その日の朝、おじいさんから小皿を渡され、サトイモの葉に溜まった露を集めてくるように言われる。
その露で墨をすり、短冊に願い事を書くと、習字がうまくなると言われた。
おじいさんが裏の竹やぶから切ってきた笹にいろいろな願いを書いてつるした。
ある年、葉をいくら覗いても露が見つからず、仕方なく池の水をすくって持ってったことがあったが、すぐに見抜かれた。
今、考えてもどうしてわかったのか不思議だ。
いつもより、水が多かったのかもしれない。それとも、どこかで見守っていてくれたのか・・・
次の朝、おじいさんは、短冊がぶら下がった笹を肩に担いで天竜川にかかる橋に下りて行く。オレはそのあとをホオズキやらお供えものを持って付いて行く。
橋の真ん中でおじいさんとオレはそれを川に投げ込む。
あのあたりは、峡谷で川幅もぐっと狭く、川面までの高さもかなりあった。
てすりから覗き込んで水面に落ちたのを見ると、すぐに反対側の手すりに行って、見えなくなるまで見送った。
遠い昔の夏休みのことでした。