ファルコンが来た方向とは別の方角からテサンが白衣を脱ぎながら歩いてきた。
ウンスの様子を見ると不思議に思いながらもファルコンに目を向けた。

「ウンスは何でむくれてるんだ?」

ファルコンは黙ったままのため、テヒョンが口を切った。

「転んでいたか、転んでいなかったが、原因かと。」

「は?」

ファルコンはお構いなしにテサンに問いかける。

「それより、テサン。
この後どうする?」

ウンスの様子を気にしつつテサンはファルコンに向き直ると、

「新しい隠れ家を用意した。
其処に移る。」

ウンスはその言葉に即座に反応した。

「えっ⁉
何かあったの?」

今までにも隠れ家を変えることはあっても、アメリカと韓国だけは変えることが少なかった。
アメリカはウンスが研修の地に選んでいたからだし、韓国は暮らしていた地だったから、何かあったときに直ぐに来れるようにするためであった。
それを知っていたウンスは驚きを隠せずにいた。
テサンはウンスには嘘をつかずに、今までも質問には正直に答えていた。
それは、「ウンス」だからであった。
だからこそ、ウンスに解らないように、知らなくてもいいように今までと同じに短く、簡潔に答えた。

「クーデター。」

「?クーデター?何処で?」

「お前の知らないところで。」

「テサン!からかってるの?」

ヨンはそんな二人の気持ちが分かるからこそ、口を挟まずに、ウンスのそばに黙って立っていた。

「とりあえず場所を移すぞ。」


「病院はどうするんです?」

テヒョンはこれからの事を処理するために、確認をする。
それが彼女の役目だからだ。
また、暫くの間自分がテサンとファルコンの変わりをするためには、組織内においてすべき事をするために最低限の情報は持っていないと動けないことをわかっていた。

「研修期間は終わりだ。そろそろ二人を戻して、シャインを迎えに行かないと、俺がドヤされる。
ウンスの親たちは暫くすれば退院できるだろうしな。
直ぐに動く。
向こうから来た方法と違うから、同じ時に戻れるかが解らんが。
ヤらないよりマシだろ?」

ウンスは前回の事もあり、此処での時間の経過と高麗での時間の経過が違うことに懸念をしていた。

「向こうではどのくらいの時間が流れてるかしら?」

「多分、年単位だ。」

「⁉そんなに⁉」

「早々に戻らないと、シャインがあの扉から出て来そうでヤバイ。」

「物凄く怒りそう・・・。」

「だから戻るぞ。もう、ウンスの親も心配いらないだろう。」

「お別れの挨拶してないわ。」

「その方がいい。」

「でも、」

テサンはわざと冷たくウンスに問いただした。

「お前、自分で決めたんだろ?コイツと一緒にいると。
なら、此処に未練なんか残すな。
そのくらいの覚悟を持て。」

それでも、ウンスは引き下がろうとしない。

「でも、せっかくオッパとオンマにヨンを引き合わせられるのに。」

「アホか、連れ去った張本人と一緒になりますなんて馬鹿げたこと報告するつもりか?
親の気持ちも考えろ。
あいつらには、説明もしない方がいい。」

「でも、何かのタイミングでテサン達があったときに、きっと言われるわ。『ウンスはどうしたんだ?』って。」

「会わなきゃいいだけだ。」

どうとでもなる。とでも言うようにテサンは言い捨てた。
その言い方に、ウンスは憤りを覚える。

「テサン!」

「そろそろここもヤバイぞ。行くぞ。」

ファルコンが半ば強引に話を切り上げると、三人は扉へと翻す。
納得の行かないウンスは、下唇を噛みしめ、瞳には涙が浮かび上がる。

『私の親だけど、テサンの数少ない友達じゃない。
どうしていつも、周りから離れようとするのよ。
記憶の中のテサンは何時もそう。
寂しすぎる。』


ヨンは、ソッと指でウンスの涙を拭うと肩を抱き、テサン達の後を追うようにウンスを促し歩き出した。