
激しさを増す経営環境
近年、コスモエネルギーグループを取り巻く経営環境は激しく変化しています。2020年から発生した新型コロナウイルス感染症は、いまだ収束せず、加えて2022年2月にはロシアによるウクライナへの侵攻が行われるなど、不透明感が残る情勢が続いています。
新型コロナウイルス感染症への対応としては、引き続き危機対策会議を開催し、本社・製造部門ともに感染対策の徹底を図っています。工場部門を除く全事業所にテレワーク体制を確立し、新型コロナワクチン接種については、3回の職域接種をスピーディーに実施するなど最大限の感染対策を続けており、製油所の操業など事業継続への影響は発生していません。
当社グループの業績に大きな影響のある原油価格については、2020年の新型コロナウイルス感染症の影響で原油需要が減少したことによる価格暴落から新型コロナワクチンの普及による世界経済の回復などにより、2021年度期初には新型コロナウイルス感染症の発生前の水準まで回復しました。その後も上昇基調で推移していましたが、2022年に入るとロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、原油価格はさらに高騰し、高い水準で推移しました。
原油価格の上昇は、短期的には在庫の資産価値が上がることに加え、製品マージンにプラスのタイムラグが発生し、業績にはポジティブな影響を及ぼします。一方で消費者側から見ると、価格上昇は需要の減少につながります。また、エネルギーの転換が加速するといった影響もあります。加えて、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、原油の需給はタイトな状態がしばらく続いていくものと考えています。

過去最高益となった2021年度
2021年度の業績は、全体として原油価格上昇の影響もあり好調に推移しました。
石油事業については、キグナス石油への供給により、生産能力よりも販売数量が大きいというショートポジションを取っていることで、製油所の稼働率はほぼ100%を継続できました。加えて、原油価格の上昇もあり、大きく増益となりました。
石油化学事業については、ベンゼンを中心とした石化市況の改善により、増益となりました。
石油開発事業については、一部油田でのトラブルにより生産量は前年を下回りましたが、原油価格の上昇により、大きく増益となりました。
再生可能エネルギー事業では、陸上風力発電の開発が順調に進んでおり設備容量は30万kWに達しています。洋上風力発電については、「洋上風力元年」であり、秋田県由利本荘市沖プロジェクトの入札に参加しました。結果としては残念ながら落選となりましたが、学ぶことも多く、次の入札への貴重な経験となったと捉えています。業績としては洋上風力開発に伴う先行コストが発生したことにより減益となりました。
当社グループは青森西北沖、秋田中央海域、山形遊佐沖、新潟北部沖の4プロジェクトに参画しています。洋上風力発電は今後、順次入札が行われていきます。落選した由利本荘市沖での入札価格を受けて、今後はコンソーシアムメンバーの見直しによる建設コストや運営コストの低減、グリーン価値を含めた販売先の検討など、サプライチェーン全体の見直しによる価格競争力の強化を図り、落札に向けて準備を進めていきます。価格に関しては、国際的にも通用する価格競争力を身に着けて、消費者が再生可能エネルギーを安価に利用できる時代が早く到来することは誰にとってもメリットだと考えていますので、そこをめざして努力を進めていきます。
2021年度の在庫影響を除く経常利益は前年比842億円増益の1,608億円、親会社株主に帰属する当期純利益は、前年比530億円増益の1,389億円となり、過去最高益となった2020年度実績を更新しました。
2022年度も好調が見込まれ、株主還元は次なるステージへ
コスモエネルギーグループでは2018年度より「Oil & New」をスローガンとする5か年の第6次連結中期経営計画(以下第6次中計)を進めています。2022年度は最終年度になりますが、第6次中計で掲げた経営目標は2021年度末において、1年前倒しでの達成となりました。2022年度に関しては第7次中期経営計画に向けて、しっかりと次の方針、次の戦略を検討する移行期であると捉えています。
財務体質が大きく改善し、中計目標を1年前倒しで達成できたことに加え、第6次中計施策の着実な実行により、稼ぐ力が強化されています。今後の成長戦略を見据え、もう一段財務体質の改善が必要であると考える一方で、既に一定以上の株主還元が可能なレベルに到達したと考えています。2022年度はこれまでの株主還元をさらに強化し、次なるステージへ進めます。具体的には2022年度の在庫影響を除く純利益に対して、50%を目標として株主還元を行ってまいります。配当は前年度から+50円の1株あたり150円(中間配当75円、期末配当75円)を予定しています。さらに、取得株式総数800万株、または取得総額200億円を上限とする自社株買いを実施する予定です。2023年度以降については、同様のレベルの還元をベースとして検討の上、次期中計において具体的な還元方針を公表してまいります。
2022年度の業績見通しについてですが、石油事業は、製油所の大規模な定期修繕の予定がなく、高い稼働率を維持することで、しっかりと収益につなげていきたいと考えています。世界的には新型コロナウイルス感染症の発生により需要が減退し、製品市況が落ち込んでいました。ただし、足元では世界経済の回復により需要が回復傾向となり、またロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、製品価格が上昇しています。最も大きな影響を受けたジェット燃料については量的にも価格的にも環境は改善しています。また国内では、引き続き安定した需給環境となっています。原油価格変動の影響はあるものの、ベースの環境は良好な状況です。石油化学については、2022年度も新型コロナ感染症の影響が一定程度残り、市況の改善は難しいと見込んでいます。石油開発事業は原油価格が高い水準であることから、収益環境は良好であると見込んでいます。再生可能エネルギー事業では、陸上風力は着実に進める一方で、洋上風力開発を本格化することに伴う人件費等が発生する見込みです。
このような結果、2022年度の在庫影響を除く経常利益は前年比58億円減益の1,550億円、親会社株主に帰属する当期純利益は前年比459億円減益の930億円を見込んでいます。

