75冊目
「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」
本谷有希子
父母がトラックにはねられて帰らぬ人となった。
そして長男・宍道と妻の待子、次女・清深の住む田舎の家に、女優になるため上京していた澄伽が帰ってきた。
葬儀の席だというのに朱色のワンピースに身を包んだ澄伽は、両親への弔意も示さず傍若無人に振る舞う。
葬儀の後も、澄伽は何故か東京に戻らず家に居座り続けた。
過去にあったある出来事を切っ掛けに妹を恨む姉の澄伽は、久方ぶりに再会した実の妹に対して理不尽な嫌がらせを続ける。
過去に自分がしでかしたことを悔やみ恐れ姉に抵抗できない妹・清深は、少しでも姉から離れるためかアルバイトをはじめる。
そのような状況を知りつつも、澄伽を諫めることも清深を救うこともできない宍道は思い悩む。
実は宍道にも、澄伽に対して後ろめたい過去があったのだ。
そんな事情を全く知らない待子は、亭主関白という言葉では表しきれないほどの暴君・宍道の言動に翻弄されながらも何とか家を切り盛りしようと奔走する。
一方の澄伽も実は所属する劇団から解雇を告げられていて…
…………………………
元々は本谷さんが作った戯曲で、2000年初演の舞台作品だそうです。
二年前に佐藤江梨子さん主演で映画化もされてましたね。見てはないですけど。
映画化する前から本屋では結構平積み率が高くて、珍しいタイトルだというのもあり名前だけは知ってました。
今回手に取ったのは、以前も書きましたが、季刊文芸誌「esora」に載っていた「幸せ最高ありがとうマジで!」という戯曲が面白かったからで、映画とは全く関係ないんですが…。
あ、ちなみにこの本は戯曲じゃなくて小説です。念のため。
はじめは、舞台作品ってことで若干気構えがあったのですが、読んでいくうちに引き込まれていってそんな事は忘れてました。
私は女優になるために生まれてきた女で、今は不遇だけれどもきっと大女優になれる、と思い込んでいる澄伽。
身内の不幸まで娯楽感覚で楽しんでしまえる自分に罪悪感を抱く清深。
父と離婚した前妻の子という立場のため、今度こそは家族を大切にすることを第一に考えようとする宍道。
身寄りがなく、幼い頃から『最低のちょっと上』の生活を続けていたため、宍道の理不尽な暴力にも、一人で新婚旅行に行かされることにも耐え、結婚することで出来た家族の一員になろうとする待子。
そんな四人がとてもリアルに描かれていました。
基本ドタバタのブラックコメディで、後味がいいようなラストでもないのですが、そこまでの伏線を回収して起こる最後の『奇跡』には声を出して笑ってしまいました。
他の著作も是非読んでみたいです。
あと、映画も、気が向いたら…。
追記
ふらりと立ち寄った本屋では、現在も「腑抜けども~」は平積み。
何か新しい帯がついてるな、と思ったら講談社文庫全体で何か特集をしてるみたい。
その帯には、でかでかとこう書いてありました。
『青春』
……、いや、この本は違うと思うし。