日本の共創・オープンイノベーションに関わるキーマンの言葉を紡ぐシリーズ、今回はデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の代表取締役社長、斎藤 祐馬さんに登場いただきます。2010年に同社立ち上げに参画し、2019年から現職に就任されています。

 

大手企業とスタートアップを「朝につなぐ」Morning Pitchを2013年から開始し、毎週木曜日の朝7時から累計で1,700社以上の企業が登壇、毎回数百人を集める人気企画となりました。2010年代のスタートアップエコシステムはまだ若く、特に大手とスタートアップという枠組みは手探りの状態でした。Morning Pitchが朝7時という早朝に始まったのも、こういった企画への参加に体制を整えている企業は少なく、本気度さえあれば、「業務外」でも参加できる集まりとしたかったからだそうです。

 

企画開始から約8年、350回以上のステージを経て斎藤さんが掴んだ手応えと見えてきた世界観とはどのようなものだったのでしょうか。(文中の質問者はMUGENLABO Magazine編集部、文中敬称略)

 

若手企業内人材の「強み」

斎藤さんとの会話で確認できたのは大手企業の新規事業への取り組み、特に他社との協業による「オープンイノベーション」に対する考え方の変化です。新規事業は大きく分けて社内で作るか、他社を買ってくる(M&A)かのいずれかでした。ここに第三の手法として「協業」をもう少し先に進めたオープンイノベーションの誕生が2010年代のひとつの特徴です。

 

アクセラレーションプログラムのような短期集中型の企画や、Morning Pitchといったマッチングイベントが多数開催されたことでこの活動が広く認知されることになります。変化は携わる人々に反映されていきます。起業家や大手企業内の新規事業、ジョイントベンチャーなどに関わる人たちの数や質が上がってきたのが2014年頃からです。

やはり大手企業の人材の質は変わりましたよね

斎藤:私もNewsPicks NewSchoolで「大企業30代社長創出」という講座を実施しているのですが、特徴的な技術力を持つ方もいらっしゃるんですよ。伝統的な重工業のような企業の中のエースみたいな方たちがいらっしゃって、実際に起業されたんですが最初から高い評価が付くんですね。起業なんて一度も考えたことなかったけど、企業の中で社長をやるということについては興味があって講座にやってきて、いざやることを考えたらこれは起業した方がいいなと考えられて起業された方もいます。それ以外にも元々海外で博士号を取っていてグローバルでも戦える研究者とか、そういう方って以前のスタートアップにはいなかったと思います。

 

2040年に時価総額トップ10を塗り替えられるかってひとつの大きな基準だと思うんです。米国では20年以上前から優秀な方が起業した結果としてGAFAMができたわけですから、日本でもこういったトップオブトップの方が起業し始めているので、10年後・20年後が楽しみですよね。

 

大手企業出身の人材の強みってどこにあると思いますか

斎藤:成功体験や経験があるのに大金を手にしているわけでもなくハングリー精神が強い、っていう状況が特徴的だと思うんです。大手企業の中で新規事業を経験したことがある人ってここに当てはまることが多く、構造的に経験があった上でハングリーでいられることが成功につながる鍵だと感じています。日本は上場しやすい環境なので創業者利益を得た結果、モチベーションを保ちづらくなることも多い。

 

起業の成功のポイントは事業と人と資金の三つだと思いますが、これを子会社社長で一定割合経験できるのも大きいですよね。資金面は確かに自分の持ち出しでやるわけではないので、自分で起業した場合、初めてのケースになるかもしれません。しかし、事業と人のところはとても近い。例えば一回100人の組織を作った経験があれば、スタートアップした後にも同じようなことが起こるわけです。確実に挑戦しやすくなると思います。

変化した大手企業のオープンイノベーションへの取り組み

人々の考え方が変化し、大手企業にいることがローリスクでなくなりつつある今、彼らのキャリアに新たな選択肢としての「起業」が生まれ始めています。そういった状況の中で、大手企業でのキャリアを捨ててスタートアップに挑戦する起業家たちが上場していったのはご存知の通りですが、大手企業出身で社内起業を成功させるケースも目立ち始めました。

