帰国の準備が整い、ヨンはウンスたちを迎えにやって来た。

「ヨン。」

ウンスは縁側から走り降り、一目散にヨンの前へ来るとくるっと一回りした。

「どう?
昔みたいでしょ?
似合う?」

ヨンはウンスの姿に懐かしさを覚えた。
ウダルチの服を着てヨンの部屋で

『ユ・ウンス。二等兵であります。』

と自分を心配して、王宮へ戻ったあの頃を。
あのまま戻らず、天界に帰さなければ、寂しかった四年の歳月もなく、今ごろはウンスを嫁に迎え、幸せに暮らしていたのかもしれないと。

「お支度は整いましたか?他の方々は?」
「もう済んでいるわ、テサンとファルコンは半刻ほど前に出ていったわ。側について追いかけるから気にするなって。」
「わかりました。馬を用意しました。
大丈夫ですか?乗れますか?」
「ええ、大丈夫。100年前では沢山乗っていたし、早く駆けることも出来るわよ。」
「シャイン殿は?」
「大丈夫。私より上手だから。馬に乗って駆けることも、シャインが教えてくれたし。」
「わかりました、では参りましょう。
部隊とは、この先の山入り口で待ち合わせています。」

そんなとき、シャインが家から出てくる。
ウンスより長い髪を後ろに高く結い、腰からは剣を下げている。
つい先日まで、寝台に横になっていた人物とは、思えないくらい回復していた。

「お待たせしたかしら?ヨンさん。」
「いえ、行けますか?」
「ええ。行きましょう。」
「護衛を付けます。二人。ウンスは某が付きます。」
「私には要らないわ、邪魔になるだけだから。」
「しかし、」
「ヨン、多分、邪魔になると思うわ。
テサンと同じぐらい、シャインは強いし、8割方、体も回復してるし。」
「では、道案内程度ではいかがですか?」

ヨンは念には念を入れたかった。
確かに、ウンスが戻っていることの箝口令は引いてある。
それでもどこでばれるかわからない。
いくら髪を纏め、笠を被っていても肌の白さはなかなか隠せない。
シャインも同じだ。
ウンスと髪の色は違うが、茶色の髪とウンスと同じように白い肌。
さて、どうするかと考えていると、

「そんなに考え込むと、将来剥げちゃいますよ、ヨンさん。」

シャインはニコッと笑うと馬に股がり、

「ハッ!」

馬の首を回し門へと動かしていく。
ウンスはクスクス笑いながら馬に乗り、シャインの後を追った。
ヨンは、どうも釈然としないが馬に乗り、二人の元へと、馬を動かした。

『顔に出ていたのか。』





少しすると待ち合わせの山入り口にたどり着く。
そこには懐かしい顔がそろっていた。

「チュンソクさん、トルベさん、トクマンさん。」

ウンスは嬉しそうに三人の元へと馬を向かわせ、馬上から飛び降り三人の前へ。

「医仙さま、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです。」

三人はウンスへと頭を下げ、礼を尽くす。
そんな三人にウンスは両手を顔の前で振り、

「そんなことしないで。みなさんも元気そうですね、良かったわ。
今回はお世話になります、それと紹介しますね、叔母のシャインです。」

シャインは馬上から降り、ウンス達の元へ歩みを進める。

「はじめまして、シャインと申します。ウンスが大変お世話になりまして、ありがとうございます。」

そこには、ウンスとは又別の意味で、眩しさを感じるくらいに、美しい人が自分達に挨拶されたのだと、有頂天になろうとしていた。
ヨンはつかさず、三人の頭を順番に叩いていく。

「気を引き締めろ。王宮まで三日間、何があるかわからないぞ。」
「イ、イエ、テホグン‼」

チュンソクは、仕舞ったと顔をにが潰しながら、馬へと向かう。
皆が馬に乗るのを確認すると、

「さぁ、出発だ‼」

都に向けて、6人は道を進めていく。
その様子を見ていたファルコンは、

「気に入らない。」
「何がだ?」
「気に入らない。」

テサンはため息をつきながら、

『またはじまった。
そんなに男の格好をさせるのが嫌なのか?
前もそうだったよな。これだから嫌なんだ。一番口うるさいのはお前じゃないか。』

そんなことを思いながら、ウンスたちに気づかれないように気配を消して、テサンとファルコンは後を追い出した。

「そういえば、テマン君は?」

ウンスは前を走るヨンへと声をかけた。

「テマンは兵舎に残しました。
繋ぎの役目も、あの腕では無理があります。良くなり次第、都に呼び戻します。
今は少人数ですが、都につく前には、200人弱の部隊と合流しますので、そうしたら輿に乗っていただきます。」
「どうして?このままで良いわよ。」
「ここにいる者以外は、あなたが戻って来たことを知りません。
故に、合流時には腰の中に。」
「わかった。シャインもそうなの?」
「はい。よろしいですか?」

ヨンは、シャインへ振り返りながら話しかけるとニコッと笑ったシャインがいた。
その笑顔を見て、トクマンがデレデレした顔になると、横からチュンソクに叩かれた。

「いてッ⁉」
「気を引き締めろ。」

トクマンが頭を撫でているのを、ウンスとシャインは笑っていた。

都までの厳しい道程の中で、一瞬の和らぎが生まれていた。