この辺りには魔力は漏れてないのか・・・
少女は思った。キューべと呼ばれるダチョウのような動物にまたがり腰にはホスターと短刀を、
背中にめフィア製の長い銃身のメフィア?魔力駆動型を携えていた。
砂漠に忘れ去られた遺跡を思い起こされる枯れ果てた、かつては栄えていたであろう街の中にキューべを留め夜に備える。
手持ちの弾薬を確認する。彼女はこの時代には珍しい魔力を必要としない銃を持っていた。
薬莢も火薬も入手が困難になりつつある為ムダにしないための整備は欠かせない日課であった。
小銃を解体し、小気味よい音と共に(一日のうちにこれほどまでにホコリが溜まるものかといぶかしりながら)
銃の内部を丁寧に掃除していく。
「あ・・・ちくしょう・・・」
さいきんめっきりサボっていた魔力供給の儀式を仕様と円陣を引きその中心に立ったときにサキは呟いた。
ここには魔力溜りがないことは確認したばかりだった。
恨みがましい目でキューべの横に釣っていたチェッカーを見る。
「魔法なんて不確かなものと、いい加減なサキは合わないよ。」
ついさっき手入れしたばかりの小銃がしゃべる。
「だいたい、いつも言ってるだろう?サキは、もうそろそろこんな旅生活からオサラバするべきだってさ。
先の力があれば永住地なんかすぐ見つけられるじゃん。」
そう。確かにそうは思うのだが、サキは[あんな]所にとどまるのはイヤだった。
たとえ街中が魔力に包まれて料理も、炊事も洗濯も通勤やデートでさえも魔法とその媒体を使えば楽だったとしても、だ。
地下に閉じ込められるのは嫌だった。
街は地下。魔力を創りだす巨大危険極まりない施設と共にする生活を(万が一の事故の恐ろしさから)人々が捨て去ったからだ。
もちろん、変わり者もいる。例外はどこにでもいるものだ。
街の上には人工の岩盤が幾重にも引いてあり、最悪のケースにも対応している(らしい)。
一度街で本格的に生活を始めてしまえば、もう煩雑に押しつぶされて出てくることはそうそう叶わないだろう。
それが、サキには分かっていた。
そして今はそれよりも・・・・
「ねぇ、サキ~?人の話、聞いてるー?
別にサキがどうしても僕と旅を続けたがってたいってなら僕だってやぶさかじゃないけどさ・・・」
愛銃シェドが可愛かった。街に住んでいたら愛銃(カレ)と一緒に入られることはない。誰かに貰われるなんて嫌だった。
「あー、もう!はいはい。そーですね~。」
残り多くはない魔力を鍋にやや乱雑に突っ込み乾燥食料を入れ終わると、魔力を熱に変換して食べ飽きた旅行食を食べる。
手早く食べると残りを またこれか。 とでも言いたそうに「フンッ」と鼻を鳴らすキューべの鼻先に持って行き下に置く。
ぺろぺろ食べ始める音を聞きながら料理後の残りカスのような小さな魔力溜りを引き散らした。
辺りが暗くなる。
「おやすみ。明日は久しぶりに街へ入ってみようか。」
シェドに話しかけたがどうやら彼は早々に眠っていたようだった。
解体掃除は気持ちよいけど疲れるらしい。
(銃って、寝るのかな・・・そもそも、自分のこと人ってさっき言ってたよなぁ・・・ ヒト・・・なの?)
