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第六回 Master Of Puppets

ヨージはいつもの百万ドルの笑顔で迎えてくれた。
人間性は別として心底信用できる笑顔だった。
「部屋が散らかってるけど、まああがってよ。」
部屋には漫画や本が数冊転がっているだけだった。男部屋の「散らかっている」とは犬の糞に爆竹を突っ込んだようなものだと思っていたが。

「さあ、ボーイ、燃料をそろそろ入れないとやばいんじゃないのか?
メタリカだってGive me Fuel って歌ってるじゃないか?持ってきたぜ、呑もうぜ。」
「おお、酒か。ありがたいな。今日は呑むぞ、もちろん山岸もな。」
男からのウインクも捨てたものではなかった。メモしておこう。だけど、二度とそのメモは読まない気がする。
「今日はあまり呑まないよ。」
「山岸は酒が弱いからな。ヨージは酒に弱いけど、プププ。」
「そういやメタリカといえばいいブート(海賊盤)があるけど見る?」
「おー見る見る。」
安田は乗り気だったが俺はヘビメタには興味がなかった。よく悪魔の音楽などといわれるが全くそのとおりだと思った。宗教的意味ではなくその音楽が発散するすべてが悪だった。

「おー、音が割れている以外は最高だな。ブートなのにこんなに近くで撮れているなんてすげーよ。」
「音が割れてるのはアンプ直だからな。もちろんコンソールからとった音源があるんだけど映像と音を一緒にするやり方がわからないからしょうがない。MP3にして今度送ろうか?」
「マジ頼む!」
「山岸は?」
「聞かなくてもわかるだろ?」
「そうか、じゃあ送るよ。」
「…」

俺は手にあるほくろの数をひたすら数えていた。それ以外にすることがなかった。
右手に四つ、左手にひとつ。何度数えても数は変わらなかった。
「マスターオブパペッツ!」
英語が苦手な安田もその歌を口ずさんでいた。
「マスター!マスター!」
手を振り上げている。何だそれは?男のマスターベーションをレクチャーしている軍の仕官のようだった。トム、手を軽く握り締めて一定のリズムをつけて一見乱雑に動かしているように見えるかもしれないが丁寧に、だ!いいか?正しくはこうだ、マスター!マスター!
「おれはこの「マスター!」を生で聞いたんだぜ?」
「この会場にいたのか?」
「この会場にいる奴が聞いているのはスピーカーを通した声だ。俺のはジェイムズ・ヘットフィールドの生の声だ。」
「マジで?」
「このビデオを撮ったのも俺だしね。撮影班の振りしてステージの下で撮ってたよ。ほら、鼻の穴が良く撮れてるだろ?」
「警備のバイトとかやってたのか?」
「いんや。もぐりこんで撮った。チケットすら買ってないし。」
「マジで?」
「マジ、マジ。意外と簡単に入れるよ。ただ安田みたいな人相が怪しい奴は無理だろうけどな。つーかお前なら免許の書き換えに警察署に行っても『自首ですか?』って聞かれるんじゃないか?ははは。」
簡単なのはヨージだけだろう。ヨージは好青年そのもので人を一目で信用させる外見と振る舞いをする。彼はあらゆる人の心の鍵を開けることのできる超一流の錠前破りなのだ。だが開けることができるという意味においてなので、彼が開けたいと思わなければ開けないわけで彼の人物評価は必ずしも彼の錠前破りの腕前に比例していなかった。事実俺は、
「もう、やめてくれ。テレビでも見ようぜ。」
「えー、酒もあまり呑まない、ビデオには興味がない、ずいぶんさめた友人だな、山岸君は。どう思うかね?安田君?」
「そうだな、もうたっぷり見たし。テレビでも見るか?」
「でも、次はBatteryだぜ?これ見なきゃ、おさまらんだろ? 」
「このビデオは貸し出し中じゃないな。俺がレンタルしよう。レンタル代は宝クジの当選金から支払います。」
「俗に言う出世払いか。まあいいや。」