 

例えばJR東日本とサインポストの合弁会社「TOUCH TO GO」の阿久津 智紀氏はJR東日本出身の30代社長ですし、三井住友フィナンシャルグループと弁護士ドットコムが出資した「SMBCクラウドサイン」代表の三嶋 英城氏も同じく30代で三井住友フィナンシャルグループ出身です。

 

ここで課題になるのが制度設計です。オープンイノベーション的な新規事業の作り方で必要なのは子会社の箱ではなく、起業家に匹敵する優秀な社内人材をいかにして発掘し、モチベーション高く打席に立たせ、時として適切に撤退する「ルール」が必要です。斎藤さんは自身の経験を含め、最初の一例目を作ることが大切と振り返ります。

こういった社内起業の場合、最初の制度づくりが大変そうですが何か型のようなものってありそうですか

斎藤:もちろん成功しやすい制度設計はあります。ただ、一番大事なのは最初の事例を創ることです。例えば我々もデロイトトーマツの社内ベンチャーとして一つの形を作ることができた面があり、その経験を基に社内新規事業制度を運用しているのですが、事例が明確だと公募の数も集まりやすく成功事例をインキュベーションしやすい構造になっています。なので、最初の事例を創り切ることが何より重要だと思います。加えて、エコシステムって言葉があるじゃないですか。エコシステムの本質って『何か自分でもできるかも』って思わせることだと思うんですよ。スタートアップって俺も頑張ればなんとかなるっていう文化があると思うんです。これまで大手企業にはそのベースが薄かったけれど、今は以前より身近に存在するようになっています。
 

この動きを加速させるコツって何でしょうか

斎藤:ここ近年で事例がやっと出てきた感じで、2回目、3回目は早いですよね。1回目が大変なんですよ。デロイト トーマツの社内起業制度でも今、3つほど事業が立ち上がっていて事例が出てくるとどんどん優秀な人が集まる。一度でも身近な人が事業を作ると連鎖が起こるんですよね。

あと難しいのが資本政策やインセンティブの設計ですよね。100%子会社のままではどうしても一事業部門のような感じで終わってしまう。ストックオプションなどのインセンティブの設計も自由度が少ないですよね

斎藤:そうですね、本当に企業として大きくしていこうとなった時、親会社がリスクマネーを支えきれないケースが多いです。そうなると他の大手企業を巻き込んで資金を入れてもらうとか、提携するなどの動きが必要になる。外部資金が入れば、必然的にその株式の「出口」を必要とすることになりますから上場という選択肢が出てきます。

 

100%子会社でできるなら本体事業としてやればいいという考えもあり、最近は最初からジョイントベンチャーで始めるケースも多くなっていますよ。あと、先ほどお話した30代社長の集まりでもいろいろな企業の30代社長がやってきてノウハウの交換をしています。ストックオプションを持たせるにはどうしたらいいか、とか、そういうノウハウはこれまでにはあまりなかったんですよね。こういった具体的なノウハウをコミュニティやコンサルティング、政策立案支援など様々な方法で広げていきたいです。

もう少し大きな枠組みで、国の支援制度などもいくつか出てきていますよね。この辺りの制度設計で必要なものって何があるでしょうか

斎藤:国や行政には応援と規制の両側面がありますよね。スタートアップへの応援という視点では機運が高まってこの言葉自体がメディアにも出てくるようになりました。これはこの10年ですごい進捗だったと思います。一方で、規制についてはまだまだ物足りないですよね。スタートアップって規制が緩和されたその瞬間にどんどん生まれてくるという側面がありますが、そこがなかなか進んでいない。これはスタートアップが輩出する政治家がもっと増えないと変わらない面もあります。フィリピンやインドネシアといった国ではユニコーン企業を作った起業家が大臣になり政治の世界へ転身するケースがありますが、国内でも実業家の方々が政治家になるようなルートがどんどんでき、社会を変えていくような流れを仕掛けていきたいと思います。
 