繰り返し繰り返し考えてきたことを頭の隅によぎらせながら、サキは今回は少し長いをしようと考えていた。
魔力を本格的に集めるには、-この3年やっていなかった術式がスムーズに進めば-少なくとも1月はかかるはずだった。
前に魔力を集めたのは1週間前。
彼女がサボっていたのは偶然にも盗賊にも合わず銃撃戦もなく、魔力を多く使うことがなかったからである。
これまでの旅で魔力瓶はほぼ空だった。
一日過ごすくらいの魔力はところどころ漏れている魔力溜りで補充できた。
それを地道に貯めていたのだが・・・それも少し面倒くさくなっていた。
キューべに揺られながらサキの頭には街の温かいシャワーとふかふかのベットしか頭になかった。が、
キューべの警戒音にホスターに手を伸ばす。
殺風景な岩だらけの道に危険の気配は感じられなかった。
「ここが入り口だってさー。」
「どこ・・が・・・?」
「さぁ?」
たしかに人の息づく気配はある。漏れ出す魔力もある。
とりあえず、キューべを降りて腹ばいになってみる。
「あ・・・」みつけた。
街の入り方は様々である。
いつか訪れたところは、かつてはパブだったらしい廃墟を通りぬける。
その裏手にあるレンガ壁の一部を押すとスルスルと開くという仕組みになっていた。
大体はそんなフクザツではない。
しゃがめばベールの下からか0点の内側を覗けるように街の入口が見え、
その眼前に銃口がつきつけられるというのが常であった。
そして、大概は・・・身体検査を受けて、滞在の理由やら持ち込み荷物の検査やらを受けて、
滞在査証に印をもらう。それで終わりだった。
最近は魔力を込めてそれを読み取ることで身分が証されるものもある。
実は、彼女もソレを所持していた。
(薄い手袋の下の手の甲にソレはある。刻印された印とそれが隠されるわけはまた別の話。)
手帳サイズの査証を使い、無事に通る。
武器の所持が咎められることはなかった。
旅人が所持することは当然であり、メフィア?をしまい込める箱をもらっただけであった。
「これは・・・?」
「さすがに目立つ武器は・・・少々お手間となりますが」
サキは少々複雑な術式を終えると箱を背負ってキューべとともに街の喧騒に身を包んでいた。
「これは、あなたの指にしか反応しません。ご利用の際は、ケースのグリップを強く握ると開きます。
ケースはあなたの意思なくしては反応しません。
あ、ご返却の必要はございませんよ。一人しか登録できぬようになっておりますので!
では、ご滞在をお楽しみください。・・・ただし、街中でそれを開かれたら我々にはわかります。
ご不便をおかけしますが、街の治安確保にご協力ください。」
そうにこやかに送り出されて。
「・・・ねぇ、シェド?これさ、あたしが魔力充電しようとしたらケーサツがとんでくるって事?」
「さぁ・・・かもね~」
客層-地下シェルターの如き街の中程の層-へ降りるトロッコに揺られながらシェドと話した。
隣で揺られるキューべはがたがたと震えていた。・・・怖いのだろうか。
とりあえず、ソレ以外は過ごしよさそうな所だった。
しかし・・・なかなか泊まる場所は決まらない。
途方にくれる。
「中円以上(半径3m程)の魔方陣がひけて、ベッドと温かいシャワーがあり、キューべを泊められる空間があり、そして安い」
そんな好条件、そうそうあるわけはなかった。
ここ、中層は人通りの多いところであった。街の商業の中心である。
大きな土地を持てる宿主はそういない。
困って立ち止まってたところで、後ろからとんっとぶつかる。
「失礼。」と聞こえた時に、相手は体制を整えて歩き出していたし、
「サキ」と聞こえた時にはもう相手の方を掴んでいた。
そして、うん。と言った時には彼女の右手は相手のアゴに綺麗に入っていた。
そして、宙を舞ってサキの手に収まったのは・・・サキのカワイイ財布だった。
肩を掴まれた直後に暗転する世界の中で、やっぱりなと思った。
純、ソレが俺が与えられた名。邪な俺にこれ以上似合わぬものもない。