俺は自宅に帰り便所で吐いていた。テレビも面白いものがやっていなく、仕方なく呑みまくった。ヨージが心からの笑顔で笑っていたような気がする。クソッ。いつかあいつの鼻をへし折ってやりてぇ。
便器の前でひざまずいている姿は悲壮感が漂っているというよりは異常だ。ひざを折りまげて便器に祈りをささげているようだからだ。新興宗教のようだ。念仏は濁音が多いが俺の念仏も負けてはいなかった。
ウゲェウゲッ。
安田は憎めない奴だが今はたっぷり憎んでいる。今日が最悪なのは安田の宝くじがすべて原因だ。宝くじなんか当たらなければいい。いや、そんな心配をしなくても当たらない。1から当選確率を引いたものが安田の未来で俺の報酬だ。俺は世界を憎んだ。
ウゲェゲホッゲホッ
そもそもジャンボ宝くじはクジの購入者からすれば選択肢の幅が少ない。あまりにも少ない。
胃酸がせりあがってくる。
親が子を完全にコントロールできる典型的な博打じゃないか。しかもどっかの会場でルーレットみたいなやつを回して数字を決める。予想もくそもないし、予想したところでその番号を買えない。当たるわけがないんだ。
うぇ、うえっ
会場での数字がすべてを決める。誰が買っても親は気にしないし親は絶対に儲かる。
独り言が便器から跳ね返ってきた。最後のこだまを聞いた瞬間、俺はひとつのあやふやで、妄想としかいえないものが浮かんできた。だが、決して不可能ではなかった。
安田に連絡しなければ!
俺が便所から出てきたのはそれから一時間後のことである。

第五回 美しい花弁は美しい花を構成する。

俺たちは「ヤマハチ」を後にした。
今日の戦果は安田を呪いたいぐらいの出来だった。そして安田は二人を呪っているだろう。
「僕はいつもどおり7割9分の出来だった。標準偏差をとるまでのない凡庸な数字だ。」
といいながら目じりがたれていた。
 それに対し大友は一番儲けているのに平然とした表情だった。といってもコールドゲームというほどではなかった。
「あのさあ、大友…君、10分後に777出すっていってどうして本当に10分後に出したんだ?どういう種があるんだ?」
「いや、種はないよ、山本、あれは…」
「山岸」越智がつぶやく。
「ごめん、山岸、あれは7を三つそろえた。それだけ。それ以外に答えがある?」
「ああ、そうだけどいつかは777が出るって言うのはわかる。でも、ちょうど十分後に出すのは何かあるはずじゃないんか?常識じゃ考えられん。」
大友は何も答えない。
「大友は動体視力と瞬発力がいいんだ。さらに言えばスポーツ全般を含む、からだを使うことだったら誰にも負けない。なっ、大友!」
大友は顔を赤くしてうつむいた。
「スロットは簡単だよ。ゆっくり回っているリールをそろえればいいんだから。」
「あれをゆっくり回っているなんて相当いい目をしてんだな。だったらもっと稼げるんじゃない?」俺は大友という男にのめりこんでいった。安田の宝くじなんかよりもずっと興味を引かれる。
 「いや、確かに777を出すのは簡単だけど連続して出すと店側に疑われ、出入り禁止になる。それよりはたまにわざと損をしたり、市内で店を変えたり工夫をしているんだ。当てるときだけ本気を出せばいい。後は適当に打ってる。単純な勝率で言えば越智より悪いよ。」
 「うらやましいな…俺たちにもそんな才能があればなあ…なぁ、安田!」
「おいおい、負け犬同士傷をなめあいたいのか?俺を一緒にするなよ。俺にはジャンボがある!お前はもっぱらおしゃべりにつかっている舌を自分の傷を嘗め回すのに使えよ!」
「そうだな…お前に三億円当たったら靴をぴかぴかに舐めてやるよ。」
「よっしゃ!交渉成立!大友、越智!お前らの臨時収入で俺に革靴を買え!山岸が舐めたくなるような靴だ!」二人がしょうがなさそうに笑う。


