だけど、みんながワザと負けてくれたことぐらい、ちゃ~んとわかってます。
でも、賞金はありがたく頂戴いたします」
昨晩、見た夢ではこうなるはずだった。
ところが、現実は危惧してた通り、
血液型がABの奴が、竹さんには予定通り負けたものの、
他を全勝してしまい優勝。ったくAB型というのは・・・
竹さんは、ガチンコの勝負の人たちに負けて、準優勝になってしまった。
それでも開闢以来のことと大喜び。
こちらも、準優勝の方がもっともらしくていいかと納得。
米寿のお祝いの会に席を移してからも
帰って、奥さんに自慢するからと、準優勝の袋をうれしそうに
ポケットに仕舞い込んだので、本当のことはとても言い出せなかった。
12年物の紹興酒の”上澄み”を飲みながら、竹さんの戦争の話に・・・
「私はね、東京を防衛する高射砲部隊にいたんですよ。
それが戦争末期になって撃つ玉がなくなってきてね~
それで、皇居を守る、肉弾攻撃隊に選ばれたんだ」
「選ばれた~?誰も見てね~からな」
「うるさい、通称ニッコー隊、勇敢な奴が行くんだ」
「じゃ、余計怪しいじゃない。」
「いいんだよ、ほら、そこの靖国通りのマンホールの中に隠れてて
敵のM4戦車がきたら、飛び出して行って地雷を放り投げるんだ。
地雷はね、磁石になってて戦車にくっついて爆発するというわけ」
「マンホール?」
「そう、一人一人、マンホールに隠れるんだよ。
アメリカ軍が千葉の銚子に上陸して、上野を通って九段の坂を上がって
宮城に攻めてくるのを想定して、訓練をしたんだよ。
マンホールのフタをちょっと開けて、相手が来るのを待つんだ。
訓練だから、リヤカーの上に木で作った模型の戦車めがけて地雷を投げつけるんだ」
「ウソみたいな話だね~?そのマンホールって今でもあるの?」
「あるある、ありますよ。”私のマンホール”、
靖国神社の鳥居の前を左に行ったところ、今度、教えてあげるよ」
別に教わらなくてもいいけど、私のマンホールって言い方もすごいね。
本物の戦車が坂を上がってきてたら、米寿のお祝いもなかったわけで、
今度は卆寿のお祝いをしてくれと、ご機嫌で花束を抱えて帰っていったので、
まあ、作戦は成功したといってもいいんだろう。
このままお元気で、無事、卆寿を迎えたなら、その時はバラすか。