技術学校で人の注意の逸らし方を知り、スリになった。
幸いにもごくごく一般的な見た目をしている為警戒されることは少なかった。
不幸にも領主に密命を与えられたのは断ることは失敗するよりもマイナスになる判断をできてしまったから。
全く、面倒な事この上ない。
俺の故郷(くに)を離れてからのことは、中の人が気分次第で書いてくれるだろうよ。大したことはない。
とりあえず、武器も所持せずにここまで来られたのは商売道具の指と神の気まぐれだ。いや、商売道具は頭脳(ブレイン)か。
意識をそらさせること、筋肉の正確に動かすことにだけは絶対的な自信がある。
しかし、そもそも独りでやるのには向いてないことばかりだ。
旅の道連れがほしい。欲を言うならいい女がいい。
依頼を受けて盗みに入るようには陽動のために人がほしい。
金で雇ったヤツらは言ったことしかやらねぇし。
「腕のいい相方がそろそろ欲しい。」
そう思って比較的旅人の多くくるこの街にきて早2週間。
金に困ることはない、ないが・・・そろそろ依頼された仕事をしないと
クライアントのキゲンを損ねるとこの街ではもうろくな仕事はない。
クライアントの別荘もそろそろ一人では広すぎる。
彼女を見つけたのはそんな時だった。
遠目にもソレとわかる旅人そのものだった。
まだ、子供のようでもあったが、くぐり抜けてきた死線の数が彼女から漂っていた。
女の子には極端に少ないとはいえ、
両側に荷をくくって尚逞しい疲れを知らなそうなキューべを従えて、いかにも困った空気を発していた。
俺は少し悩んだ。
最近読んだ探偵小説のように彼女を当てるのか、すってポケットに手紙を忍ばせるか、を。
結局、普通にすった。強引に行けば大丈夫そうだと思いながら。
「手紙だよ」
「・・・え?」
刹那に感じたただならぬ気配は気のせいだったと思い直して、倒れてる無礼感から財布を取り返した直後にシェドの意外な一言。
ホスターの内側にどうやったのか
「助け起こしてくれ。話をしよう。」
名刺の裏に一言のメッセージ。
とりあえず「お茶の誘いだよきっと。」というシェドの言葉を信じて
不審そうに目を向ける人々を無視して男-純-を引きずって道の外れの喫茶店に腰を掛ける。
しばらくすると、ふんわり漂う紅茶の香りに誘われるように男は目を覚ます。
「助け起こしてくれ。って書いたと思ったんだけど・・・」
引きずってきた道のりを指し
「助け・・・」
紅茶を持ち上げ
「起こした」
サキは平然と答える。
「・・・ま、まぁいいや。」
気をとりなおして
さきちゃ・・・まで言ったところでハンマーのあがった銃が純の額に押し付く。サキの目が細くなる。
「何故・・私の名を・・・」
「やだなー、さっきこの子が言ってたじゃーん。それにしても珍しいね、しゃべるワルサーP99なんてさー。キミ名前なんていうの?」
「シェドって呼んで。兄さん、超能力者みたいだね~。ひょっとして、スプーン曲げられたりできる??」
「ん~、そりゃ出来ないけど、君のご主人サマが泊まる場所が見つからなくて困ってることと、僕がソレを提供できそうなこと。
それから、サキちゃんのスリーサイズくらいなら訳なく提供できるヨ?」
一瞬見開かれた後、指にかかるトリガー。
「まぁ、待てって。そんな荷物抱えてれば誰でもわかるし?
スリーサイズはさっき財布を頂いたときに確認しちゃっただけ。
初歩的な-」
「「推理だよ。ワトソン君?」」
いつしか読んだお気に入りの探偵小説調で締めくくろうとしたところがシェドと被る。
互いに顔を見合わせニヤッと笑いあった。(と、純は勝手に思った。)
「それ・・・推理でもなんでもないんじゃ・・・」
虚しくつぶやくサキの声はすっかり意気投合した二人(?)の前に虚空に消えて行った。
ヤケクソ気味になんの用かを聞こうとして先をこされる。
「それで、お手紙の要件はなんだったの~?」
「そこなんだよねー。とりあえず、場所、移さないかい?