ありがとうございました

 

会社とは「人」。究極的にはこれ以外にありません。
社員ひとりひとりの力の結集こそが強みであり、魅力です。

 

 

Q.1 三光化成ならではの魅力、強みとは何でしょうか。

 

 われわれ製造業が事業活動を行う上での根本的な要素は「品質」「価格」「納期」「サービス」です。これらいずれの点に関しても、当社は他社様と差別化できるだけの高い水準をキープしていると自負しています。しかし、あえて言いますが、だからといって他と比べて抜群に秀でているということはないでしょう。当社と同じく、他社様も大変な企業努力をされています。そういったしのぎを削り合う状況で圧倒的な差というものはつきにくいものと考えています。
 この前提をもとに、では当社の優位性というものは何かということになると、これは「人」に他ならないと思っています。能力のことを言っているのではありません。先に触れた4つの要素を高いレベルで達成するため、ともに働く社員ひとりひとりが自らの責任をしっかりと感じ取り、使命を果たそうとしてくれている姿そのものが何よりの強みなのです。クレームやトラブルが起きた際にはみんな一丸となり懸命にリカバーする、お客様にご迷惑をかけないよう真摯に対応する、ミスをしてしまったら真剣に反省し、再発防止に全力を挙げる。会社で日々起こる様々な事柄を他人事とせず、わがこととして捉えてくれる社員が大半です。
 それぞれが自分自身の判断基準や価値観を大切にしながら仕事に全力で取り組む。つまり、社員が企業活動へ主体的に参加していこうという意欲そのものが当社全体の魅力を引き立たせていることは間違いないと感じています。

 

 

Q.2 経営を行う上で大切にしていることを教えてください。

 

 創業以来、「品質第一」「顧客中心」「信義信頼」を経営活動における中核の価値観として掲げてきました。その中で私が特に重視しているのは「信義信頼」です。これは当社の社是にもなっており、「信義」とは偽らないことで約束に応え責務を果たすこと、「信頼」とは信用され頼られることをいいます。この姿勢はすべてのステークホルダー(利害関係者)の皆様に対して等しく重きを置いている価値観です。つまり、信義信頼の対象はお客様だけではありません。ともに働く社員の皆さん、協力会社の方々、各事業所が立地する地域の皆様……など、私たちが企業活動で関係するあらゆる方々に対してのものです。

 

 きれいごとに聞こえるかもしれません。実際、信義信頼ではお金はもうからないでしょう。信義信頼とは一方通行なものです。こちらがいくら信頼して託したところで相手に必ず伝わるとは限らないし、場合によっては裏切られてしまうこともあり得ます。損をすることの方が多いかもしれません。ただひとつ言えるのは、たとえ得にならなかったとしても、決して後悔はしないであろうということです。企業はそれ単独では生きられません。企業は長きにわたり社会の皆様に必要とされ、また皆様から支えられることで持続して活動できるのです。そういった環境の中で、たとえば困難が生じたとき、心に迷いが生じたときにこそ立ち返るべき羅針盤となるものは「信義信頼」をおいて他にないと確信しています。

 

 

Q.3 今後、三光化成をどのように発展させていきたいと考えていますか。

 

 具体的なところでは、当社のプラスチック製造技術を生かした新事業の立ち上げや新しい業界への参入を通して市場の拡大を図りたいと思っています。それと業務のデジタル化推進ですね。あとは当社の将来を担うエンジニアの育成を何より重要視しています。当社は金型を使って成形機で生産する製品製造業であるため、化学系のみならず機電系の素養を持つ方には活躍できるフィールドが多いです。また、自動機による省人化に注力しており、より効率的な自動機を開発できる人材も必要と考えています。
 概念的な話では、とにかく一年一年を大切にして悔いのないように前進していきたい。そうすれば、結果は後からついてくるものと考えます。時代に合わせて大切なことは守り、育て、引き継いでいくものです。今バトンを持っている者は生き様を背中で見せ、次の世代の者はそれをしっかりと目に焼きつけて受け継ぎ、また次へと渡していく。そうやって時代を超えて走り続けていった先に年月という時間が刻まれていきます。
 当社は創立後半世紀を越えました。私は企業が「持続すること」が最も大事と考え、その実現のために施策を打ってきました。はじめは東北地方でスタートした当社は現在では中日本、西日本まで範囲を広げ、海外にも進出するまでに発展してきましたが、これは売上や利益をより多く得たいとかいうよりも、ひとえに会社が持続していくための手段として行ったものです。お客様や社員の皆さん、その他当社がお世話になる多くの方々と長きにわたって歩んでいきたい。この姿勢は今後も変わることはないでしょう。

