信州の母の実家にも、一本の臘梅の古木があるが
あちらの春は遅いので、まだ固いつぼみのままだろう。
「冬長き 信濃の母にと 仕上げたる
綿入れ羽織 明日は送らむ」
母が、そのまた母のことを詠んだ歌も載っている
出来上がったばかりの遺稿集を携えて、実家を訪ねた時
親より先に逝った娘の歌集を胸に
おばあさんは声をあげて泣いた。
「オイ、そろそろ17回忌ぐらいになるんじゃないか?」
ナニは指折り数えて
「来年・・・」
私は外に出て、臘細工のような花にそっと近づき
冷気と一緒にその匂いを、胸いっぱい吸い込むのだ。