夢色宝箱

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好きなことを好きな時に好きな程度に散らかす一人遊び部屋です。楽曲の感想や考察、イラストやハンドメイド、それらを用いた楽曲ファンアートなどをマイペースに楽しんでいます。

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『Deneb』は、志方あきこさんのベストアルバム『VAGRANCY』の公式特装版に同梱されたミニCDです。収録楽曲は「イグノス~Short ver.~」「時の慟哭」「Istoria~Piano Arrange ver.~」「Deneb」の全4曲になります。

今回はその中から「時の慟哭」「Deneb」の2曲を抜粋し、前回同様に楽曲感想をちょっこり書いてみたり、天体としてのデネブについて触れてみたりするようなゆる~い雰囲気でお送りいたします。天体としてのデネブに関してはかなり有名なものなので、ここでわざわざ触れる必要性はあまりないかもしれません…。まあいいや、お時間に余裕のある方はチラッとサラっと覗いてみてくださいませ。

 

❖まずは「時の慟哭」について。

無機質な音から始まる造語コーラス楽曲。妖しくも狂おしいヴァイオリンの音色、激しく重々しくリズムを刻むギターの音色、叩きつけるようなピアノの音色…そしておどろおどろしい志方さんの迫力満ちるコーラス。じわりじわりと焦燥感が腹の底から蝕んでくるような、そんな一曲です。冒頭の無機質な音色はよく聴いてみると「イグノス」の2番から同じもので、これだけでなく全体的に「イグノス」の音色やメロディがふんだんに引用されているこの楽曲。ですが、「イグノス」での疾走感はここでは焦燥感に様変わりし、密やかで静かな始まりの迷路は転調され、オルゴールの音色で不穏な雰囲気を醸し出しています。ただ怖い、ただ不気味なのではなく、いや確かに雰囲気としてとても怖カッコイイ楽曲ではあるのですが、ずっと聴いていると自分でも気付かないうちに分からないナニカが捻じ曲げられていくような、不確かにずっと地を這うような不安感に襲われる気がします…。これが焦燥感の正体なのかしら。

そして途中に挟まれる、狂気に暴れてギラつくギターの音色が何故か色気があって中毒性抜群。志方さんが弦楽器を扱うと、艶やかさとか色気を纏った音色になりますよね。志方さん楽曲での打楽器のリズム、弦楽器の音色の艶やかさ、サウンドエフェクトの巧妙さ。私が特に好きな要素を満腹に楽しむことができました。

 

これが流れている脱出ゲームの会場まで足を運びたい気持ちは山々だったのですが、半年前から身体を思い切り壊して休養中だったことと一家全員コロナ陽性でプチ騒ぎになっていたことと、何より私自身「自分の招いた結果が他人に影響を与える」タイプのゲームが本当に苦手で参加することは断念いたしました。生粋のコミュ障です。ごめんね志方さん、ごめんね脱出ゲーム…。

 

 

❖次に「Deneb」について。

志方さんのミニCDには恒例の、オルゴール風楽曲です。志方さん楽曲とオルゴールは切っても切れない要素ですね。

満天の星空の中を浮遊し漂うような冒頭から、どこか悲しげなオルゴールの音色が私の脳内を転がっては消えていく。オルゴールの音色が全て星屑になって、キラキラと瞬きながら次々に零れ落ちていく様が浮かびました。最後には星屑の海に一緒に沈み、眠りをもって夢のような星空の世界と別れを告げる、微睡んでいく。かつての人々が星空に様々な形を見出して紡いだ物語が、本当にそのまま、星空を舞台に展開されていくような一曲です。温かく、悲しく、切ない音色。あの日見た夢の、もう思い出せなくなってしまった記憶…の、ような。オルゴール風楽曲の中でも、私的にかなり好きな楽曲になりました。

 