 

 

Q.4 社長にとって、社員とはどういう存在でしょうか。

 

 社員とは会社そのもの、企業そのものであると考えています。全社員の力の結集がすなわち企業力であり魅力となります。最終的にこう考えるに至ったのは社長に就任した後のことです。今の職責につく前は、社長とは多くのことができるものと単純に思っていました。ですが、いざ社長室のイスに座ってみて初めて気づいたのです。「ああ、自分一人では何もできないんだ」と。
 経営は大事で、工場や設備などももちろん大事です。しかし、社員の力がないと経営は思うように進められず、設備のひとつも動かすことはできません。当たり前の話ですが、結局は「人」なのです。社員の力が強ければ結集し、求心力が働き、たくましい発展を遂げることが可能です。各社員に秘められた大きな可能性を高めて飛躍できるようにするのが社長である私の責務ではないかと感じています。

 

 

Q.5 これから三光化成に入社する方へどのようなことを期待していますか。

 

 違和感をどんどん発信してほしいですね。われわれとは違う新しい世代、または当社以外の環境下で培ってきた知識や経験に照らして、気づいたことやおかしいなと思ったことを遠慮なくぶつけてきてほしい。ものすごく単純な例をひとつ出すと、もし当社が昔ながらの緊急電話連絡網を使っていたとしたら、「まだこんなことをしてるんですか? 今の時代、SNSの方が断然スムーズですよ」と声を上げてほしいのです。われわれはどうしても旧来の価値観にとらわれ、たとえ非効率だったり時代遅れになっていても前例踏襲をしがちです。それを打ち破ってくれるのは往々にして若い力であり、外から来た方のセンスではないでしょうか。
 ただし、です。新しいことがすべて良いわけでもありません。先ほどの例えでいえば、当社の社員全員がスマホを持っていてSNSを日常的に使いこなしているわけではありません。その状態でもしいきなり電話からSNSに切り替えてしまったら大きな支障が出るでしょう。われわれの今のやり方にもそれなりの理由や合理性があります。そこを踏まえてどれだけ新しいものを取り入れてより良いものに改善していくか検討するということが必要です。
 ですが、とにかくまず違和感を声に出してもらわないと、そもそも検討するきっかけすらできません。皆さんにはいつでも気軽に声を上げてもらうよう期待していますし、またそうしやすい雰囲気を作るのが会社の役割だと思っています。

 

 

Q.6 最後に、当社へ応募を希望する方々へメッセージをお願いします。

 

 三光化成には様々な活躍の場所があります。例えば管理職を目指すのももちろん一つの道ですが、管理職が主役で一般職は脇役かというと決してそうとは限りません。部署のマネジメントなどでは管理職が主役になり進める一方で、製造現場の最前線で成形工程を行っている場面での主役は成形機オペレーターであり、製品の検品での主役は検査員です。管理職をはじめ他の人は脇役となりサポートします。一人一人が主役であり脇役でもあり、その役割は場面によっていかようにも変わるのです。一握りのスーパーマン的な社員がその他大勢を引っ張っていくのではなく、全社員がいろいろな役割を演じることにより大きな力を集積させていくことができるのが当社のような製造業の良さだと思います。道はひとつではないということです。自分の可能性を信じ、自らの視野を広く持って当社のあらゆる場所で挑戦していってほしいと思います。

