プレイバック・和佳音 5 | フーテンの横チン

プレイバック・和佳音 5


2014・8・2~愛媛・松山市~
 イントロの最初の約10秒間、和佳音はずっとこっちを見ていた。たとえファインダー越しであっても、女の子に見つめられたら、ドキドキしてしまう。ましてや、アイドルだ。ヒラヒラと揺れるスカートで踊る姿がまぶしい。新聞社時代に有名スポーツ選手や大物歌手らを幾度となく撮ってきたけど、こういう感情は初めてだった。やっぱり似ている。笑った顔が22年前のあの子に似ている。エレキギターの音色を耳で、心で感じながら、シャッターを切った。
 「そよ風吹ける放課後 また明日って君の姿 少し長く見送った♪」。AiCuneの曲を初めて聴いた。曲名は知らないけど、かわいい声で、歌詞もいいね。もちろん、メロディもいい。自分の場合、曲を聴く時、歌詞を重視する。たとえ、メロディがよくても、テキトーな歌詞だと、一気に興ざめしてしまう。でも、聴いていくうちに、ちまたにあふれているアイドルソングとはひと味違うことが分かった。そして、もうすぐ不惑の男を高校時代にタイムスリップさせる歌詞が耳に入った。
 「三度目最後の季節 またダメだって 僕は一人空見上げる♪」。うわあ、自分と同じだ…。高校3年間、その子とはずっと同じクラス。ずっと好きだった。でも、小心者で自分に自信がまったくなかったから、積極的に話すこともできず、後ろから見ているだけだった。もちろん、告白なんてできなかった。もう戻ることのできない青春時代の甘酸っぱい思い出。いまでも、告白しておけばよかったと後悔している。だから、まるで自分のことを歌われているような気がした。
 そして、たたみかけるような決定的な歌詞が…。「好きだって言えない 本気だって言えない そうこれが恋だと分かってるけど♪」。サビの部分で、真横を向いた和佳音が自分のカメラに向かって人差し指を突き出した。真正面。そして、満面の笑顔。あの子とそっくりの笑顔を見せるアイドルが笑顔で歌っている。感動という言葉とは違う。なんとも表現しがたい感情が心を埋め尽くしていた。AiCuneの歌声、そして和佳音の笑顔が焼きついた。
 全部で5曲ぐらい歌っただろうか。もちろん、すべて初めて聴いた曲で、どれもいい曲だった。曲を聴きながら写真を撮るっていうのも楽しい。素直にそう思った。9人の女の子が「ありがとうございました!」とあいさつした後、退場していく。手を振りながら笑顔を振りまく。写真を撮っているのに気づいた和佳音が両手でVサインをつくって、満面の笑みでポーズを取ってくれた。現在なのか、過去なのか、分からなくなっている自分がいた。