8冊目
「V.T.R.」
辻村深月
「マーダー」…それは法の目を巧く逃れている悪人を殺すことを許された、国で千人しか取得できないライセンスを持つ者。彼らは悪人を殺すことで収入を得る。そして、悪人ではないものを殺しても一切罪に問われないという権限を持っている。
そんな「マーダー」の一人でありながら仕事をせず、ヒモ同然の暮らしをしているティー。
ティーが自宅で微睡んでいる時、電話が掛かってくる。
電話の相手はアール。
三年前までこの家で一緒に暮らしていた恋人であり、千人の中でもかなり優秀な部類に入る「マーダー」でもある。
三年前音沙汰がなかったアールからの電話にティーは戸惑いを隠せない。
そんなティーに対し、アールは静かに、用件を伝える。
「これから先アタシの酷い噂話や嘘をたくさん聞くことになると思う。でもあなただけには知っておいてほしいと思って。アタシは変わってない。ティーと暮らしていた時のまま」
アールは何か大変な事態に巻き込まれているのではないか。しかも、現在進行形で。
ティーは山の中の家から久々に街へと出て、二人の共通の友人たちに話を聞きに行くことにした。
そこで聞かされたのは、ティーの知っているアールとはかけ離れた、耳を覆いたくなるような話ばかりだった。
皆に話を聞いたことで、アールのやっている事や目的はおぼろげながら分かってきた。しかし何の為にという理由は分からない。
ティーは、三年間近づかなかった二人の思い出の場所へ向かう。そこにはアールからティーだけに向けたメッセージが残されていて・・・
・・・・・・・・・・・・
辻村さんの「スロウハイツの神様」という作品の中にチヨダコーキという小説家が登場します。
若者、特に中高生の少年少女に絶大な人気を誇る一方、年を経るごとに徐々に読まれなくなり、「チヨダコーキはいつか抜けるもの」と評される。そんな小説家です。
彼の活躍は「スロウハイツの神様」で読んでもらうとして、この「V.T.R.」という作品はそのチヨダコーキのデビュー作という設定で書かれています。
要は別作品ながら、作中作みたいな感じです。
辻村深月ではなくチヨダコーキとして執筆されているので、従来の辻村作品とは違った文体になっていてちょっと新鮮です。
とは言えど、辻村色も健在。お馴染みの大仕掛けも含めストーリーは秀逸。
というより、やや粗さがあるこの文体とストーリーが上手くマッチしてた感じですかね。
両面カバー仕様や奥付など細かいところまで作り込まれててサービス満点でした。
またこう言う趣向で出したりするんだろうか?
「スロウハイツの神様」の中で取り上げられてた作品たちが読めたら嬉しいなぁ。