 時代は刻々と変化し、10年前の当たり前は今の当たり前ではありません。だからこそ、自らの行く先の舵取りは自分自身で行うべきです。仕事でのキャリアということで言えば、当社では社員の希望に応じて部署異動や工場間での異動などキャリアチェンジを柔軟に行える環境を用意しているので、ぜひ自分だけの道を選び取ってもらいたいです。
 舵取りという意味では皆さんの人生においても同じです。舵取りとはすなわち決断していくこと。決断とは自ら道を選択し自らの足で歩みその結果を受け入れることです。自分の人生を、心を、魂をまっすぐに見据えて、どうありたいかを決断して前に進んでください。その道に三光化成がともにあることを心から願っていますし、ともに歩んでいければと感じています。
 皆さんとお会いできることを、心より楽しみにお待ちしています。

 

 

 

 

激しさを増す経営環境

 

 近年、コスモエネルギーグループを取り巻く経営環境は激しく変化しています。2020年から発生した新型コロナウイルス感染症は、いまだ収束せず、加えて2022年2月にはロシアによるウクライナへの侵攻が行われるなど、不透明感が残る情勢が続いています。

 新型コロナウイルス感染症への対応としては、引き続き危機対策会議を開催し、本社・製造部門ともに感染対策の徹底を図っています。工場部門を除く全事業所にテレワーク体制を確立し、新型コロナワクチン接種については、3回の職域接種をスピーディーに実施するなど最大限の感染対策を続けており、製油所の操業など事業継続への影響は発生していません。

 当社グループの業績に大きな影響のある原油価格については、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響で原油需要が減少したことによる価格暴落から新型コロナワクチンの普及による世界経済の回復などにより、2021年度期初には新型コロナウイルス感染症の発生前の水準まで回復しました。その後も上昇基調で推移していましたが、2022年に入るとロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、原油価格はさらに高騰し、高い水準で推移しました。

 原油価格の上昇は、短期的には在庫の資産価値が上がることに加え、製品マージンにプラスのタイムラグが発生し、業績にはポジティブな影響を及ぼします。一方で消費者側から見ると、価格上昇は需要の減少につながります。また、エネルギーの転換が加速するといった影響もあります。加えて、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、原油の需給はタイトな状態がしばらく続いていくものと考えています。

 

 

 

過去最高益となった2021年度

 

 2021年度の業績は、全体として原油価格上昇の影響もあり好調に推移しました。

 石油事業については、キグナス石油への供給により、生産能力よりも販売数量が大きいというショートポジションを取っていることで、製油所の稼働率はほぼ100%を継続できました。加えて、原油価格の上昇もあり、大きく増益となりました。

石油化学事業については、ベンゼンを中心とした石化市況の改善により、増益となりました。

 石油開発事業については、一部油田でのトラブルにより生産量は前年を下回りましたが、原油価格の上昇により、大きく増益となりました。

 再生可能エネルギー事業では、陸上風力発電の開発が順調に進んでおり設備容量は30万kWに達しています。洋上風力発電については、「洋上風力元年」であり、秋田県由利本荘市沖プロジェクトの入札に参加しました。結果としては残念ながら落選となりましたが、学ぶことも多く、次の入札への貴重な経験となったと捉えています。業績としては洋上風力開発に伴う先行コストが発生したことにより減益となりました。

 当社グループは青森西北沖、秋田中央海域、山形遊佐沖、新潟北部沖の4プロジェクトに参画しています。洋上風力発電は今後、順次入札が行われていきます。落選した由利本荘市沖での入札価格を受けて、今後はコンソーシアムメンバーの見直しによる建設コストや運営コストの低減、グリーン価値を含めた販売先の検討など、サプライチェーン全体の見直しによる価格競争力の強化を図り、落札に向けて準備を進めていきます。価格に関しては、国際的にも通用する価格競争力を身に着けて、消費者が再生可能エネルギーを安価に利用できる時代が早く到来することは誰にとってもメリットだと考えていますので、そこをめざして努力を進めていきます。

