30冊目
「ヘドロ宇宙モデル」
泉和良
立石優司は、意を決して唯一自宅に残っていた宇宙モデルスフィアを捨てようとしていた。
宇宙モデルとは、宇宙空間での大まかな物質の流れを再現するに留まらず、生命の誕生や進化、また生物個体間のコミュニケーションは社会構築、種の栄枯盛衰に至るまで、宇宙の森羅万象を膨大な演算によってシュミレートするエンジンで、一部の科学者・技術者しか知らないようなものだった。
その宇宙モデルを、ある企業が『宇宙モデルスフィア』として商品化した。
球形のディスプレイの中で小さな宇宙が絶えず変化していくその商品は、少し物珍しいお洒落なオブジェとしてそれなりに流行することになる。
立石はその流行の全盛期に製作会社に入社し、新しい宇宙モデルスフィアの開発・製作に携わっていた。
流行が高まるにつれて、音楽プレイヤーやメール、アニメキャラクターの育成などの機能が追加されていく中で、立石のスフィアは宇宙モデル以外の要素を採り入れず、その硬派なこだわりによって、一会社員でありながらファンまで表れるほどだった。
しかし、流行るものはいずれ廃れてしまう。
そして立石の所属する会社は、宇宙モデル事業からの撤退を決めた。
宇宙モデルに対する情熱が全く冷めていなかった立石は、状況の変化を受け入れられなかった。
流行というものの表と裏を知り、人間不信のようになってしまった立石は、慰留する上司を振り切り、会社を辞めてしまう。
再就職する意欲もなく、ただ起きて食べて寝るという暮らしをする立石。上司から再就職の斡旋も受けたが全くやる気が起きない。
忌まわしい記憶にまで堕ちてしまった宇宙モデル関連の品々も、ほとんど処分してしまった。
手元に残るのは、ひとつのスフィアだけ。
それは、立石が学生時代に自作した初めてのスフィア。宇宙モデル作家としての自分の原点とも言えるものだった。
スフィアを見ているだけで、心が乱れる。しかし、なかなか捨てる決意が出来ない。
何日も煩悶し、ようやくゴミ捨て場にスフィアを持っていった立石に、少女が声を掛ける。
それ、いらないなら貰っていいか?、と。
承諾した立石に、少女は冗談混じりにこう言った。
「宇宙捨てるなんて、このばちあたりめ」
・・・・・・・・・・・・
まあぶっちゃけ言うとこの少女(高校生)は今でも宇宙モデルのファンで立石のファンでもある訳ですよ。
で、そのあと立石が辞めた会社に勤めている後輩女性社員(面識はなし。しかもまたもや現役宇宙モデルファンで立石ファン。しかも父親と二代に渡って)が訪ねてきたり、少女の保護者が登場してきたり、とアレコレあるわけなんですが。
うーん。
このラストは賛否別れるんだろうなぁ。
個人的にはアリっちゃだとは思うけれど、結構な長編(500ページ強)でこのラストってのは抵抗が無いとは言えないなぁ。
でも登場キャラクター達には似合いの結末だとも思ったけど。
泉さんの長編作品はデビュー作の「エレGY」を読んで以来だったんだけど、両作ともに登場人物の年代は同じぐらいだし、各人揃いも揃って対人スキルが低いのも同じなんだけど、何か今回のは感情移入できなかった。
主人公の性格も似たような感じだったのに、今作の立石は何だか優柔不断な印象しか持てなかったし。
そう考えるとラストがあんな風だったのも原因のひとつになってしまうんだろうか…。
んー、もう一冊攻めてみるかどうか思案のしどころだなぁ。