スケアクロウ PART4
飲みに行ったのかどうかは定かではないが、2人は大きな噴水のある公園に来ている。ライオンはそこにたまたま来ていた4人の子供達とおふざけをして遊んでいたが、「さあ、集まれ。」と言うと、「手相を見てやるよ。」マックスは関与せず黙って噴水の周りを歩いているが、明らかにテンションの高いライオンの様子に違和感を抱いており、何かあったのだろうということに薄々は感ずいている。噴水の縁に腰掛けたライオンは子供たちを前に、「よし。誰が早かった?1番からだ。」と言うと手相を見始め、大袈裟な声で、「君はボタン工場を始めるぞ。」マックスは心配そうにライオンを見つめているが。その映像を背景にしてライオンの、「それを食べちまう。」と言う声が重なる。ライオンは、「腹がいっぱい。食費は全然要らない。」と占いの結果を教えてやる。子供の1人がはしゃいだ声で、「“ボタン男”だ。」別の女の子が、「あなたの手を温めてあげるわ。」別の男の子が、「こら。手を上げろ。」と周りで声を上げるが、ライオンはその一瞬表情が固まっていて動かない。子供達の声にライオンは我に返り、再び手相占いを始める。マックスは黙って瓶ビールを飲んでいるが、彼の耳にも子供達の騒がしい声がまとわりつく。ライオンは、「隠された宝を見つけると君には翼が生えて空を飛べるぞ。」男の子が歓声をあげ別の子供が手を差し出す。ライオンは、「“宝島”を見たいか?」と言うとマックスの方に視線を向け、「マックス。手伝ってくれ。芝居だ。」マックスがその場から動かないでいるとライオンは子供達に、「“宝島”だよ。」と告げ、マックスの方へ移動しながら、「マックス。やるぞ。」マックスは立ち上がり、目の前に立ったライオンは、「君はリトル・ジムだ。俺はロング・ジョンだぞ。」ライオンは早速マックスの腕に両手を絡めると百面相の形相で、「分かったかいな。相棒よ。」と芝居を始め、困惑の表情を浮かべるマックスを尻目に、「どうやら風向きがおかしいぞ。」明らかに様子がおかしいライオンにマックスは、「よせよ。」と言うが彼はお構いなしに、「おい。ジム坊や。俺に手を出すんじゃねえ。」子供達は面白すぎるライオンにキャッキャと言って喜んでいる。止めさせようとするマックスの手を振り払ってライオンは、「やる気か?」と芝居を続ける。次第に声が高くなるライオンに、噴水の少し離れた縁に座っている子供連れの母親たちも奇異な視線を向けている。ライオンは子供達に、「皆、コマ切れにするぞ。」と言うと噛みつく仕草を見せ、「俺のダンビラを早く持ってこい。どこにある!」大声で叫ぶライオンの表情が俄に悲しげになり、泣きそうな視線を噴水に向ける。子供達の、「ここだ!ここにある!」と言う声が噴水の映像に重なる。気が気ではない表情でライオンを見守るマックスの映像を背景にライオンの、「楽しんだかい?」と子供達に話しかける声が重なる。一見普通に戻ったライオンは男の子の襟首に触れながら、「ロング・ジョンはいい男だぞ。」と話しかけていたが、男の子がピョンピョンと跳ね出すと次第にライオンの表情も芝居をしているそれに変化し、いきなり男の子を肩に担ぎ上げる。男の子は笑い声を上げていたが、ライオンがそのまま噴水の中に入ると、「私の子供を!」と叫ぶ男の子の母親の声がこだまする。母親はさっきまで心配そうに縁に座っていた女性で大声を発しながらライオンの方へ向かう。ビールを飲んでいたマックスも異変に気付いて、「ライオン!」と叫ぶと噴水の中に入っていく。男の子を抱き締めたまま噴水の中で立ち尽くすライオン。マックスが、「子供を返すんだ。」と言って子供を引き離そうとするがライオンは頑なに拒む。マックスは、「子供を放すんだ!」抵抗するライオンから何とか子供を取り戻したマックスは母親の元へ返してやる。噴水は宗教的なモチーフが施された大きな物で、1人になったライオンは噴水の中に留まって独り言のように、「洗礼する。」と言いながら更に奥へと進んでいく。母親と子供を噴水の外へ連れ出しながらマックスはライオンの方へ視線を向ける。噴水の高いところにある獅子の像のところに登ったライオンは、「愛してくれ!この俺を!」