 2021年度の在庫影響を除く経常利益は前年比842億円増益の1,608億円、親会社株主に帰属する当期純利益は、前年比530億円増益の1,389億円となり、過去最高益となった2020年度実績を更新しました。

 

 

2022年度も好調が見込まれ、株主還元は次なるステージへ

 

 コスモエネルギーグループでは2018年度より「Oil & New」をスローガンとする5か年の第6次連結中期経営計画(以下第6次中計)を進めています。2022年度は最終年度になりますが、第6次中計で掲げた経営目標は2021年度末において、1年前倒しでの達成となりました。2022年度に関しては第7次中期経営計画に向けて、しっかりと次の方針、次の戦略を検討する移行期であると捉えています。

 財務体質が大きく改善し、中計目標を1年前倒しで達成できたことに加え、第6次中計施策の着実な実行により、稼ぐ力が強化されています。今後の成長戦略を見据え、もう一段財務体質の改善が必要であると考える一方で、既に一定以上の株主還元が可能なレベルに到達したと考えています。2022年度はこれまでの株主還元をさらに強化し、次なるステージへ進めます。具体的には2022年度の在庫影響を除く純利益に対して、50%を目標として株主還元を行ってまいります。配当は前年度から+50円の1株あたり150円(中間配当75円、期末配当75円)を予定しています。さらに、取得株式総数800万株、または取得総額200億円を上限とする自社株買いを実施する予定です。2023年度以降については、同様のレベルの還元をベースとして検討の上、次期中計において具体的な還元方針を公表してまいります。

 2022年度の業績見通しについてですが、石油事業は、製油所の大規模な定期修繕の予定がなく、高い稼働率を維持することで、しっかりと収益につなげていきたいと考えています。世界的には新型コロナウイルス感染症の発生により需要が減退し、製品市況が落ち込んでいました。ただし、足元では世界経済の回復により需要が回復傾向となり、またロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、製品価格が上昇しています。最も大きな影響を受けたジェット燃料については量的にも価格的にも環境は改善しています。また国内では、引き続き安定した需給環境となっています。原油価格変動の影響はあるものの、ベースの環境は良好な状況です。石油化学については、2022年度も新型コロナ感染症の影響が一定程度残り、市況の改善は難しいと見込んでいます。石油開発事業は原油価格が高い水準であることから、収益環境は良好であると見込んでいます。再生可能エネルギー事業では、陸上風力は着実に進める一方で、洋上風力開発を本格化することに伴う人件費等が発生する見込みです。

 このような結果、2022年度の在庫影響を除く経常利益は前年比58億円減益の1,550億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前年比459億円減益の930億円を見込んでいます。

 

 

 

第6次中期経営計画Oil & Newからその先へ

 

 第6次中計については、2018年度からのスタートでしたので、中計の策定は2017年度に行いました。当時は国内の石油業界が再編を進めていた時期であり、当時と比較すると現在の国内の環境は改善しています。適正なマージンを確保でき、また需給も安定しています。原油価格についても、当初から上昇想定ではありましたが、実際は想定よりも上昇しています。

このように、中計の想定よりも環境が上振れし、原油価格の大幅な上昇もあり、1年前倒しで目標が達成できたということは否定しません。ただし、ベースの構造改革はしっかりと進めてきました。稼働率は向上しており、また販売数量も伸びています。営業キャッシュ・フローを創出する力も着実につけてきました。

 製油所の稼働率については、他社と比較してもかなり高い水準です。高い稼働率の維持にもつながるのですが、東日本大震災以降、安全対策については徹底的に行ってきました。安全のための設備投資を行い、OMS(オペレーションマネジメントシステム)を導入し、ハード面、ソフト面ともに徹底した対策をしてきました。10年以上かけて取り組んできたテーマですので、他社を大幅に上回る稼働率と低い事故件数という形で成果となったことは大変喜ばしく思い、達成感を持っています。