そんなに銃を振り回すから、ほら・・・みんなが怖がってるよ。」
言われて周りを見回すと客のいない喫茶店のウエイター、通りを通る人達が遠巻きに見ていた。
「だ~いじょうぶ!俺、丸腰だし。」
という言葉に何が大丈夫だんだよ!と思いながら半ば引きずられるように、純の宅にいた。
案内されたのはふかふかのベッドがあり、シャワー付きの!しっかりと鍵がかかる作りの部屋だった。
もうこれだけでとりあえずなんでも良かった。
「お湯出る?」
「でますとも!火傷しないようにね~。バスタオル持ってくるよ。」
サキは既に中に入っていた。
「サキちゃ~ん、バスタオル持ってきたよー。」
言い終わる前にバスルームの戸が少し開いて、もう閉じていた。
もちろん、バスタオルなんかもう純の手の中にはない。
想像以上に手強い相手だった。
純はやれやれと思いながらキッチンに入り、夕食を作り始める。
シチューが出来上がり、キューべがボンレスハムを満喫し終わる頃サキは幸せそうな顔をして出てきた。
それはそうだ。
シャワーこそ旅人の幸せだ。
魔力を使って体を清められるとはいえ、湯を浴びられるというのは幸せなものである。
温かいシャワーですっきりしたサキは
「それで?純さん、でいいのかな?何故私をここに?」
少し元気になっていた。先程までのそっけなさはイライラから来ていたところもあったようだ。
ソレも読まれていたのかもしれない。
サキは考えていた。
「大したヤツだ・・・」
シャワーの中でつぶやいていたことはシェドしか知らない。
シェドは不安もなさそうだと思い、部屋においてきた。
不思議と、この純という男を信用し始めていた。
ソレが純が培ってきた技術の一つだとまだ彼女は知らない。
1月ほどの間街を表から裏から騒がせた二人組の盗賊の噂はある日、ふと消える。
街の一角から消えた一匹のキューべと共に・・・
二匹のキューベト二人の旅人、ものがたりはここから始まる・・・
To be continued
少女は思った。キューべと呼ばれるダチョウのような動物にまたがり腰にはホスターと短刀を、
背中にめフィア製の長い銃身のメフィア?魔力駆動型を携えていた。
砂漠に忘れ去られた遺跡を思い起こされる枯れ果てた、かつては栄えていたであろう街の中にキューべを留め夜に備える。
手持ちの弾薬を確認する。彼女はこの時代には珍しい魔力を必要としない銃を持っていた。
薬莢も火薬も入手が困難になりつつある為ムダにしないための整備は欠かせない日課であった。
小銃を解体し、小気味よい音と共に(一日のうちにこれほどまでにホコリが溜まるものかといぶかしりながら)
銃の内部を丁寧に掃除していく。
「あ・・・ちくしょう・・・」
さいきんめっきりサボっていた魔力供給の儀式を仕様と円陣を引きその中心に立ったときにサキは呟いた。
ここには魔力溜りがないことは確認したばかりだった。
恨みがましい目でキューべの横に釣っていたチェッカーを見る。
「魔法なんて不確かなものと、いい加減なサキは合わないよ。」
ついさっき手入れしたばかりの小銃がしゃべる。
「だいたい、いつも言ってるだろう?サキは、もうそろそろこんな旅生活からオサラバするべきだってさ。
先の力があれば永住地なんかすぐ見つけられるじゃん。」
そう。確かにそうは思うのだが、サキは[あんな]所にとどまるのはイヤだった。
たとえ街中が魔力に包まれて料理も、炊事も洗濯も通勤やデートでさえも魔法とその媒体を使えば楽だったとしても、だ。
地下に閉じ込められるのは嫌だった。
街は地下。魔力を創りだす巨大危険極まりない施設と共にする生活を(万が一の事故の恐ろしさから)人々が捨て去ったからだ。
もちろん、変わり者もいる。例外はどこにでもいるものだ。
街の上には人工の岩盤が幾重にも引いてあり、最悪のケースにも対応している(らしい)。
一度街で本格的に生活を始めてしまえば、もう煩雑に押しつぶされて出てくることはそうそう叶わないだろう。
それが、サキには分かっていた。
そして今はそれよりも・・・・
「ねぇ、サキ~?人の話、聞いてるー?
