先日、スタニスラフ・ブーニンのドキュメンタリー映画を観るため、
有楽町まで足を運びました。
横浜みなとみらいでの上映はすでに終了しており、どうしても観たくて出かけてまいりました。
スクリーンの中のブーニンは、
かつて私たちが知っている、華やかな若き天才ピアニストとは
どこか異なる佇まいを見せていました。
19歳でショパン国際ピアノコンクールに優勝し、
鮮烈なデビューを果たした彼。
その後の人生には、決して平坦ではない時間が流れていたことを、
この映画は静かに語りかけてきます。
手の故障や病、そして左足を8センチ切断するという過酷な出来事。
9年にも及ぶ演奏活動の停止。
それでもなお、彼は音楽へと戻ってきました。
そして彼は語ります。
「この年まで音楽家として、また人として人生を重ねてきて思うこと。
それは、ピアニストの仕事とは、音楽へ奉仕することだということ。」
この言葉が、深く心に残りました。
私自身、日々ピアノに向き合う中で、
同じ感覚を抱くことがあります。
音を“出す”のではなく、
音楽に“仕える”という在り方。
それは決して受動的なものではなく、
むしろ、全身で音楽を受け止め、
そこに自分を差し出していくような行為なのだと思います。
多くの経験を経たブーニンの音は、
以前よりも静かで、しかし深く、
どこまでも人の心に寄り添う響きを持っていました。
その音楽は、
技巧や華やかさを超えた場所で、
ただ純粋に「生きること」と結びついているように感じられます。
音楽に生かされ、
音楽に仕える。
その在り方を、あらためて教えてくれた時間でした。
