
山に初めて登るという奴を連れて、去年3度も行って慣れた牛奥ノ雁ヶ腹摺り山登山。
埼玉から中央本線 甲斐大和の駅まで出てくるというので、そこで拾って行こうという算段だが
ホントに来るのかどうか半信半疑のままヨコハマを出て・・・
中央道、初狩パーキングでトイレを済まし、サブイ。
まだ月の残る空を見上げながら
雪に覆われた町を撮ろうとカメラを構えたら、右下に、ヤヤあれは富士山?

大体今日(土曜日)の天気予報は 日本気象協会もNHKのも 曇りのち雨。
天気が悪いんじゃ行ってもしょうがない。山は逃げないから又の機会をとその25歳の若者と話しながら
それでも金曜まで待って決めようということにしてたが、大所の予報は変わらないのに
ネットの「てんきとくらす」のピンポイント予報じゃ昼まで、「マピオン天気予報」に至っては午後の3時まで晴れ!
こりゃ決行だろと、金曜の朝に25歳に電話して・・・

それから、山の麓のいつもクルマを停めさせてもらうペンションに電話すりゃ、
ココまでは除雪してありクルマで来られますが、先日の大雪でここらへんでも30cm積もりました。
山の上は50cmくらいあるんじゃないですか?
え~~~?でも踏みアトはあるんでしょ?
ダレも登ってませんよ、こんな季節に・・・とにかく危ないと思ったら登るの中止しておりてきてくださいね。
ちなみに写真の富士山の下にトンネルのようなものがヨコに延びてるのは、リニアの実験線らしい。

まあ、いけるとこまで行って 雪山の気分を味あわせりゃいいかと待ち合わせの甲斐大和駅。
それより、ほんとにくるのかどうか 列車が到着するのを上から見ていたら
降りたのはたった一人、マスク姿の・・・あいつか?

とりあえず、一枚撮っとくか。
遭難したら、見納めの写真になるかもしんねぇからな。

いつものペンション前の駐車場にクルマを停め、チェーンスパイクをつけてイザ、出発!

最近の銀行は金利じゃ食えないと、いろんな手数料商売に手をだしているが
この25歳の銀行員は、来ても仕事の話は1分、あとは彼女と どこに行った、
今度行くのに、どこかいいところはないか などと聞いてきて、

オレも出世欲のない、今時のこういうのと話があって あっちがいい ここはどうだ、
信州なら高ボッチや上高地、熱海ならどこそこ 箱根は・・・と来るたびに話が弾み

このまえの休みは、どこどこに行ってきましたと報告を聞いてたが
先日、ジャンボ宝クジを売りに来て浮かない顔、
「彼女と別れました・・・」
ハハハ、フラれたか?
「彼女、学生でしょ?いろいろと時間が合わなくて話し合って別れました」

鹿柵の向こうに見えるのが、今日登る牛奥ノ雁ヶ腹摺り山だ!

ハートブレイクにゃ山登りが一番だよ。今度行くか?と冷やかしで水を向けると
「行きます」
オレが時々、山の楽しさを吹き込んでたからすぐその気になった?
写真、左手に富士山、右手には南アルプス。

ホントかよ!
山、登ったことあるの?
ありません。

登山靴は?
持ってません。
丁度、その日、東京でも二度目の雪予報に予備の登山靴を履いて出社していた。
大きさは26.5cm?コレ履いてみろ、と貸したらピッタシカンカン。

防寒具と手袋は必須、雪があるからチェーンスパイクという簡単なアイゼンみたいなのを買えよ。
2、3千円だよ。あと女子高生が昔履いてたようなルーズソックス、雪が靴に入らなくていいんだよ。
それに、上でモチ入りラーメン作ってやるから500mlの水と、お菓子もなにか買ってこいよ。
大学で同好会だけど野球やってたというから、体力はシンパイないだろ。

というわけだったけど、天気予報が悪く決行と決めたのが前日、
寒いから耳をおおえるのもかぶってこいよと金曜に電話し、それでも来るかどうか半分疑問だったが
スノボーをやってたとかで、丈の長いズボンに一応山行き用の格好で
ヨシ、先に行ってくれ。「ラッセル係りじゃ!」

ラッセルってなんですか?
ホラ、ラッセル車って聞いたことない?
ああ、雪かきするやつですね。

ペンションの奥さんが言った通り、けものの足跡しかない登山道を先に歩いてもらい、
オレはその踏みアトを辿るラクチン作戦。
「いいアイゼンだな~、いくらした? 6000円?オレのの倍以上やないか」
金曜、会社から母親に電話して買ってもらったもので、2本爪なら2,000円だったけど
6本爪の6,000のを買った?どこの母親も息子には甘いな~。
それで、初めて雪山に行くってお袋さん、シンパイしなかった?
「しましたよ。ベテランの山男が一緒だからダイジョウブって・・・」
ダレがベテランじゃ!

