男じゃない」という風潮でしたから。

　本土決戦はやるつもりでした。全く怖くはなかったです。

　陸軍の士気は高かったです。

　九州の男っていうのは、今でもそうですが、気性が激しいんです。

　福岡とか北九州とか、あの辺はちょっと別物ですよ。

　米軍なんかでも、「この敵は九州の兵隊だ」とわかったら、物凄く恐れていたそうですからね。

　本土決戦になったら、やっつける。戦う。その意気でした。

　ただ、とにかく爆撃が凄くて、目の前でたくさん人が吹き飛んで、「これでは勝てないかな…」とは、内心思いました…。

　看護婦さんなんかも凄かったです。麻酔なしで手当てして、男顔負けですよ。

　ああいう時、女の人っていうのは、腹が据わるんですね…。看護婦と軍人は同じです。

　終戦の詔勅を拝聴した時は、ショックでしたねぇ…。

　若い子達はみんな、「チキショー」と、怒っていました。

　終戦の詔勅が出た後でも、仲間15人でまだ戦うつもりでしたから。

　上陸して来たら戦う、と。

　ただ、戦後しばらくすると、「やっぱりダメかな…」とはなりました。

「我、敗れたり」と…。

　進駐して来た米軍には、最初はやはり「こんチクショー」というのはありましたが、時間が経てば薄らぎましたね。

　今と戦前、どちらがいいか、ですか。

　何を基準にと言うのがありますから、一概に言えませんが…。

　今は治安が悪いですよね。

　信じられないような凶悪な事件とかあるでしょ。あれは戦争と変わりませんよ。今はある意味、悲惨な時代だと思います。

　そういう意味では、昔の方が心が一致していましたし…。

　昔の方が良かったんじゃないかとも思いますよね…。

　若い方へのメッセージとしては…。

　とにかく根性。何があっても立ち向かう根性。

　ええい何クソ、負けるかと、立ち向かう根性。　これが日本人として大事だと思います。

　…との事でしたが、最後に先生がおっしゃった、「亡くなった戦友に申し訳ない」という言葉が、印象的でした。

陸軍中野学校 指導下 霧島部隊 ⭐️ 九州 本土決戦の戦い方

陸軍中野学校指導下霧島部隊 ⭐️ 九州本土決戦の戦い方