財務体質も改善し、第6次中計で進めてきた構造改革により、第7次中計に向けて「攻め」に転じることができる体質になりました。

 第6次中計では「Oil & New」をスローガンとして、脱炭素への姿勢を示しました。2018年度では脱炭素への姿勢を示している企業はそれほど多くなかったと記憶しています。現在では、環境を意識するのが常識になり、EVをはじめとして環境をビジネスと関連付けて新たなビジネスを生み出そうという流れができているように感じます。

 私たちは将来的に化石燃料ビジネスが縮小していく中で、風力発電を柱として再生可能エネルギーへ移行していくことを方向性としていますが、その流れは第7次中計でも強化することはあれ、後退することはありません。

 

 

 

アブダビ首長国とは強固な信頼関係を維持

 

 当社グループが脱炭素へと事業ポートフォリオを進化させていく中、アブダビ首長国との関係も新たなフェーズに入りました。

 2022年3月に大株主であったMubadala Investment Company(以下ムバダラ社)が当社株式の売り出しを行いました。これはムバダラ社とのこれまでの戦略提携により一定の成果を得たことから、産油国であるアブダビ首長国のムバダラ社が「テクノロジー」・「インフラ」・「ライフサイエンス」などへ積極的に投資していくという投資戦略の変更に基づく意向に応えたものとなります。ムバダラ社との資本関係は解消となりましたが、アブダビ首長国との50年以上にわたる強固な信頼関係は今後も変わることはなく、アブダビ首長国におけるビジネスは継続していきます。足元においてもアブダビ首長国における新鉱区Block4の探鉱、アブダビ首長国の再生可能エネルギーにおけるリーディングカンパニーとなるマスダール社との協業検討、ADNOC(アブダビ国営石油会社)とのCCS/CCUSなど脱炭素分野での協業検討などが進められており、これまでの関係性をより深化させていきます。

 

 

 

2050年カーボンネットゼロの実現に向けて

 

 当社グループは、気候変動の視点をより一層取り入れた経営計画を策定し実行していくことが、地球や社会、そして私たちの持続的な発展に不可欠であると考えており、「気候変動対策」を当社グループの最重要マテリアリティと捉えています。2021年5月に「2050年カーボンネットゼロ宣言」を行い、「2050年カーボンネットゼロ」を実現するために、まずTCFDにおけるシナリオ分析を行いました。

 IEAの1.5℃、2℃、4℃のシナリオをベースとしたシナリオ分析に基づいて、事業活動において想定しうる気候変動のリスクと機会を特定し、リスクが発生した場合の財務影響度の評価を行いました。

 リスクとしては、物理リスク、移行リスクそれぞれを評価し、中でもエネルギー需要の変化、エネルギーミックスといった移行リスクのインパクトが大きいことを評価しております。

 これは、リスクである一方、機会として捉えることもできます。エネルギー需要・顧客ニーズにしっかり対応していく事業ポートフォリオの転換を図っていくことで、事業の持続的発展を図ってまいります。

 「カーボンネットゼロ宣言」に伴い、このTCFD シナリオ分析を前提とした2050年カーボンネットゼロへのロードマップを2022年5月に公開しました。ここでは、脱炭素の取り組みを着実に進捗させるため、2030年を中間地点とした削減目標を掲げています。エネルギーの安定供給の責任を果たしつつ、脱炭素エネルギーへの転換やネガティブエミッション技術などに取り組み、2030年30% 削減、2050年カーボンネットゼロをめざします。

 第7次中計では、気候変動のリスクや機会と経営戦略が一体化した体制の構築をめざしていきます。当社グループは、エネルギーを供給する会社でもあるので、自らの脱炭素への歩みを考える上で、社会がどの程度の速度で脱炭素化に進んでいくのかについて理解しているかが重要になります。社会がどのようなエネルギーをどの程度必要かというところを満たさないと安定したエネルギー供給という使命は果たせません。

 

 

 

CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上とDX、ブランディングについて

 

