このような文を過日いただき、現在、拙著の宣伝等に活用させていただいております。

 

 昭和後期から平成にかけて、岡山市内にある養護施設(現在の児童養護施設)・よつ葉園(モデルにしている施設はあるとのこと)を舞台に、旧態依然とした児童福祉の世界を改革していった大槻和男という養護施設長の生涯を軸に、職員や子どもたちの姿と生活模様を描いた作品である。

 

 与方氏は、実際に1975年秋から1988年春の6歳から18歳までの12年間にわたり、よつ葉園のモデルとなった養護施設での生活経験があるという。本書では、彼が養護施設で暮らしていく中で、そしてその後さまざまな場所で、様々な形で出会ったであろう児童養護施設職員という仕事に携わる大人たちの姿が、虚実織り交ぜて淡々と描かれていく。通例、この手の小説では、法令上児童と呼ばれる子どもたちとそれに対応する職員たちの姿が描かれるものなのだが、この作品ではどちらかというと、そこに勤めた職員たちの姿が物語の主軸となっていて、時には物語風に、そして時には回想風に、手法を替えつつ、つむがれていく。

 

 実際の与方氏は2人に「分割」され、さらにデフォルメされて登場しているのであるが、巻末の参考資料によると、それは自分のモデルを一人だけでは物語として持たせられないという判断の結果とのことらしい。

 実在の人物を複数足して一人の人物を作ることはままあるというが、本人をモデルにした人物を2人に分けるというのは、彼にとってはそれだけ相矛盾する自己を持っており、また、これから書くべきことがたくさんある故のことであろう。

 これはもちろんフィクションであるから実在の彼の身の回りに起きていたことではないとはいえ、養護施設児童だった彼が当時の職員という名の大人たちに対してどんな思いで接していたかさえも、描かれている職員たちの言動から垣間見える。

 

 昭和期の児童福祉の不十分さに底知れぬ怒りを抱えて生きてきた彼が、養護施設を大学合格と同時に「卒園」して、今年で32年。

 著者の経歴と抱き合わせて読むほどに、菊池寛の名短編「恩讐の彼方に」を思い起こさずにはいられない。

 本作にはまさに、養護施設出身者による、かつて彼の身の回りにいた大人たちに対する「恩讐」を超克し、その彼方へと至った著者の人となりが垣間見えて、実に興味深い。

 小説家・与方藤士朗の今後の活躍に期待したい。

                      (文芸評論家某氏より。拙著紹介のために寄稿)