さて、ここからは天体としての「デネブ」について触れていきたいと思います。

「デネブ」は白鳥座のα星で、この名前はアラビア語で“雌鶏の尾”を意味する「アル・ダナブ・アル・ダジャジャー」が短くなったものとされています。恐らく、デネブ=ダナブであり、これが“尾”を意味する単語。何だか魔法の呪文みたいな一文ですね。琴座の「ベガ」、鷲座の「アルタイル」と並び、“夏の大三角”でとても有名な星です。ちなみに、白鳥座のβ星の名前は「アルビレオ」と言います。こちらも有名かもしれません。星の名前って皆カッコイイ。

 

この「デネブ」をα星に抱える星座は先述の通り、白鳥座です。白鳥座の学名は“Cygnus(キュグナス または キグナス)”。もしかすると聞いたことのある方が多いかもしれません。これは“Cygnus”がギリシャ語で「白鳥」を意味することから来ています。

そして星座ときたら、それぞれに纏わる神話や伝説が基本セットです。白鳥座に纏わる神話は大きく2つ。軽く短くまとめてご紹介したいと思います。

 

❖まずは、ギリシャ神ゼウスとレダに纏わる神話から。

レダはスパルタの王妃であり、王・テュンダレオスの妻でした。そして、大変に美しい女性です。ゼウスはそんなレダの美しさにすっかり魅せられてしまいました。どうにかしてレダを自分のものにしたいゼウスは、アフロディテに協力してくれるように頼みます。

そこで、アフロディテは一匹の鷲に、ゼウスは白鳥に姿を変え、レダの前で鷲(アフロディテ)に追い回されるフリをすることにしました。

レダはそんな光景を見てまんまと騙されてしまい、鷲に追いかけまわされる白鳥を見て可哀そうに思いました。レダは両腕を広げて白鳥を呼び助けようとしましたが、白鳥に化けたゼウスにまんまと捕らわれてしまったのです。

こうしてレダは2つの卵を産み落とし、そこからは双子座のカストル・ポルックス、クリュタイムネストラとヘレネの4人の子が誕生しました。

 

❖次に、アポロンの息子とその親友に纏わる神話です。

太陽神アポロンの息子・パエトンは、自分がアポロンの息子であることを大変誇らしく思っていました。ですが、周りの友人たちは、パエトンがいくら言っても“彼がアポロンの息子である”ということを信じてくれませんでした。

自分はアポロンの息子であると言うことを確かめて証明するため、パエトンはアポロンのもとへ会いに行きました。アポロンは彼が自分の息子であることを認め、その証拠として、パエトンの願いを何でも1つ叶えてやることにしました。パエトンは、友人たちに見せる証として“太陽を曳く馬車を操らせてほしい”と頼みました。

この願いを叶えることに、アポロンは戸惑いました。何故なら太陽を曳く馬車の馬はとても荒い気性で、アポロン以外には、例え他の“神”であったとしても操ることは不可能だったからです。

アポロンは反対しましたが、パエトンは「何でも1つ、願いを叶えると言ったじゃないか」と聞かず、半ば勝手に馬車を連れて空へ飛び出していってしまいました。

 

太陽の馬車はしばらく間、順調に進んでいるかのように見えていました。しかししばらくすると、馬車を操っているのがアポロンではないと気づいて(もしくは黄道=太陽の通り道にいた蠍の傍を通った時にその蠍が馬の脚を刺して)、馬が暴れ始めました。馬車は滅茶苦茶に走り回り、馬車が近づいた場所にあるものは全て太陽に焼かれていきます。多くの森や都市が、大火災に見舞われてしまいました。たいへんな騒ぎになってしまったため見逃すこともできず、ゼウスはパエトンを雷で撃ち落としました。パエトンはそのまま息絶え、遥か下にあるエリダヌス川へ転落していきます。

その様子を見ていたパエトンの親友・キュグナスは、エリダヌス川に飛び込んでパエトンの亡骸を捜しだそうとしました。当然、パエトンの亡骸はいくら捜しても見つかりません。

それでも、いつまでもずっとパエトンの亡骸を捜し続けるキュグナス。これを見たゼウスは彼を可哀そうに思い、白鳥の姿に変えて天へ昇らせてやりました。

 