 コスモエネルギーグループのめざす1つのゴールは「CX:カスタマーエクスペリエンス」だと考えています。当社グループはエネルギーというコモディティを取り扱っています。コモディティはそれ自体で差別化することは難しく、コモディティ+αで顧客価値・顧客体験(=CX)を提供することでお客様から当社グループを選んでいただかなければなりません。

 お客様に最高のCXを提供するためのポイントとなるのが、ブランディングとDXです。

 ガソリンスタンドをはじめとして、私たちは今までもお客様と数多くの接点がありました。もちろん、そういった経験を今までも分析し、活かしてはいましたが、多くのデータをDXを利用して分析することで、今まで暗黙知であったものが目に見える形で把握でき、気が付かなったことに気が付くことができるようになります。今までの慣習や習慣を見直し、必要によっては破壊することで、今まで以上にお客様のニーズを広く、深く理解し、顧客満足の向上につなげていきます。

 DXに関しては、「本気のDX」というスローガンのもと本格的にDXをスタートさせています。2021年11月にはルゾンカ氏を当社初となるCDOとして迎え、コーポレートDX戦略部を設立しました。DXの推進により、グループ全体のデジタルリテラシーを向上させ、データドリブン経営を加速させていきます。会社全体として必要なスキルを習得できる環境整備と、こうしたスキルセットを持つ人材の採用・育成を進めていきます。

 エネルギーという、商品自体を差別化することが難しいコモディティを扱う当社グループにおいて、ブランディングとDXを融合し最高のCXを提供することでお客様がコスモを選んでくれる、そして、それがさらにコスモブランドを強化するという好循環をめざしています。

 コスモブランドの強化は既存事業だけでなく、新規事業に進出するときにもプラスに影響します。例えば、風力発電をはじめとする環境ビジネスを進める上でも、良好なブランドイメージを構築していれば、成功の可能性が高くなります。環境ビジネスに限らず、私たちを取り巻く環境が大きな変化を続ける中で今後も様々な挑戦をしていく必要性も高まるでしょう。コスモブランドをより一層強化していくことで、若い社員が新しい価値観で新たな挑戦をしやすい環境、成功する環境を作っていきたいと考えています。

 

 

サステナブル経営について

 

 企業に対するステークホルダーからの「持続可能性」への要求が年々高まっていることは強く感じています。

 当社では、代表取締役である私が議長であるサステナビリティ戦略会議を設置するなど、「サステナブル経営」を推進する体制を整えました。2021年度のサステナビリティ戦略会議は臨時開催も含め計8回開催し、TCFDに沿った気候変動に関する情報開示、理念体系・方針整備など、現時点の課題や機会についての確認、意思統一を行いました。また、人権やダイバーシティ、健康経営等の諸課題にも取り組み、ESGの全般にわたって網羅的な基盤整備を行っています。

 役員報酬制度についても、一割程度はESG評価に紐づける形にし、「サステナブル経営」の実効性を高めるともに、私たちの決意も示せたのではないかと考えています。

 第7次連結中計では今まで、二本立てになっていた中期経営計画と連結中期サステナビリティ計画の一体化を図り、非財務面と財務面の両方を意識して、サステナビリティ経営をより深化させていきます。

 また当社グループは、2006年2月に「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」に署名しています。人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則の実現に向けて今後も努力を続け、これらの取り組み全体で、持続可能な社会の発展およびSDGsの達成に貢献していきます。

 

 

ステークホルダーの皆さまへ

 

 投資家の皆さまを中心に、ステークホルダーの皆さまとの対話は皆さまのご意見を伺うことのできる貴重な機会です。ステークホルダーの皆さまのご意見は、取締役会でも検討し、経営に活かしており、企業価値を向上させるという同じ目的に向かって努力してまいります。繰り返しになりますが、当社を取り巻く環境は大きな変化を続けています。この大きな変化の中で、エネルギーの安定供給という使命を果たしつつ、2050年のカーボンネットゼロの実現をめざします。

 今後も株主様をはじめ、お客様、お取引先様などすべてのステークホルダーの皆さまにとって、価値ある企業をめざしてまいります。末永くご支援いただきますよう、お願い申し上げます。