「安田~、お前の周りには本当に才能が豊富な奴が多いなぁ。大友然り、横川然り、横川がいる。それに後誰だっけな~、あ!横川だ。そして最後に横川だ。」
「山岸…まだ横川にうらみ持ってるのか?」
「当たり前だろ?だってあのソファ10万したんだぜ?」
「はぁ~、俺が悪かったよ、俺が。でも才能ある奴だったら越智は抜かせないよ。」
「確かに。」大友は静かにつぶやいた。
「越智はどんな才能があるんだ?」俺は越智に聞いた。
「僕に才能なんてないよ。」越智はけろっと言った。越智はメガネを拭きだした。語る用意をしているようだ。
「越智はビルゲイツだ。」安田は誇らしそうに答えた。
「ビルゲイツは経営者だよ。プログラマーじゃない。」
「それは自己紹介として捉えていいわけだね、越智?」
越智は俺の質問に対してうなずいた。
「こいつの作ったゲームにはお世話になったよ。麻雀はルールがいまだにわからないけどオセロは暇なときにやってるんだ。」
「簡単なゲームぐらいなら俺でも作れるけど…」
「俺はプログラミングがメインで、基本的にアプリケーション開発だったらかなりの自信がある。WEBもかじってるし、ハードも多少扱えるんだ。安田がやっているゲームは小学生のころに作ったものだ。」
「つまり、小学生のころから麻雀のルールを知っているってことか?すげえなぁ。」
安田にとって小学生がプログラミングをすることより麻雀のルールを知っていることのほうが驚きらしい。
「そういえばさっき株もやっているって言ってたよね?」
「ああ、ファンダメンタルとテクニカル両方こなせるよ。ただ俺みたいなプログラマーはテクニカルのほうが手間がかからなくていいね。運が作用しないし。」
「じゃあ、金融に関して詳しいってことか?」
「まあね。」
越智は自分の得意分野に関してかなり自信があるらしく、自分の得意分野に話が及んだときは語気が荒くなり、一人称が『僕』から『俺』になるようだ。
(…プログラミングに通じているということは数学にも強いだろうし、金融に通じているということは法律、経営もかじっているんだろうな。理系のマスター兼、文系のマエストロってわけか。)
「越智はパソコンに詳しいよ~。俺がパソコン買ったときもセッティング一人でやってくれたもん。」
大友は越智の専門性をアピールするよりは、自分のパソコンアレルギーを告白していた。



大友と越智とは途中で別れた。勝ち組は何か旨いものを食いにいくらしい。
「な、そんなにぐったりした顔すんなよ。パチンコで負けたぐらいなんだって言うんだよ。パチンコで買った金で食えるものなんて寿司程度だぞ?三億当たれば豪華客船にのって世界一周できるぜ?俺一人でいってもつまんないから、実はお前と一緒に行こうって考えてたんだ。もちろん俺のおごりで。」そこまで妄想していたとは恐れ入る。俺がぐったりしているのは安田の妄言に神経をつつかれているからだ。


「そうだ!今から気晴らしにヨージの家に行こうぜ!あいつは和むからな!」
確かにヨージはすばらしい笑顔を持っていた。だが、安田のような温かい心は持っていないように思える。彼の態度がすがすがしければすがすがしいほど、俺は圧迫されているような気分に襲われる。
 安田のうんざりするくじの話、ヤマハチでの全く無意味の出費、そして俺の苦手なヨージ。毒を食らわば皿まで。
「ああ、そうだな。」