別にサキがどうしても僕と旅を続けたがってたいってなら僕だってやぶさかじゃないけどさ・・・」
愛銃シェドが可愛かった。街に住んでいたら愛銃(カレ)と一緒に入られることはない。誰かに貰われるなんて嫌だった。
「あー、もう!はいはい。そーですね~。」
残り多くはない魔力を鍋にやや乱雑に突っ込み乾燥食料を入れ終わると、魔力を熱に変換して食べ飽きた旅行食を食べる。
手早く食べると残りを またこれか。 とでも言いたそうに「フンッ」と鼻を鳴らすキューべの鼻先に持って行き下に置く。
ぺろぺろ食べ始める音を聞きながら料理後の残りカスのような小さな魔力溜りを引き散らした。
辺りが暗くなる。
「おやすみ。明日は久しぶりに街へ入ってみようか。」
シェドに話しかけたがどうやら彼は早々に眠っていたようだった。
解体掃除は気持ちよいけど疲れるらしい。
(銃って、寝るのかな・・・そもそも、自分のこと人ってさっき言ってたよなぁ・・・ ヒト・・・なの?)
繰り返し繰り返し考えてきたことを頭の隅によぎらせながら、サキは今回は少し長いをしようと考えていた。
魔力を本格的に集めるには、-この3年やっていなかった術式がスムーズに進めば-少なくとも1月はかかるはずだった。
前に魔力を集めたのは1週間前。
彼女がサボっていたのは偶然にも盗賊にも合わず銃撃戦もなく、魔力を多く使うことがなかったからである。
これまでの旅で魔力瓶はほぼ空だった。
一日過ごすくらいの魔力はところどころ漏れている魔力溜りで補充できた。
それを地道に貯めていたのだが・・・それも少し面倒くさくなっていた。
キューべに揺られながらサキの頭には街の温かいシャワーとふかふかのベットしか頭になかった。が、
キューべの警戒音にホスターに手を伸ばす。
殺風景な岩だらけの道に危険の気配は感じられなかった。
「ここが入り口だってさー。」
「どこ・・が・・・?」
「さぁ?」
たしかに人の息づく気配はある。漏れ出す魔力もある。
とりあえず、キューべを降りて腹ばいになってみる。
「あ・・・」みつけた。
街の入り方は様々である。
いつか訪れたところは、かつてはパブだったらしい廃墟を通りぬける。
その裏手にあるレンガ壁の一部を押すとスルスルと開くという仕組みになっていた。
大体はそんなフクザツではない。
しゃがめばベールの下からか0点の内側を覗けるように街の入口が見え、
その眼前に銃口がつきつけられるというのが常であった。
そして、大概は・・・身体検査を受けて、滞在の理由やら持ち込み荷物の検査やらを受けて、
滞在査証に印をもらう。それで終わりだった。
最近は魔力を込めてそれを読み取ることで身分が証されるものもある。
実は、彼女もソレを所持していた。
(薄い手袋の下の手の甲にソレはある。刻印された印とそれが隠されるわけはまた別の話。)
手帳サイズの査証を使い、無事に通る。
武器の所持が咎められることはなかった。
旅人が所持することは当然であり、メフィア?をしまい込める箱をもらっただけであった。
「これは・・・?」
「さすがに目立つ武器は・・・少々お手間となりますが」
サキは少々複雑な術式を終えると箱を背負ってキューべとともに街の喧騒に身を包んでいた。
「これは、あなたの指にしか反応しません。ご利用の際は、ケースのグリップを強く握ると開きます。
ケースはあなたの意思なくしては反応しません。
あ、ご返却の必要はございませんよ。一人しか登録できぬようになっておりますので!