第6次中期経営計画Oil & Newからその先へ
第6次中計については、2018年度からのスタートでしたので、中計の策定は2017年度に行いました。当時は国内の石油業界が再編を進めていた時期であり、当時と比較すると現在の国内の環境は改善しています。適正なマージンを確保でき、また需給も安定しています。原油価格についても、当初から上昇想定ではありましたが、実際は想定よりも上昇しています。
このように、中計の想定よりも環境が上振れし、原油価格の大幅な上昇もあり、1年前倒しで目標が達成できたということは否定しません。ただし、ベースの構造改革はしっかりと進めてきました。稼働率は向上しており、また販売数量も伸びています。営業キャッシュ・フローを創出する力も着実につけてきました。
製油所の稼働率については、他社と比較してもかなり高い水準です。高い稼働率の維持にもつながるのですが、東日本大震災以降、安全対策については徹底的に行ってきました。安全のための設備投資を行い、OMS(オペレーションマネジメントシステム)を導入し、ハード面、ソフト面ともに徹底した対策をしてきました。10年以上かけて取り組んできたテーマですので、他社を大幅に上回る稼働率と低い事故件数という形で成果となったことは大変喜ばしく思い、達成感を持っています。
財務体質も改善し、第6次中計で進めてきた構造改革により、第7次中計に向けて「攻め」に転じることができる体質になりました。
第6次中計では「Oil & New」をスローガンとして、脱炭素への姿勢を示しました。2018年度では脱炭素への姿勢を示している企業はそれほど多くなかったと記憶しています。現在では、環境を意識するのが常識になり、EVをはじめとして環境をビジネスと関連付けて新たなビジネスを生み出そうという流れができているように感じます。
私たちは将来的に化石燃料ビジネスが縮小していく中で、風力発電を柱として再生可能エネルギーへ移行していくことを方向性としていますが、その流れは第7次中計でも強化することはあれ、後退することはありません。

アブダビ首長国とは強固な信頼関係を維持
当社グループが脱炭素へと事業ポートフォリオを進化させていく中、アブダビ首長国との関係も新たなフェーズに入りました。
2022年3月に大株主であったMubadala Investment Company(以下ムバダラ社)が当社株式の売り出しを行いました。これはムバダラ社とのこれまでの戦略提携により一定の成果を得たことから、産油国であるアブダビ首長国のムバダラ社が「テクノロジー」・「インフラ」・「ライフサイエンス」などへ積極的に投資していくという投資戦略の変更に基づく意向に応えたものとなります。ムバダラ社との資本関係は解消となりましたが、アブダビ首長国との50年以上にわたる強固な信頼関係は今後も変わることはなく、アブダビ首長国におけるビジネスは継続していきます。足元においてもアブダビ首長国における新鉱区Block4の探鉱、アブダビ首長国の再生可能エネルギーにおけるリーディングカンパニーとなるマスダール社との協業検討、ADNOC(アブダビ国営石油会社)とのCCS/CCUSなど脱炭素分野での協業検討などが進められており、これまでの関係性をより深化させていきます。

2050年カーボンネットゼロの実現に向けて
当社グループは、気候変動の視点をより一層取り入れた経営計画を策定し実行していくことが、地球や社会、そして私たちの持続的な発展に不可欠であると考えており、「気候変動対策」を当社グループの最重要マテリアリティと捉えています。2021年5月に「2050年カーボンネットゼロ宣言」を行い、「2050年カーボンネットゼロ」を実現するために、まずTCFDにおけるシナリオ分析を行いました。
IEAの1.5℃、2℃、4℃のシナリオをベースとしたシナリオ分析に基づいて、事業活動において想定しうる気候変動のリスクと機会を特定し、リスクが発生した場合の財務影響度の評価を行いました。
リスクとしては、物理リスク、移行リスクそれぞれを評価し、中でもエネルギー需要の変化、エネルギーミックスといった移行リスクのインパクトが大きいことを評価しております。
これは、リスクである一方、機会として捉えることもできます。エネルギー需要・顧客ニーズにしっかり対応していく事業ポートフォリオの転換を図っていくことで、事業の持続的発展を図ってまいります。
「カーボンネットゼロ宣言」に伴い、このTCFD シナリオ分析を前提とした2050年カーボンネットゼロへのロードマップを2022年5月に公開しました。ここでは、脱炭素の取り組みを着実に進捗させるため、2030年を中間地点とした削減目標を掲げています。エネルギーの安定供給の責任を果たしつつ、脱炭素エネルギーへの転換やネガティブエミッション技術などに取り組み、2030年30% 削減、2050年カーボンネットゼロをめざします。
第7次中計では、気候変動のリスクや機会と経営戦略が一体化した体制の構築をめざしていきます。当社グループは、エネルギーを供給する会社でもあるので、自らの脱炭素への歩みを考える上で、社会がどの程度の速度で脱炭素化に進んでいくのかについて理解しているかが重要になります。社会がどのようなエネルギーをどの程度必要かというところを満たさないと安定したエネルギー供給という使命は果たせません。

CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上とDX、ブランディングについて
コスモエネルギーグループのめざす1つのゴールは「CX:カスタマーエクスペリエンス」だと考えています。当社グループはエネルギーというコモディティを取り扱っています。コモディティはそれ自体で差別化することは難しく、コモディティ+αで顧客価値・顧客体験(=CX)を提供することでお客様から当社グループを選んでいただかなければなりません。
お客様に最高のCXを提供するためのポイントとなるのが、ブランディングとDXです。
ガソリンスタンドをはじめとして、私たちは今までもお客様と数多くの接点がありました。もちろん、そういった経験を今までも分析し、活かしてはいましたが、多くのデータをDXを利用して分析することで、今まで暗黙知であったものが目に見える形で把握でき、気が付かなったことに気が付くことができるようになります。今までの慣習や習慣を見直し、必要によっては破壊することで、今まで以上にお客様のニーズを広く、深く理解し、顧客満足の向上につなげていきます。
DXに関しては、「本気のDX」というスローガンのもと本格的にDXをスタートさせています。2021年11月にはルゾンカ氏を当社初となるCDOとして迎え、コーポレートDX戦略部を設立しました。DXの推進により、グループ全体のデジタルリテラシーを向上させ、データドリブン経営を加速させていきます。会社全体として必要なスキルを習得できる環境整備と、こうしたスキルセットを持つ人材の採用・育成を進めていきます。
エネルギーという、商品自体を差別化することが難しいコモディティを扱う当社グループにおいて、ブランディングとDXを融合し最高のCXを提供することでお客様がコスモを選んでくれる、そして、それがさらにコスモブランドを強化するという好循環をめざしています。
コスモブランドの強化は既存事業だけでなく、新規事業に進出するときにもプラスに影響します。例えば、風力発電をはじめとする環境ビジネスを進める上でも、良好なブランドイメージを構築していれば、成功の可能性が高くなります。環境ビジネスに限らず、私たちを取り巻く環境が大きな変化を続ける中で今後も様々な挑戦をしていく必要性も高まるでしょう。コスモブランドをより一層強化していくことで、若い社員が新しい価値観で新たな挑戦をしやすい環境、成功する環境を作っていきたいと考えています。
サステナブル経営について
企業に対するステークホルダーからの「持続可能性」への要求が年々高まっていることは強く感じています。
当社では、代表取締役である私が議長であるサステナビリティ戦略会議を設置するなど、「サステナブル経営」を推進する体制を整えました。2021年度のサステナビリティ戦略会議は臨時開催も含め計8回開催し、TCFDに沿った気候変動に関する情報開示、理念体系・方針整備など、現時点の課題や機会についての確認、意思統一を行いました。また、人権やダイバーシティ、健康経営等の諸課題にも取り組み、ESGの全般にわたって網羅的な基盤整備を行っています。
役員報酬制度についても、一割程度はESG評価に紐づける形にし、「サステナブル経営」の実効性を高めるともに、私たちの決意も示せたのではないかと考えています。
第7次連結中計では今まで、二本立てになっていた中期経営計画と連結中期サステナビリティ計画の一体化を図り、非財務面と財務面の両方を意識して、サステナビリティ経営をより深化させていきます。
また当社グループは、2006年2月に「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」に署名しています。人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則の実現に向けて今後も努力を続け、これらの取り組み全体で、持続可能な社会の発展およびSDGsの達成に貢献していきます。
ステークホルダーの皆さまへ
投資家の皆さまを中心に、ステークホルダーの皆さまとの対話は皆さまのご意見を伺うことのできる貴重な機会です。ステークホルダーの皆さまのご意見は、取締役会でも検討し、経営に活かしており、企業価値を向上させるという同じ目的に向かって努力してまいります。繰り返しになりますが、当社を取り巻く環境は大きな変化を続けています。この大きな変化の中で、エネルギーの安定供給という使命を果たしつつ、2050年のカーボンネットゼロの実現をめざします。
今後も株主様をはじめ、お客様、お取引先様などすべてのステークホルダーの皆さまにとって、価値ある企業をめざしてまいります。末永くご支援いただきますよう、お願い申し上げます。
