今日は、私が人生のほとんどを過ごしている「この町」についてお話ししようと思います。

自治体としての「〇〇町」の話ではなく、もっとミクロな、住所に書かれる「〇〇町」のお話。
私の先祖が代々根を張ってきた場所であり、私にとっては単なる住所録の一行ではない、血の通った場所です。
一見すると、どこにでもある「新興住宅地」かもしれません。
新しく越してきた人にとっては、隣の町との違いは「地価」や「土地の条件」という記号に過ぎないのでしょう。
でも、古くから住む人間にとって、町境の一線には意味があります。
そこにはかつての集落のつながりや、歴史的な区切りが隠れている。区画整理で綺麗に並べられた家々の下にも、変わらない「町の意思」のようなものが流れているのです。
そんな、ちょっとマニアックな愛着を込めて、私の愛する「住宅しかない町」をご紹介します。

「何もない」の質が高い、第一種低層住居専用地域のプライド
この町には、駅がありません。
駅までは歩いて5分ほどですが、それはお隣の町の管轄。
町の大部分は「第一種低層住居専用地域」という、建築制限が最も厳しいエリアに守られています。高いビルもなければ、ギラギラした看板もない。法律上は店を兼ねた住宅も建てられますが、実際には静かな戸建てがどこまでも続く、純度の高い住宅地です。
少し広い通り沿いだけが「第二種中高層住居専用地域」になっていて、そこに申し訳なさそうに(?)商業施設が点在しています。
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胃袋のバランスが、明らかに「おやつ寄り」
ここからが、この町の面白いところです。
人口約5000人、世帯数2200。この小さなコミュニティの中で、お店のラインナップが明らかに偏っているのです。
特筆すべきは、粉ものスイーツの充実ぶり。
パン屋:4軒
ケーキ屋:3軒
ジェラート屋:1軒

駅前でもないのに、この密度!
一方で、飲食店はかなりストイック。チェーン店はゼロ![]()
ランチも夜も営業している個人店が7軒(ラーメン、蕎麦、中華、イタリアン、ベジタリアンと、なぜかジャンルだけは網羅されています)と、夜の居酒屋が2軒。
「ガッツリ外食するより、美味しいパンを買って家でゆっくりしようよ」
町全体から、そんなメッセージが聞こえてくるようです。
昭和の残り香と、生活の断片
今どき珍しい風景もあります。
美容室5軒に対し、理容室が2軒もしっかり生き残っている。
あの赤・白・青のサインポールが回る風景は、この町の落ち着きによく似合います。
買い物は、こぢんまりとした食品スーパーとドラッグストアが支えてくれています。
それを補うように、肉屋、自然食品店、花屋、そしてコーヒー豆屋。
大型ショッピングモールのような便利さはないけれど、店主の顔が見える「専門店」が、暮らしの質を底上げしてくれています。
生きるために必要なものは、だいたい揃う
医療面では、クリニックが1軒に、なぜか歯医者さんは5軒。
動物病院や郵便局、ガソリンスタンドも1軒ずつ。
そして、遊び場は少し個性的。
ショートコースのゴルフ場
にテニスコート
。
三つの公園と、町を見守る神社と墓地、そして子供たちの声が響く保育園。
人が生まれ、育ち、遊び、そして眠る。
そのサイクルが、この狭い町域の中で完結しているのです。
足りないからこそ、愛おしい
最後に。
この町には、コンビニがありません![]()
ついでに言うと、本屋も、お寺も、学校もありません。
夜中にふと思い立ってカップ麺を買いに行くことはできません。
でも、朝起きて、数分歩けば4軒ものパン屋から選り取り見取りの焼きたてパンが買える。
午後のティータイムには、3軒のケーキ屋が手ぐすね引いて待っている。

「便利さ」を少し手放した代わりに、私たちは「豊かな日常」を手に入れているのかもしれません。
コンビニはないけれど、お気に入りのパン屋とケーキ屋があれば、この町は今日も十分すぎるほど幸せです。