では、ご滞在をお楽しみください。・・・ただし、街中でそれを開かれたら我々にはわかります。
ご不便をおかけしますが、街の治安確保にご協力ください。」
そうにこやかに送り出されて。
「・・・ねぇ、シェド?これさ、あたしが魔力充電しようとしたらケーサツがとんでくるって事?」
「さぁ・・・かもね~」
客層-地下シェルターの如き街の中程の層-へ降りるトロッコに揺られながらシェドと話した。
隣で揺られるキューべはがたがたと震えていた。・・・怖いのだろうか。
とりあえず、ソレ以外は過ごしよさそうな所だった。
しかし・・・なかなか泊まる場所は決まらない。
途方にくれる。
「中円以上(半径3m程)の魔方陣がひけて、ベッドと温かいシャワーがあり、キューべを泊められる空間があり、そして安い」
そんな好条件、そうそうあるわけはなかった。
ここ、中層は人通りの多いところであった。街の商業の中心である。
大きな土地を持てる宿主はそういない。
困って立ち止まってたところで、後ろからとんっとぶつかる。
「失礼。」と聞こえた時に、相手は体制を整えて歩き出していたし、
「サキ」と聞こえた時にはもう相手の方を掴んでいた。
そして、うん。と言った時には彼女の右手は相手のアゴに綺麗に入っていた。
そして、宙を舞ってサキの手に収まったのは・・・サキのカワイイ財布だった。
肩を掴まれた直後に暗転する世界の中で、やっぱりなと思った。
純、ソレが俺が与えられた名。邪な俺にこれ以上似合わぬものもない。
技術学校で人の注意の逸らし方を知り、スリになった。
幸いにもごくごく一般的な見た目をしている為警戒されることは少なかった。
不幸にも領主に密命を与えられたのは断ることは失敗するよりもマイナスになる判断をできてしまったから。
全く、面倒な事この上ない。
俺の故郷(くに)を離れてからのことは、中の人が気分次第で書いてくれるだろうよ。大したことはない。
とりあえず、武器も所持せずにここまで来られたのは商売道具の指と神の気まぐれだ。いや、商売道具は頭脳(ブレイン)か。
意識をそらさせること、筋肉の正確に動かすことにだけは絶対的な自信がある。
しかし、そもそも独りでやるのには向いてないことばかりだ。
旅の道連れがほしい。欲を言うならいい女がいい。
依頼を受けて盗みに入るようには陽動のために人がほしい。
金で雇ったヤツらは言ったことしかやらねぇし。
「腕のいい相方がそろそろ欲しい。」
そう思って比較的旅人の多くくるこの街にきて早2週間。
金に困ることはない、ないが・・・そろそろ依頼された仕事をしないと
クライアントのキゲンを損ねるとこの街ではもうろくな仕事はない。
クライアントの別荘もそろそろ一人では広すぎる。
彼女を見つけたのはそんな時だった。
遠目にもソレとわかる旅人そのものだった。
まだ、子供のようでもあったが、くぐり抜けてきた死線の数が彼女から漂っていた。
女の子には極端に少ないとはいえ、
両側に荷をくくって尚逞しい疲れを知らなそうなキューべを従えて、いかにも困った空気を発していた。
俺は少し悩んだ。
最近読んだ探偵小説のように彼女を当てるのか、すってポケットに手紙を忍ばせるか、を。
結局、普通にすった。強引に行けば大丈夫そうだと思いながら。
「手紙だよ」
「・・・え?」
刹那に感じたただならぬ気配は気のせいだったと思い直して、倒れてる無礼感から財布を取り返した直後にシェドの意外な一言。
ホスターの内側にどうやったのか
「助け起こしてくれ。話をしよう。」
名刺の裏に一言のメッセージ。
とりあえず「お茶の誘いだよきっと。」というシェドの言葉を信じて
不審そうに目を向ける人々を無視して男-純-を引きずって道の外れの喫茶店に腰を掛ける。