俺たちは酒とつまみを買ってヨージの家へ向かった。酒も俺にとっては頭痛の種だった。

第四回 Slot:1.細長い穴2.スロットゲーム

「おっ大友に越智!久しぶり、また来てんのか。今日も俺のためにジャックポットをためてくれたのかい?」
「残念ながら利益は出ているよ。平日は株やっているけど今日は相場が開いてないからね。だから今日は出稼ぎだ。後、訂正しとくけど君が僕たちより勝ったことはないはずだ。」
メガネをかけていて背も小さく、オタクといった感じだ。焼肉で牛肉と豚肉と鶏肉があれば鶏肉を選ぶだろう。鶏はその他の家畜と違って屠殺するときにあまり苦しまずに殺されるんだ。とか言いながら本当は、豚や牛は胃にもたれるから食べない。
「俺にとってスロットはサラリーなんだ。安田はヤマハチにとってボーナスだけど。はっはっはっ」
この男は筋肉質でスポーツマンタイプだ。服の上から筋肉の構図がわかる。彼も焼肉で牛肉と豚肉と鶏肉があれば鶏肉を選ぶだろう。鶏肉は低カロリーで良質のたんぱく質が豊富だからだ。そして食べながら鉄アレイを振るっていそうだ。
 「こいつが山岸だ。俺のガキのころからつるんでる。」
安田が俺を紹介する。
「ども」
二人とも会釈をする。
「このマッチョが大友で…」
大友は「よろしく」といいながら握手を求めてきた。
スポーツは握手で始まり握手で終わる。彼はその流儀にのっとった。
「僕が越智です。」
今にも泣き出しそうな顔をしていた。握手は求めてこないだろう。
「越智だ。」安田は体裁を整えた。
「今日はどんな感じだ?俺たちは九回裏最後の大逆転にむけて打席に立つところだ。」
「もう九回裏かよ。」安田はいつもヒットしやすいようなボールをトスをするから、人付き合いの苦手な俺たちでも交流の輪を広げるチャンスを与えてくれる。『俺たち』とは大友と越智も含まれている。
「お前たちはどうなんだ?」安田が聞く。
「僕は今のところ、勝率は七割三分ってとこかな。六割五分になったら手仕舞いだけどね。」
と越智は手元のメモを見ながら答える。
大友は、「勝率をコントロールしている俺に聞いても意味がないだろ?」
とニヤリとしながら答えた。
安田もニヤリとしながら「ああ、そうだったな。悪い悪い。」と答えた。
俺にはいまいち釈然としなかった。
「なあ、スリーセブン見せてくれよ。」安田が言った。それは皮肉を言っているようでもなく、自分の不運を慰めるための懇願ではなく、マクドナルドでバリューセットを頼むような感じでたずねた。
「今日はまだ出してないな。今から10分後に出すよ。今出したらチョット怪しいからな。」

約十分後、
「よし、行くか。」
7

7…


7!

そして、大友は10分後にスリーセブンを出した。俺はあっけにとられた。スリーセブンを出したことではない。大友の言ったとおりに10分後に叩き出したからだ。さらに俺を驚かせたのは
「すげえ!すげえよ、馬鹿つきじゃんか!」
「すごい!すごい!すごいっ!大友すごい!」
安田と越智が馬鹿騒ぎをして、驚いているにもかかわらず、二人とも眼が驚いていなかった。眼輪筋が派手に収縮しているのに瞳孔に変化がなかったからだ。それに対して俺は身動きがとれずに瞳孔だけ開きっぱなしだった。開きっぱなしだったのは瞳孔だけではなかった。

