83冊目
「Another」
綾辻行人
一九九八年春。
家庭の事情で東京から亡き母の故郷へ転校してきた中学三年生・榊原恒一は、一度も学校へ行かないうちに肺気胸で入院してしまう。
病状も安定したある日、恒一は病院内のエレベーターで、自分が通う予定である中学の制服を着た少女と出会う。
「可哀想な私の半身が待っているから」そう言った少女は、倉庫や機械室、霊安室しかない階でエレベーターを降りていった。
GWを過ぎ、ようやく退院することができた恒一が初めて登校した三年三組の教室。そこには、病院で出会ったあの少女の姿があった。
ミサキ・メイという名のその少女の事が気になる恒一は、幾度となく彼女に話しかけようと様子をうかがっていたのだが、徐々におかしなことに気付いていく。
メイは授業中一度も当てられたことがない。
授業中にメイが外へ出て行っても、あるいは授業中に今までいなかったメイが入ってきても、教師はそのことについて一切反応しない。
休み時間や放課後になっても、クラスの誰ひとりメイに話しかけようとしない。
恒一がメイの話をしても、皆言葉を濁し曖昧な受け答えしかしない。
それらの態度に恒一は『怯え』のようなものを感じる。
そして、メイの机と椅子だけが他のものと比べて極端に古く、名札も、彼女が付けているものだけ色が変色し、よれよれになっている。
しかし、そんなことは気にせず、機会を見つけては話しかけていく恒一。
ある日、校舎屋上にメイの姿を見つけた恒一は、友人達の輪を離れて彼女の所へ向かった。
もうすぐ彼女に声を掛けられる距離になる、という時、さっきまで一緒にいた友人から携帯電話に着信があり、このような警告を受ける。
「いないものの相手をするのはよせ。ヤバいんだよ、それ」
急に悪くなった電波状況のため通話が切れてしまった携帯電話を仕舞い、屋上に足を踏み入れるとそこには誰もいなかった。
本当にメイは『いないもの』なのか。
クラスの皆が恐れているものは何なのか。
二十六年前に三年三組で起こった『ある事』が発端であることは断片的に聞いていたのだが、誰も詳しく教えてはくれない。
そんな中、クラス委員の桜木ゆかりが階段から転落死してしまい…
…………………………
手に取っての第一印象は、『分厚いなぁ、読むのに時間かかりそうだなぁ』だったのですが、物語の求心力と綺麗な文体のお陰で長さは全然気にならなかったです。
恒一の一人称で語られているのところがまたうまいですね。自分だけが知らされていない秘密、あるいはルールによって動いている周囲の人たちの違和感と気持ち悪さがダイレクトに伝わってきて、ずいずいと読み進めていってしまいました。
真ん中あたりで一回大きめのオチがあるのもよかったですね。
そのへんを含め、ラスト前まではほぼ完璧と言っても過言ではない作品でした。
ただ、終盤がちょっと好みじゃなかったです。
原因としては、ひとつにイメージしていた方向性のオチじゃなかったこと。
もうちょっと現実的な方向に転がっていくのかと思っていたので、『え、そのまま行ってしまうのですか?』と呆気にとられてしまいました。
それともうひとつは、あんまり言うとネタバレになるんですが、最終的に『犯人は誰か』みたいな話になるんですが、その『犯人』の目星がある程度想像がついてしまったこと。
そのせいでどんでん返しの威力が半減してしまいました。
まあどっちにしても個人的な問題なんですが…。
同じく綾辻さんの「最後の記憶」でもある程度予測がついたものの、そこまで瑕疵だと思わなかったという点を考えれば、やっぱり前者の要素が大きかったのかな、とは思います。
あと、最後らへんで伏線が回収されまくっていくのですが、これまでにあった意味深なセリフ等を恒一が逐一確認していくのがちょっと冗長に感じられてしまいました。
そこは読者が再度して確認すりゃいいんじゃないのかなぁ、と。
そこは初出が『野性時代』での月刊連載だったから、読者が以前の号を引っ張り出す手間を省くためにしょうがないところではあるのでしょうけど。
結局、読者としてだいぶスレてしまった自分のせいで楽しめなかったのかな、なんて思ってしまいますねぇ。
なんか自分が残念です。