会社員の間で副業への関心が高まっている。副業を解禁する企業が相次ぎ、政府も働き方改革の一環として副業を容認する方針だ。

 

上司の理解、時間管理など、注意点は多い。

 労働関連の法律には副業に関する規定はなく、民間企業に限れば副業は違法ではない。だが、企業が就業規則を定める際に参考にする厚生労働省の「モデル就業規則」には副業を厳しく制限しているととれる表現があり、企業がそれに準じてきた。厚労省はモデル就業規則を見直し、副業を原則容認する方針だ。

 

 

■ネット活用が多く

 副業というと、昔は飲食店でのアルバイトといったイメージも強かった。「週末起業」などの著者で経営コンサルタントの藤井孝一さんによると、最近ではIT(情報技術)関連やインターネットを活用したものなど「個人のスキルを生かした業務委託というケースが多い」という。

 クラウドソーシング大手、クラウドワークスのエンタープライズ事業部ディレクター、吉川雅志さん(30)は、クライアント企業から受託した動画コンテンツ制作の進行管理を担当。一方、副業として動画制作集団「まよいせん」を自ら率い、国内外の数百人規模のフリーランスを使って、仕事を受注している。

 クラウドワークスでの仕事は、通常、平日午前10時から午後7時ごろまで。副業は就業時間外の夜や週末を使う。「まず本業ありき。突然残業が入ってもいいように、副業の仕事のスケジュールはかなり余裕をもたせている」と吉川さん。

 エン・ジャパンが4月に実施した正社員の副業実態調査でも、実際に副業をして一番難しいと感じたのは「時間管理」(複数回答で63%)だった。

 では、どうすればうまく時間管理できるのか。

 まずは、吉川さんのように、あくまで優先すべきは本業という意識を強く持ち、副業は空いた時間を使うという考えが必要だ。本業をおろそかにしては本末転倒なうえ、「無理をすれば体を壊す」(吉川さん)。

 業務委託の場合は納入期限が設定されているのが普通。期限が守れなければ信用問題にかかわってくるので、納期の設定には余裕を持たせるのがコツだ。

 自宅でネットを使った副業は、仕事とプライベートの境があいまいになり、ダラダラと続けてしまう場合もある。生産性が上がらないので、あらかじめ時間を区切り、メリハリを付けることが大切だろう。

 家族がいる場合は、副業に入れ込み過ぎて家族との時間を犠牲にしないようすることも欠かせない。吉川さんは、土日のどちらか1日は、妻と外食する約束をし、仕事と家庭のバランスをとっているという。

 時間管理以外にも注意点は多い。経営コンサルタントの藤井さんは「副業を考えた時にまず気を付けることは、職場の上司との関係」と指摘する。

 社長が会社の方針として副業を解禁しても、上司が自分の部下が副業することをどう思っているかは別。「日ごろ顔を合わせ、自分を評価するのは社長ではなく直属の上司。その上司の副業に関する考えを知っておくことや、必要なら、副業の内容を説明し上司の理解を得ておくことが望ましい」(藤井さん)

 

■同業種なら慎重に

 本業で身に付けたスキルを生かして副業する人は多いが、同じ業種での副業は利益相反行為を引き起こす恐れもあるので、副業の選び方にも注意が必要だ。

 当然だが、やってはいけないのは、就業時間内に副業をしたり、会社から支給されたパソコンや携帯電話、業務で作ったデータ資料などを副業に利用したりすること。高いプロ意識が求められる。

 転職サイト「リクナビNEXT」編集長の藤井薫さんは、「入社1、2年目の若手社員がいきなり副業を持つことは勧められない」と話す。本業と副業を両立させるための自己管理も、副業をするだけのスキルも不十分なためだ。

 副業の年間所得が20万円を超えたら確定申告が必要になる。会社員は自分で納税することに慣れていないため、申告し忘れる人も少なくないようだ。納税義務を守らなければならないのは言うまでもない。


(ライター 猪瀬 聖)
[日本経済新聞夕刊2017年6月12日付の記事を一部再構成]

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