アッ、白樺か桜の枝の皮?マゴにオミヤゲに拾っていこう。

しかし、今日こんなに良い天気になるとは思わなかったな~。
水曜のときはやめようかなんて言ってたんだもんな。

これも、おみやげだ。安上がりでいいだろ?

オレはハ~ハ~ゼイゼイ、
奴は「初心者が登る山じゃないですね」といいながら さくさくと登ってゆく。

「リボン見落とすなよ、オレはそれで迷ったんだからな」

シカの足跡だ。
これについてったら、迷うぞ、赤いリボン頼りに行ってくれよ。

あんたのお父さん、いくつ?
今年還暦です。
ふ~ん、じゃへたしたらオレはおじいさんか。

山の林の中は、ペンションの奥さんに脅かされたほどの雪は積もっていなくて
この分なら頂上まで行けそう?
ヒザまである雪を想像したけど、ここんとこの暖かさで融けてるんじゃないか?

ヨユウで岩の上の雪を払って遊んでる。
パウダースノーですね~。
さすが25歳は若い。
オレは付いて行くのに精一杯。

これなんの足跡ですかね~。
こんなふうにそろえてるのはウサギ?

しかし歩幅がでかいな。大うさぎ?
カンガルーじゃないですか・・・
クマかも。
えっ?

8時15分くらいに歩き始め、普通で2時間ぐらい、雪があるから今日は3時間と踏んでいたが
途中のパノラマ岩が遠い。あそこまで行けば5分の4、あと少しなんだがな・・・

これはシカだ。
やっぱり、雪は疲れる。時間も疲れもいつもの1.5倍くらいかかって

やっと、パノラマ岩。
もう3時間経過してる。

景色に感激し、静寂さに驚き、非日常の世界は新鮮?
失恋の憂さを晴らすにゃもってこいだろ。

大きな岩のうえに雪がかぶって
滑り落ちるなよ。
持ってきたバームクーヘンを分ければ、
奴はトンガリコーンをとりだして「食べますか?」・・・それはちょっとエンリョしとく。

さあ、もう一フンバリ。
ラーメンが楽しみという奴を励まし、というかオレ的にはかなりいっぱいいっぱいだったが

ホラ、シカが食ったあとだとか、会話しながら登るのも 気がまぎれていいか。

そして、頂上直下のシラビソの立ち枯れの林。
この景色は、ここを直登する奴しか見れないんだ。
大菩薩のほうから尾根を縦走したんじゃ見れない光景・・・

富士山は薄くなってるけど、上にかかってるのが笠雲、雨が降る前兆だ。
昔の人は観天望気といって、雲だけじゃなくていろんなことから天気を予想したんだ。
知ったかぶりを教えて、

ココを抜ければ頂上だ!

マゴのオミヤゲにするにゃナンだな。

うわ~着いた。
だれの足跡もない真っ白な頂上。
ハイタッチを交わし、まさか頂上まで来れるとは思ってなかったよ。
さっそくラーメン作るか。
一人用のバーナーだから2回作らにゃいかん。
水出せ!
エッ、来る途中で飲んできたの?フザケンナヨ!
ラーメン、濃くなっちゃうじゃないか!
ま、いいか。そこらへんの雪、融かそう!

雪を山盛りに入れ、風よけに雪で囲いを作って

フタ、忘れた。
ラーメンの袋でフタをしてとりあえず雪を溶かし、
ナニが一人分づつ小分けに作ってくれた、野菜とモチが入った袋の中身をを投入して

ガスを全開にしてたら、又沸騰。まわりに吹きこぼれて、
雪、ぶち込め!
毎回同じアヤマチを繰り返してる。

うまいウマイというけど、ウマイはずだよな。
あんな良い空気と景色とハラペコなんだから。
さあ、下りこそ油断するなよ。
自分にも言い聞かせ、
それでも、何回か尻餅をつきながら、
まあ、ここで遭難しても、頂上にはラーメンの汁がこぼれて、登頂したという証拠は残してあるからな。

あれが、登ってきた山だ!
直前にも転んで雪の中にカメラをぶちこんだから、黒いフレームがずれて映りこんでる。

サイゴの雪道に、足取りも軽快に降りてく奴のあとをよろよろ、
25歳と70歳の差はやっぱり大きい。
だれとも出会わず、7時間に及ばんとする雪中の山歩きを終えて帰ってくれば、

ペンションの奥さんから、頂上まで行ってきたの?と驚かれ、自家製の山ぶどうジュースをイッキ飲み。

電車の時間まで、途中の恒例の温泉にゆっくり浸かり
明日は疲れが出るぞ、ゆっくり休めよと言えば
「明日は、別れた彼女とお酒を飲むんです」
フザケンナヨ!