 

…いかがでしたか?ちなみに後者の神話について、キュグナスはパエトンの親友であったという説もあれば、兄弟であったという説もあります。

前者は何となくいつも通りのギリシャ神話という感じですが、後者は何とも悲しいお話となっています。誇りに思う父・アポロンに会いに行き、その直後には息絶えてしまったパエトン。それだけでも十分悲しいお話なのですが、その後のパエトンを捜し続けるキュグナスがあまりにも可哀そうで、私は読みながら胸が痛くなりました。

エリダヌス川も実は星座になっていて、調べてみると白鳥座とエリダヌス座はかなり離れた位置にあります。エリダヌス川に落ちたパエトンは見るも無惨な姿になり果てており、水の精霊たちによって拾い上げられて葬られました。パエトンの姉妹たちであるヘリアデスはパエトンの死をたいへんに悲しんで、いつまでも墓に臥して泣き続けたそうです。やがてその涙は琥珀へと姿を変えていったと言われています。

 

皆様は志方さんの楽曲「Deneb」を聴いて、どんな情景が思い浮かびましたか?私は楽曲後半に入ってすぐにある、オルゴールの音色がひたすら繰り返し落ちていくようなメロディを聴いたとき、馬車が暴走する様や川へ転落していくパエトン、川の中を捜し続けるキュグナスの姿が脳裏に浮かんだような気がしました。

実際には、この解釈が正解だとすると楽曲名は「Cygnus」にでもなっていないとちょっと無理矢理な話だよなとは思っているのですが、「Snowdrop」=植物のスノードロップと同様に、「Deneb」=天体としてのデネブは志方さんの誕生日である1月7日の誕生星。そこから想像力を発展させたら、こんなイメージを感じながら楽曲を聴くのもアリかなあと、ちょっとだけ思っています。しかも志方さんが愛するジャンル=鳥ですし。

 

 

星座の数は全天で88個といわれています。その中で“鳥”の星座は何があるかと言いますと、

烏座(非黄道星座)、白鳥座(非黄道星座)、鷲座(非黄道星座)、風鳥座(バイアー星座)、孔雀座(バイアー星座)、鶴座(バイアー星座)、巨嘴鳥座(バイアー星座)、鳳凰座(バイアー星座)、鳩座(ロワーエ星座)の9個。現存しない星座には鶫座(ルモニエ星座)、梟座(設定者不明)があるそうです。残念ながら志方さんが最も好きらしい雀は星座になっていませんが、探してみると鳥の星座は意外と多い印象。星の瞬きを纏いながら夜空を羽ばたく鳥たちの姿を想うと、いつもの星空も少し特別なものに見えてくる気がしますね。

 

 

何だか楽曲よりも天体の話の方が多くなってしまいましたが、天体の話も含めて私の楽曲感想です。次のアルバム名も『ステラムジカ(星の音楽?音楽の星?)』ですし、志方さんのファーストメジャーアルバムも『Navigatoria(航海を導くもの=北極星)』でしたし、“星”と志方さんは何とも親和性の高いように思われてきます。

 

またまたちなみにですが、今回出てきたアポロン…。実は、志方さんの自主制作アルバムでも大きく取り上げられたギリシャ神話の芸術神・ムーサを主宰する神でもあります。アポロンは太陽神でもありながら、学術や芸術をも司ります。

 

スノードロップと言いデネブといい、誕生花・誕生星で選んだからと言ってここまで志方さんの音楽史に結びつく要素が色濃く出るというのは、もはや奇跡ですね。どこまで見据えてアルバム作っていらっしゃったんでしょうか、あの方は。

 

 

少し長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださりありがとうございました!

ベストアルバム『VAGRANCY』についてはまた別途、まとめていきたいと考えております。

もし良ければその時まで、楽しみにしてくだされば幸いです。

 

❖参考資料:『星空の神々 全天88星座の神話・伝承 Truth In Fantasy』

 著:長島晶裕/ORG 新紀元社