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このお客様は30代前半のご夫婦で、その年1歳になる息子さんの成長を考え、そろそろ自分たちの家を建てようかと考えていたちょうど矢先、奥様のご実家で立ち退きの話しが持ち上がり、生家の解体を弊社でお手伝いさせていただくことになりました。後日、現場調査でご実家を訪問させていただいたところ、ご自宅は築年数70年以上の立派な民家でした。


「奥様の生まれ育った大切な住まいの思い出をぜひ新居に引き継ぎましょう」

そう提案した私達に、ご夫婦は


「新居は明るいイメージの南欧風の外観にしたいのです。何十年も私達を守ってくれた生まれ育った我が家の名残を新居に残すというのはとても嬉しいんですけど・・・民家のような暗いイメージになりませんか?」とおっしゃられ、私達はふと考えました。


『お客様は古いものなんか使いたくない、といわれているのではなく、残せるものなら残したいと思っていらっしゃる。古材=民家調にこだわる必要はないのではないか?そうすればもっと幅広い世代のお客様が古材を見直してくれるのではないか』


プロバンス住宅が最も流行していましたし、若い世代の間では輸入住宅への憧れが強い。ちょうど弊社でもオーストラリアやカナダからレンガやドアなど意匠性の高い商材を現地へ直接買い付けしていました。そして現地の住宅事情を学んだ中で、オーストラリアなどでは何十年でも自分達で手入れをしながら家を育んでいくという事実を見てきました。当然そこにはオーストラリアの古材がありました。それがレンガやシャンデリアにしっくりと馴染み、重厚感のある空間を生み出していました。それが私達の目にはとても斬新で新鮮なデザインに見え、そして確信したのでした。


『木は万国共通なんだから、古材は洋風住宅にも合うんだ!』


その後このお客様はとても喜んで母屋の古材を新居にリユースしてくださいました。もちろん若いご夫婦らしい明るいナチュラルテイストのインテリアの中に・・・また新しく命を吹き込まれた古材は子供やその子供、孫の代まで輪廻を繰り返し、そのたびにたくさんの家族の思い出を刻み込んでくれることを願います。