しばらくすると、ふんわり漂う紅茶の香りに誘われるように男は目を覚ます。
「助け起こしてくれ。って書いたと思ったんだけど・・・」
引きずってきた道のりを指し
「助け・・・」
紅茶を持ち上げ
「起こした」
サキは平然と答える。
「・・・ま、まぁいいや。」
気をとりなおして
さきちゃ・・・まで言ったところでハンマーのあがった銃が純の額に押し付く。サキの目が細くなる。
「何故・・私の名を・・・」
「やだなー、さっきこの子が言ってたじゃーん。それにしても珍しいね、しゃべるワルサーP99なんてさー。キミ名前なんていうの?」
「シェドって呼んで。兄さん、超能力者みたいだね~。ひょっとして、スプーン曲げられたりできる??」
「ん~、そりゃ出来ないけど、君のご主人サマが泊まる場所が見つからなくて困ってることと、僕がソレを提供できそうなこと。
それから、サキちゃんのスリーサイズくらいなら訳なく提供できるヨ?」
一瞬見開かれた後、指にかかるトリガー。
「まぁ、待てって。そんな荷物抱えてれば誰でもわかるし?
スリーサイズはさっき財布を頂いたときに確認しちゃっただけ。
初歩的な-」
「「推理だよ。ワトソン君?」」
いつしか読んだお気に入りの探偵小説調で締めくくろうとしたところがシェドと被る。
互いに顔を見合わせニヤッと笑いあった。(と、純は勝手に思った。)
「それ・・・推理でもなんでもないんじゃ・・・」
虚しくつぶやくサキの声はすっかり意気投合した二人(?)の前に虚空に消えて行った。
ヤケクソ気味になんの用かを聞こうとして先をこされる。
「それで、お手紙の要件はなんだったの~?」
「そこなんだよねー。とりあえず、場所、移さないかい?
そんなに銃を振り回すから、ほら・・・みんなが怖がってるよ。」
言われて周りを見回すと客のいない喫茶店のウエイター、通りを通る人達が遠巻きに見ていた。
「だ~いじょうぶ!俺、丸腰だし。」
という言葉に何が大丈夫だんだよ!と思いながら半ば引きずられるように、純の宅にいた。
案内されたのはふかふかのベッドがあり、シャワー付きの!しっかりと鍵がかかる作りの部屋だった。
もうこれだけでとりあえずなんでも良かった。
「お湯出る?」
「でますとも!火傷しないようにね~。バスタオル持ってくるよ。」
サキは既に中に入っていた。
「サキちゃ~ん、バスタオル持ってきたよー。」
言い終わる前にバスルームの戸が少し開いて、もう閉じていた。
もちろん、バスタオルなんかもう純の手の中にはない。
想像以上に手強い相手だった。
純はやれやれと思いながらキッチンに入り、夕食を作り始める。
シチューが出来上がり、キューべがボンレスハムを満喫し終わる頃サキは幸せそうな顔をして出てきた。
それはそうだ。
シャワーこそ旅人の幸せだ。
魔力を使って体を清められるとはいえ、湯を浴びられるというのは幸せなものである。
温かいシャワーですっきりしたサキは
「それで?純さん、でいいのかな?何故私をここに?」
少し元気になっていた。先程までのそっけなさはイライラから来ていたところもあったようだ。
ソレも読まれていたのかもしれない。
サキは考えていた。
「大したヤツだ・・・」
シャワーの中でつぶやいていたことはシェドしか知らない。
シェドは不安もなさそうだと思い、部屋においてきた。
不思議と、この純という男を信用し始めていた。
ソレが純が培ってきた技術の一つだとまだ彼女は知らない。
1月ほどの間街を表から裏から騒がせた二人組の盗賊の噂はある日、ふと消える。
街の一角から消えた一匹のキューべと共に・・・
二匹のキューベト二人の旅人、ものがたりはここから始まる・・・
To be continued