と祈るように叫んでいる。マックスは噴水の中から、「戻ってこい!」と声を張り上げる。ライオンは獅子の像にしがみつき、虚ろな視線を虚空に向ける。マックスはライオンの近くまで行って、「降りてこい!降りるんだ!」と言いながら下から足を引っ張るがラチが開かない。仕方なくライオンのところまで登ったマックスは、「降りてこい。降りるんだ。」聞こえているのかいないのかしがみつくライオンはマックスが何を言おうが、体に触れようが動く気配はない。マックスは、「行くんだ。さあ。」と声を限りに叫び、力一杯ライオンを引き離そうとするが容易には離れない。それでも何とかライオンを引き戻したマックスは抱きかかえるようにして下に降りていく。その間、ライオンは何か訴えるようにマックスに言葉を発し、その表情は哀しみに満ちあふれている。噴水の下までたどり着いたところでライオンは力なく水の中に身を沈める。マックスがそれを助け起こして噴水の外へ運びだそうとするとライオンは突然、「俺は戦う!戦い抜くんだ!戦うんだ!」と喚き始める。マックスは、「よせ!」と力を入れるとライオンは再び水の中に倒れ込む。訳が分からないマックスは倒れ込んだライオンを引き上げながら、「どうした?」ライオンはその時、目を開けたまま意識を失いマックスは、「誰か呼べ!」と周囲に向かって大声で叫ぶ。病院の薄暗い廊下で待っていたマックスの前に、ストレッチャーの上に載せられて点滴を施されたライオンが姿を見せる。依然として意識はなく、マックスは前を通りかかった主治医に、「容体は?」主治医は歩きながら、「かなりひどい。錯乱状態です。」マックスは、「伝染病か?」主治医は、「違います。」と言うと病院関係者に、「ラグナ病院へ移送する。今は眠らせてある。」と伝える。マックスは震える声で、「そこはどこだ?」主治医は、「州立病院です。」マックスは、「退院は?」主治医は、「分かりません。」それを聞いたマックスは、「何だと?医者のくせに。」と言うが主治医は落ち着いた口調で、「お静かに。ここは病院ですよ。」とたしなめる。マックスが尚も何か言おうとするが主治医はそれを黙って制する。マックスはライオンの方に視線を向けながら、「俺が世話する。カネはある。ピッツバーグに移送しろ。」主治医が黙っているとマックスはライオンの方へ移動しながら、「仮病だ。ふざけてるだけだ。」と言って主治医の反応を見る。そしてもう一度振り向いた時には主治医の姿はなく。看護婦2人がいるだけだった。マックスは静かにライオンの傍らに立って眠り続ける彼を見つめる。「縛られたな。見ろ。」と呟くと、「ひどいな。何をされたんだ?」信じられない光景を目の当たりにしたマックスは悲しげにライオンを見つめていたが、「きっと夢だ。」と独り言を言うといきなりライオンの体に触れて揺り動かし、「この野郎!痩せっぽち。目を覚ませ。おい。起きろ!」反応がないライオンにマックスは、「自由にしてやるぞ。」と言うなり彼を固定している紐を解き、上体を抱え上げると、「俺を見ろ。聞くんだ。俺1人じゃ商売できんぞ。おい。誰を信用したらいいんだ。あの公衆電話に戻ろう。やり直しだ。女に何を言われた。」ライオンに聞こえるはずもないがマックスは尚も、「俺たちは一心同体だ。そうだろ?頑張ろうぜ。おい。どうだ。」と必死に語りかける。遂にはライオンの上体を抱え上げて抱き締め、「約束しただろ。俺1人じゃダメだ。起きろ。起きろ!聞いてるのか!」大声を張り上げるマックスに気付いた主治医が戻ってきてライオンから引き離し、「彼は病人です。私たちに任せて。」ライオンが移動していくとマックスは、「1人じゃダメだ。」と引き止めようとするが主治医に、「落ち着いて。」と諭されて諦める。離れて行くライオンにマックスは尚も、「ダメなんだ。起きるんだ!」と言いながら後を追おうとするが主治医が、「彼のためなんです。」と引き止められる。マックスはライオンの方へ視線を向けながら主治医に、「カネはあるんだ。ほら。見せるぞ。」主治医がもういいからというような素振りを見せるとマックスは、「待ってくれ。」と言い、ありったけの手持ちの現金を取り出すとそれを数えながら、「2,648ドル73セント。