第三回 Y

「必勝祈願第一弾は終わりだ!次は!」
「安田~、また神社に行くのかよ?お前信仰にでも目覚めたのか?確かに神は一週間の最後に休暇という魅力的な価値を生み出したけど、貨幣価値を生み出したのは人間様だぜ?知ってたかぁ?お前のくじなんかアウトオブ眼中だぞ…それに俺は無神論者だ。無神論者は目の前にあるものしか信じない。俺からすればお参りなんてすべて異教の神の巡礼に当たるんだぞ?」
「あ?何言ってる?お前は話が長いけどつまらん!それに中身がない!ようするにお前は『ヤマハチ』に行きたいんだろ?俺もパチやりてえよ。今日はなんか上手く行く気がするっ。クッ!」
安田は目をつぶり右手をドアノブをまわすように、手首をひねった。
「何で俺がパチンコなんかやりたがるんだよ!どこからそんな結論が出る?」
「俺がやりたいから。証明終わり。」
ちょっと考えてから安田が続けた。
「いいか?これから三億円当たる俺がパチンコで儲ける。そして俺の強運をあやかって才能のないお前も大当たり!
二問目、証明終わり!」
「ハハハ、お前より才能あるよ。だけどこんなところで運を使い果たすなよ、パチの才能が全くない安田君!」
「ちっ、口だけは達者な山岸君と一緒に「Everyday 大出血サービスのヤマハチ」に行くことになりましたっ。三問目、正解!百点満点!」
「四問目の宝くじ三億円を当てる強運の持ち主である安田君のパチンコの腕前の証明ができないと100点はやらないぞ。」


パチンコは好きではなかった。勝負事は好きだが勝てる勝負が好きだ。勝てる勝負とはこちらが相手の能力を上回っていること、あるいは適切な選択肢が非常に多いことである。パチンコはその二つともがかけていた。そして言わずもがな宝くじもだ。
と、いつも安田に言っているが、いつも安田の絶妙なクロスカウンターが返ってくる。
「お前はただギャンブルの才能と運がないだけだろ?」事実、俺にはその両方がなかった。

俺の隣で安田は一生懸命パチンコ屋に献金していた。俺は募金程度だった。
安田が吼えた。
「くそ、玉入れは駄目だ!俺の才能は数あわせだ。スロット行くぞ、スロット。」
棒球のストレートが二球、放たれた。

カミ頼み

安田は「くじは江戸時代に神社で生まれたんだぜ。知っているか?」と珍しく薀蓄を披露したが、誰でも知っている薀蓄だった。

もっとも神社ではなく寺で生まれたのだが、外の空気を吸いたかったのもあり、近くの神社まで行った。


安田が真剣に拝んでいる最中、俺はタバコを吸って待っていた。

いくら友人とはいえ、こんなにくだらない祈祷に付き合ってはいられなかった。

安田もそこのところを知っているのか特に何もいわなかった。普段は抜けているが引くところはちゃんと引く男だった。

安田が拍手を打ち、俺のほうへ向かってきた。

「終わったか?」

「終わった。というよりはむしろ俺のセレブライフが始まったばかりっ!てとこだ。」

「ふ~ん。ところで肝心のくじは持ってきたのか?」

「いや、紙は持ってきていない。俺が紙を買ったのであり、俺が当たるんだ。つまり、俺が来ていればいい!

俺は紙に支配されてるんじゃない!俺が紙を支配しているんだ!そしてこれからは俺が俺の人生を支配するんだ!」

「これからね…がんばってね。」

「お前、あたらないと思っているんだろう。」

安田が真剣な顔をして行った。

「逆に当たるって考えている奴に会いたいよ。」

「俺は、金のためだけにこんなこといっているんじゃねえよ、わかる?」

「わからない。特にわかりたいとも思わない。」

「いいか?宝くじに当たるっていうのは努力したり、才能がある奴が当たるわけじゃないんだ。

運がある奴が当たるんだ、運命の『運』だ。

俺の『宝くじに当たる』っていうのは大金が手に入って楽に暮らせるって言う意味じゃない。

恵まれた運命によって豊かに生きていくという意味なんだ。」

安田が言うとこんな言葉でも弱冠真実味を帯びてくる。

「ああ、宝くじ買う奴みんなそう言っているよ。」

「そうだろ?三億円当たった奴もきっとそういってるよ!」

安田に人が集まってくるのはこの前向きさに魅力を感じているのだろう。

「本当に前向きだな、一生分の運を使い切ったとか考えないの?」

「暗いな~暗いっ!お前は確かに頭はいいよ、でもネガティブなんだよ。

ダムに蟻が一匹いるだけでそのダムは崩壊するって考えるタイプだろ?

