76.「『アリス・ミラー城』殺人事件」北村猛邦 | 町に出ず、書を読もう。

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76冊目
「『アリス・ミラー城』殺人事件」
北山猛邦



東北地方の沖合に浮かぶ無人の孤島に『アリス・ミラー城』という名前の城が建っている。



その城にはルイス・キャロル作「鏡の国のアリス」に出てくる、現実世界と鏡の国とを行き来できる鏡、『アリス・ミラー』があると言われていた。



『アリス・ミラー』を入手してほしい、と各々の依頼者から依頼を受けた探偵たちは一路アリス・ミラー城に向かう。



普段船便がない島には、土地所有者の計らいで漁船が二往復してくれるのだが、その二便目が船着き場に到着したところ、つまり全員が島に揃ったところから物語は始まる。



その頃、一便目で到着していた探偵二人が遊戯室のチェス盤の前で嫌な想像をしていた。



チェス盤の上にはキングがひとつもなく、白のルーク・ビショップ・ナイト・ポーンが合わせて十個、不規則に並べられ、その白駒たちを睨み付けるかのように黒のクイーンがひとつ、存在感を示している。



アリス・ミラー城での世話役として島に来ている土地所有者の姪から聞いた話によると、島に来るのは彼女を含め十人。



偶然か意図的なものか、白駒の数も十個。



その白駒を自分たちだとすれば、黒のクイーンは殺人者ではないのか。
このチェス盤は、「そして誰もいなくなった」の『インディアン人形』のような役回りをして、一人殺されるたびに駒が減らされていくのではないか、と。



考え過ぎだとは思うものの、念のため、と彼らはチェス盤を駒ごと窓から海に放り投げた。



もし『殺人者』がチェス盤を彼らの想像通りに使うのならば、何事もなかったように駒の配置を含めチェス盤を元に戻す。それで『殺人者』がいるかどうかが分かるだろう、と。



翌朝、探偵の一人が殺されているのが発見される。



そしてチェス盤には黒のクイーンと『九つ』の白駒が並べられていた。



島には外部と連絡をとる手段はなく、船が迎えに来るのは一週間後。



探偵たちは「アリス・ミラー」を見つけて帰ることができるのか。
それとも、『誰もいなく』なってしまうのか…。




…………………………



この作品で、最初の頃あまり注目されていなかった北山さんが、一気に話題の作家になったそうです。



これまでの「『城』シリーズ」のような、『ミステリだけど舞台設定はSFチック』という流れからは逸脱しているので、SFが苦手だから読んでいなかった人にも受け入れられたのでしょうか。



とはいえ、と言うべきか、その分、と言うべきか、かなり凝った内容になっています。



いかにもな孤島でのクローズド・サークルに加え、顔のない死体、密室殺人に物理トリック、犯人のミスリードと盛りだくさん。



『物理トリックという分野にはもう先がない』といったミステリ談義に至っては、ある意味皮肉めいたものまで感じてしまいます。



そしてまた登場人物が魅力的です。



特に観月というオッサン探偵が素敵。
探偵なのに殺人にも密室にも興味を示さず、とりあえず「いくら必要だ?」と金で解決しようとする変人なんですが、途中から急にかっこよくなっていきます。


最後のオチが意外過ぎてちょっと唖然としてしまいましたが、読み返すと確かにちらほら伏線が。
やや承服しかねる感じでしたが、全体的には面白かったです。