どうだ。」主治医はそれには何も言わず、黙って帰るようにとマックスの背中を押す。マックスはもう姿が見えなくなったライオンに向かって、「おい。ライオン。安心しろ。俺が面倒を見る。」そして主治医の腕を振り解くとライオンがそれまでいた廊下に向かって手帳をかざし、その内容を確かめ、強い意志で何かを誓う。バスターミナルの切符売り場でマックスは、「ピッツバーグまで。」係の女性は、「往復?」マックスは一呼吸置いて、「そう。往復だ。」女性は、「27ドル95セント。」マックスはポケットから札束を取り出して何度も数える。それを半ば呆れたように見ていた女性は、「足りませんね。」するとマックスは何か靴を脱ぐような格好を見せる。カウンターの女性にはマックスが何をしようとしているのかが見えず、次の順番の女性を手招きする。カウンターに現金を置いたままだったマックスはそれを手元に引き寄せると、係の女性の目の前で脱いだ靴のかかと部分にナイフを差し込む。するとそこから紙幣が落ちてきて、それを手にしたマックスは自慢げにそれを係の女性に見せる。そしてそれらを再び数え、「25・・・28ドル。」と言って札を差し出す。係の女性がそれを受け取って金額を確かめている間、マックスはナイフを懐に仕舞った後、靴のかかとをカウンターに何度も何度も叩き付ける。そんなマックスに係の女性は胡散臭そうな呆れた視線を投げかけるが、マックスはお構いなしに叩き続ける。係の女性がチケットを差し出すが、マックスはそれを目の前にしたまま尚も叩き続ける。スクリーンは暗転し、タイトル・クレジットが始まる。 道頓堀の戎橋劇場で初鑑賞して以来、40数年ぶり2度目の鑑賞。本作は当時、カンヌ映画祭でグランプリを獲得した話題作で、日本公開を心待ちしていた記憶が甦る。そのストーリーの斬新さもあったが、何よりも注目を集めたのは当時売り出し中のジーン・ハックマンとアル・パチーノの初共演作品であったことだ。現在91歳で健在のジーン・ハックマンは“俺たちに明日はない”(1967年)で注目を集め、“フレンチ・コネクション”(1971年)ではアカデミー主演男優賞を受賞して一気にトップスターへ上り詰めた。そしてパニック映画の最高峰“ポセイドン・アドベンチャー”(1972年)の世界的大ヒットを経て本作出演となった。一方のアル・パチーノも81歳で健在だが、“哀しみの街角”(1971年)を経てデビュー3作目の“ゴッド・ファーザー”(1972年)が世界的注目を集め、その勢いで本作に臨んでいる。その後の2人の大活躍振りは枚挙に暇がないが、私の記憶が正しければ2人の共演はその後実現していない。そんな背景も含めての今回の再鑑賞は懐かしくもあり、期待に違わぬ傑作であることを再確認できた。マックスは子供の頃から人を信用することができない性格で、気に入らないことがあれば力ずくでの解決しかできない男。その結果として様々な人々との間で暴力沙汰を起こし、遂にはそれが災いして刑務所送りとなってしまう。そして6年の刑期を終えたにも拘わらずマックス自身は微塵の反省もなく、バカは死ななきゃ直らないを地でいっている。ただ刑務所生活でマックスが変わったことが1つだけある。それは生計を立てる手段として洗車業を始めることを真剣に計画し、コツコツとそのための資金を貯めてきたことだ。ライオンは若くしてアニーという女性と生活を共にし、彼女が妊娠したことを知ったにも拘わらず、ある日突然蒸発してしまう。その原因が何であったのかは不明だ。妻子との平凡な生活の始まりに理由もなく嫌気が差したのか?親になるという自覚もなく父親となる現実に堪えられずに逃避してしまったのか?どんな理由にせよライオンの行動は正当化できるものではない。船乗りをして稼いだカネはせっせとアニーに仕送りしてきたが、子供が5歳くらいに成長しているという現実に目覚めると、急に妻子が恋しくなり、子供へのプレゼントを携えて再会を夢見る。自分本位この上ないが、悪意も計算もなくただひたすらに詫びて妻子との再出発に人生を賭ける。性格は至って優しく、人との争い事を最も嫌う。