お前ほど頭がいいんならいろいろとチャレンジしてみろよ。確かに失敗とか障害があるだろうけど、お前だったら何とかなるって!」

「ははは、そうだな。そうですね。善処します。」

いい加減なようで、案外人を見ている。そういう男だっ た。時折、相手の病巣を上手く抉り出し、瞬時にリハビリを施す。

安田は優秀な外科医であり、優秀な介護人であり、ヒゲづらの天使だった。

「いくら、三億円狙うといってもなあ。普通はバラで買ったり数十枚、あるいは100枚単位で買うんじゃないのか?」

「いやあ、案外そういうものでもないぜ?俺の後ろの爺さんは連番で10枚買ってた。」

「10枚買っても当たるのは五等ぐらいだろう?確率で言えばお前はその爺さんより当たらないって事だぜ?」

「逆に考えるんだ、逆に。天運に恵まれている俺は3枚で3億円だが、あのきったない爺さんは10枚で300円。

違いは買った枚数じゃなくて、どれだけ神に愛されているかってことだ。」

と、安田は鳥居にディープな投げキッスを送る。

「お前が神に愛されているのはわかったけど何で3枚しか買わないんだ?

3億円当たるんなら10枚買おうが100枚買おうが変わらないんじゃないのか?」

「たまたま、財布に千円しかなかったから。おかげでバスに乗れなくて歩いて帰ったよ。

あっ!」

「どうした?」

「銀行の窓口で買ったんなら、金を下ろせばよかった!あそこの銀行の口座持ってるんだった!」

「う~ん、惜しかった。残念賞だ。だけど特賞はお前んちにある三枚の紙だ。授賞式までまだ時間はあるけどな。」

「へっへへ、そうだな。頼むぜ~~俺の未来を揺り動かす28組946520!946521!946522!」


俺たちは神社を後にした。

Everyday Fool

「ジャンボあたんねーかな~?」

「お前、さっきからそればっかだな。今までのお前のセールストークにおけるお勧め商品はセックスだったけど

今度は宝くじか?お前の熱烈なセールスのおかげで安田商事株式会社はPER(株価収益率)の大幅な下げに転じてるぞ、安田。」

「PR?宣伝か?日本人なら日本語はなせよ。それにセックス以外の話もよくするじゃん。3チャンネルでやるようなやつ。」

「はいはい、そうですね。」

安田はいいやつだけどたまに気疲れする。安田が言うように3チャンネルの人形劇に出てくる人形と話をしているような気になる。

奴らはアクションは大振りだが会話の内容は空っぽだ。うんざりしていないような口調で答えたつもりだけどたぶん無理だろう。

いちいち相手の行っていることを否定していたら雰囲気は悪くなるだけだ。

「で、何枚買ったんだ?」

「三枚、連番。」

「三枚?最低でも当てるには十枚以上必要じゃないのか?」

「お前、五等の300円のこといってるの?ちっせえ人間だな。お前のブリーフの下の三兄弟といい勝負だ。ははは」

どこから突っ込めばいいかわからないが、自分で勝手に決めつけ話を完結させる奴には怒りよりもあきれて唖然とする。

「お前じゃないんだからブリーフなんかはかねーよ。それよりももしかして三億円当てる気なのか?」

もうこの話は終わらせたいが、まだ、こいつの馬鹿話に付き合いたい自分もいる。

芝居くさく、囁いてみた。

「うん、まあな。」

ぼそっと安田がつぶやく。

こいつは本物の馬鹿だ。今までに何度か「こいつは本当に馬鹿だ。」と確信したことがあるが、今日ほどこいつを馬鹿だと確信した日はない。ということが何度もあり、今日もその何度かめの今日だ。

だが、安田がくだらない下ネタを楽しそうに話しているとき、また、何の根拠のない妄想を信じきっているとき、妙にひきつけられる魅力があることは事実だ。

「なあ、山岸、何とかならないか?」

こいつの切実に訴えかけてくる目を見て、前言を撤回し、友情も撤回しようかと本気で思った。

(…お前こそ何とかならないか?)