今からわずか50~60年前、扇風機が珍しかった頃である。
春から秋にかけて、特に夏は、家々から縁台が出され、将棋が始まる。
夏の家の中は蒸し暑く、日がな一日窓は開け放ちで泥棒もいなかった。
夕暮れになると、大人も子供も、将棋盤を囲み、岡目八目の一発勝負が始まる。
子供には勝者にキャラメルが出ることもあった。
そんな時はみんな時間を忘れる。
縁台の下には蚊取り線香がたかれ、全員団扇持参で観戦する。
将棋の次のお決まりは、子供相手のお化け話と、肝試しと、相場が決まっていた。
近くのお寺の大楠を回って帰ると、お菓子が貰えた。
怖いし食べたいし、モジモジする様子を大人がからかい囃し立てる。
あれこれやっている内、水菓子や果物が出たりする。
近所中が和気あいあいで、付き合っていた。
寝室には何処の家にも蚊帳が張られている。
蚊帳に入るルールも決まっている。
入る直前団扇で回りの蚊を追い払いその隙に素早く入る。
蚊帳の中に蚊を入れたら悲惨である。
蚊帳に止まった蚊は見えにくい為、一旦蚊帳をたたみ踏みつけたり叩いたりの大騒ぎ。
それほど蚊には悩まされたしもっと憎いのがノミである。
布団の下にDDTの粉をまき散らし寝る。翌朝布団を捲ると弱ったノミが居たりする。
公害など知らなかったとは言え、おおらかな時代であった。