そんな水と油と言っても過言ではないマックスとライオンが巡り会い、行動を共にすることに。2人の初対面は互いにヒッチハイクの車を見つけようとしていた荒野の1本道。ライオンはマックスと2人でも構わないと思っていたが、マックスには全くその気がない。ライオンはマックスとコミュニケーションを取ろうといろいろ仕掛けるが、マックスは完全無視する。ところが燃料切れのライターに腹を立てているマックスに、たった1本だけ手元に残っていたマッチをライオンが提供したことにより、マックスが感激してライオンとの同行を決める。それまでのマックスの人生においてライオンのような優しさと思いやりを持ち合わせた人間と遭遇することはなかった。ライオンは“スケアクロウ(カカシ)”を例えに人と争うのではなく、人を笑わせ和ませることによって良好な人間関係を気付くという人生訓を垂れるが、マックスには響かず半ばバカにして我が道を行く。性格も生き方も違う2人だが、ヒッチハイクを通じてライオンを気に入ったマックスは洗車業の相棒として認める。マックスは相変わらずアルバイト先やドライブ・イン、バーなどでいざこざを起こしてライオンを困惑させる。途中で立ち寄ったマックスの妹コーリイが住むデンバーでは、妹のビジネス・パートナーであるフレンチーと意気投合し、4人で訪れた酒場で食事とお酒とダンスを楽しんだが、フレンチーと顔なじみの男が彼女に声を掛けたことに腹を立てたマックスがケンカを仕掛け、挙げ句には駆けつけた警官を殴り倒してしまったことで、ライオン共々1ヶ月の強制労働を課せられる。マックスは自分のケンカが原因にも拘わらず、その前に酒場で盛り上げたライオンを逆恨みして強制労働期間中の絶交を宣言する。そんなマックスだが、ライオンがおカマを掘られそうになり、抵抗したことによりボコボコにされたことを知ると、その相手を完膚なきまでにブチのめして懲らしめる。強制労働明けの酒場でマックスは性懲りもなくまた暴力に訴えようとしたため、呆れたライオンは軽蔑と失望の眼差しを向けてその場から去ろうとする。それを見たマックスははたと気付き、機転を利かせて軽妙なストリップ・ダンスを披露する。険悪な空気が一瞬にして和み、笑いに包まれる中、満足そうな表情を浮かべていたライオンの表情が次第に曇り始める。妻子が住むデトロイトに近づくに連れ、ライオンが期待と不安で情緒不安定に陥っていることにマックスは薄々感づいてはいたが、掛けるべき適当な言葉が思い浮かばなかった。妻アニーが住む家の前に立ったライオンは、事前に電話をかければ拒絶される心配があるから突撃訪問を宣言していたが、急に弱気になって電話で訪問を告げることに方針を転換する。突然のライオンからの電話に驚いたアニーは怒りと困惑から、可愛い男の子がいるにも拘わらず、子供は流産したと噓を言う。アニーの再婚にも少なからず動揺したが、子供の流産を聞いたライオンのショックは想像を絶した。加えて流産した子供は洗礼も受けることなく地獄に堕ちることになったのはライオンのせいだと非難されたことに打ちのめされる。半ば放心状態で電話ボックスから出たライオンだが、マックスの顔を見ると“男の子だった!”と偽ってハイテンションで叫び、マックスと抱き締め合って喜びを共有するフリをする。子供の存在を知ったにも拘わらず、妻の再婚を理由に会いに行こうとせず、一緒に飲みに行こうと誘うライオンにマックスは疑念を抱くものの敢えて拒否しない。あんなに片時も離さずに大事に抱えていたプレゼントの箱を放置したまま離れて行くライオンに気付いていれば、対処の仕方も違っただろうが・・・。噴水公園で集う子供達を見たライオンは一緒に遊んで楽しませるが、次第に亡くなった我が子とオーバーラップし、幸せを与えられなかったという自責の念が込み上げる。衝撃の激しさは時間の経過と共にライオンに重くのしかかり、精神に異常を来したライオンは子供を抱え上げると噴水の中に入り込む。噴水の中には神々しい神話の世界を描いた彫刻が設えられており、子供に洗礼を受けさせられなかった償いの思いがライオンを駆り立てる。子供を引き離された後もライオンは獅子の像にしがみついて地獄に堕ちた我が子に必死に許しを請い、愛を熱望する。