1枚だけ未使用で残っていた
冬の18切符の期限がその日に切れるということで
息子が早朝から一人で日帰りの旅に出た
 
雪景色の白川郷か
北陸方面にいきたかったらしいけど
大雪で交通機関が大混乱しているために難しく
雪の影響を避けて西か南に向かうとのこと
 
目的も目的地もない旅
とりあえずJRに乗り
気ままに行きたいところまで
普通電車に揺られていく
見たい景色があれば下車もできる
歩きたくなれば駅から出て
プラプラ散歩して
いい感じのカフェがあれば
そこでコーヒーを楽しむこともできる
 
この18切符の醍醐味を存分に堪能するのに
お金は必要なく
十分な時間だけが必要なので
仕事や家事に追われている人には
できない楽しみ方に違いない
 
学生時代だからこそできる
すごく贅沢で素敵な時間の過ごし方
 
年末は友達と金沢に行って寿司をたべてくると
18切符で出かけて
途中で東尋坊に行き先を変更して
福井の鯖寿司とイカ焼きが
美味かったわ〜と言いながら帰ってきた
 
自分と友達のその時の気分で
目的も目的地も変更したけど
結果、すごく面白くて楽しかった様子
 
 
後になってその旅のことを思い返してみると
目的とした東尋坊の景色よりも
その時友達と話したであろう好きな女の子の話とか
学校の授業がつまらなすぎる先生の話とか
鯖寿司の味だったりすると思う
 
個人差はあると思うけど
私にとっての旅の記憶は
いつもそんな感じです
 
旅に出るまでは
あの景色を見に行こう
あそこでご飯を食べよう
時間があったらあのカフェに行って
雑貨もお土産も買いたいとか
色々情報を集めたり
交通手段を考えたりするけれど
旅が計画通りにいった試しはないし
 
旅が終わって思い返してみると
目的とした景色や名所旧跡のことよりも
旅先であった人と交わした会話だったり
旅の途中にふと思い出した昔の記憶だったり
些細なことから口喧嘩したことなど
目的や予定していなかったことの方が
はるかに記憶として残っている
 
昔、インドのアジャンタとエローラの石窟寺院を
一人で訪ねたときのことを思い返しても
仏像や石窟壁画の詳細は殆ど何も覚えていないけれど
いつかアジャンタとエローラを訪ねようと思った
きっかけを与えてくれた
高校時代に世界史を教わった石松先生で
教養豊かで世界中を旅してきた先生が
アジャンタとエローラが
どれほど素晴らしい遺跡であるかを
目を大きく開き
唾を飛ばしながら熱心に語ってくれた情景は
今でもよく覚えているし
 
デリーまで帰る長距離バスに
どこから乗って何時間乗ったかは覚えていないけれど
一晩中バスに揺られて
これ以上座ってたらお尻が潰れる!
っていうほど痛かったことは
今でもよく覚えている
 
他にも
インド北部の観光地にバスで向かったけれど
どこの町に行って何を見たのかはもう覚えてはいない
でも、ホテルの部屋に戻ったら
窓から入ってきたらしい
銀色の毛の猿が5匹ほどいて
リュックを開けて
バナナやクラッカーを好き勝手に
ムシャムシャ食べていた光景は
今でも鮮明に覚えている
 
結局、私にとって
旅の目的なんて
本当はどうでもいいのだと思う
 
ただ、慌ただしい日常から離れて
何も考えずただぼーっと過ごす時間が欲しくて
旅に出るのだと思う
 
ぼーっとしながら
情報過多の頭の中を整理して
自分は何をしたいのか
どう進みたいのか
なんてことを
無意識に考えてきたのだと思う
 
だから
18切符で
目的も目的地のない旅に出る息子を見ながら
やはり親子だなとDNAのつながりを感じるし
 
彼自身の考えで
いい時間
いい経験
いい思索
を重ねて行ってほしいなと思う
 
学校や塾の時間に追われる生活からも
口うるさい親からも離れて
一人で気ままに過ごす時間が
彼の思考にどんな影響を与えるのか?
大人になった彼の中にどんな記憶として残るのか?
なんてことを考えながらこの文章を書いていたら
息子からLINEが入って
どうやら
大原美術館でモネの水蓮に遭遇しているところらしい
 
旅の目的はなくとも
旅の積み重ねの先に彼の人生が形成されていく
 
親でも友達でも先生の影響でもなく
自分自身でその道を選び進んでいきたい年頃
まさに思春期
 
どんな土産話を聞かせてくれるのか?
次はどこに行くのか?
今日は長くなったので
続きはまた次回に。
 
Written by Moeko
 
Studio Yogarium