やがてライオンは噴水の中で意識を失い、病院に担ぎ込まれる。治療を終えたライオンは眠らされてストレッチャーに横たわる。主治医に寄ればライオンは錯乱状態で重い精神病に冒されているとの診断。拘束衣に包まれて眠る変わり果てたライオンにマックスは必死に語りかける。主治医に説得されてライオンを委ねたマックスはバスのターミナルでピッツバーグへの往復切符を買う。本作はこのバス・ターミナルのシーンで完結するのだが、このラスト・シーンに接した時、初鑑賞時の記憶が鮮やかに甦った。マックスは手元資金だけではバス料金が払えず、仕方なく靴底をナイフでこじ開けて隠していた紙幣を取り出すのだが、チケットを手にした後もその場から動かず、カウンターに隙間が空いた靴底を元に戻すためにカウンターに打ちつける。チケット販売の女性が呆れた視線を投げかける中、マックスはお構いなしに靴底を繰り返しカウンターに打ちつけ続ける。ここでスクリーンは突然暗転し、クレジット・タイトルが流れ始めるのだ。“えっ?これで終わり?何で?”いきなり梯子を外されたような意外な結末に困惑してしまった。ライオンがその後どうなったのかも分からないじゃないか。今回改めて鑑賞し、この疑問はある程度納得できた。本作はマックスとライオンの物語ではなく、実はマックスの人間再生をテーマにしたものではなかったのかという理解だ。マックスがピッツバーグへの片道切符ではなく、往復切符を買ったということが核心で、このマックスの行動を描いたことにより本作は完結を迎えることができたのだ。すなわちマックスはライオンを捨ててピッツバーグへ帰るのではなく、すぐにライオンが入院しているデトロイトへ戻ってくるということを暗示しているからだ。これからライオンの病状がどうなるかは分からないが、マックスはデトロイトに戻って彼のために尽くそうとしているのだ。他人のために自己犠牲を強いるなんて行動は、それまでのマックスには考えられないことだった。唯我独尊、自己本位、傍若無人のマックスがライオンによって他人への優しさと愛を表現できる人間に再生できたのだ。だからこそライオンがその後どうなったかを描く必要性はなくなったのだ。ライオンはマックスの人間再生を実現させるための狂言回し的位置づけではなかったのか?その観点から冷静に見つめるとライオンという人物はどこか現実離れしているような気がしないでもない。真相は定かではないがそう理解することで意外な結末にも納得できる。話題を主役2人に戻そう。本作のジーン・ハックマン演じるマックスは野卑で粗暴でケンカっ早い人物だが、これはハックマンが“フレンチ・コネクション”で演じた刑事ポパイ役と類似していて違和感がない。これに対してアル・パチーノが演じたライオンは極めて滑稽かつ超個性的な変人に近い役柄だが、前作の“ゴッド・ファーザー”における重厚でクールで凄みさえ感じられたマイケル役からは想像もできないほどの乖離振りだ。その後の2人の大活躍振りは万人が認めるところとなっているが、その役柄のバラエティという観点に絞ると、アル・パチーノに軍配が上がる。それは本作のライオン役でもその百面相振りを窺えたが、本作以降の作品で彼が見せた役柄パフォーマンスの多彩さには驚かされた。本作の中で最も印象深いシーンはハックマンのストリップ・シーンだろう。マックスの桁違いの厚着という伏線が巧妙に重なって、強面ハックマンの珍妙かつユーモア溢れるストリップ・ダンス振りは微笑ましい。万引きを画策したマックスがライオンに女性店員の注意を逸らすように命じるが、突然ライオンが店内で走り出したことにマックス本人が目を奪われて、万引きのチャンスを逸するというシーンも珍妙で忘れ難い。2人が初めて出会う荒野の1本道のファースト・シーンも印象深い。先にその場にいたライオンが丘の向こうから降りてきたマックスを興味深げに見つめている。ライオンがコミュニケーションを取ろうと試みるがマックスは一切相手にせずに無視する。ところが視界の先にトラックが現れライオンが先に走り出すと、マックスが血相を変えて怒鳴りながら走り出す。静から動への鮮やかな転換が秀逸なシーンだ。