前回の紹興酒の記事をアップした後に書き溜めていた記事です。

 

 

今回もお酒について。

紹興酒を含めた醸造酒の総称である「(huáng)(jiǔ)」に対して、日本の焼酎のように蒸溜して作られた中国のお酒を「(bái)(jiǔ)」(バイジュウ・パイチュウ)と呼びます。

 

一般的には高粱や小麦、トウモロコシ、米などの穀物を原料にしたアルコール度数40〜60度くらいまでの蒸溜酒で、それぞれの香りや味わいの特徴から

・【(nóng)(xiāng)(xíng)】(濃香型)

・【(qīng)(xiāng)(xíng)】(清香型) 

・【(jiàng)(xiāng)(xíng)】(醤香型)

・【米(  mǐ)(xiāng)(xíng)】(米香型)()

・【(fèng)(xiāng)型】(xíng)(鳳香型)

などに分類されます。

 

マクロな視点で見た場合、殆どの中国人民にとってのお酒とは「白酒」の事であり、そのシェアは黄酒やワインの比ではありません。ネット上に有った2019年の酒類別売上構成比(中国国家統計局商務部)を見ると、全体の69%を白酒の売上が占めています。

 

今でも中国各地に量り売りをしてくれる酒屋さんがあります。

 

基本的には水割りやロックなどという飲み方は無く、ストレートで楽しむお酒ですが、上海や杭州といった都市部のバーなどでは、白酒ベースのカクテルもちらほら見かけるようになりました。

 

数ある中国白酒の中でも、有名どころで一番に名前が挙がるのは貴州省で作られる「(máo)(tái)(jiǔ)」(マオタイシュ)でしょう。

 

上二段の白い瓶が茅台酒。(グランドハイアット北京 長安壹號)

 

約50年前に日中国交正常化が結ばれた際、北京の人民大会堂で行われた宴席でも供された中国を代表するお酒(国宴酒)です。田中角栄元首相と周恩来元首相が乾杯をしたお酒というエピソードが当時は日本のニュースでも紹介されたそうです。

 

以前お客さんが食事の際に個人的に持ち込んだ20年物の茅台酒を一緒に飲ませていただいたことがあります。白酒によくある焼けるような辛さや強烈な香りはまるで感じない、シルクのような滑らかな喉越しと馥郁とした香りは今思い出してもうっとりするようなさすがの代物でした。

 

 

茅台酒(マオタイシュ)・・・貴州省仁環市茅台鎮産。「醤香型」を代表する白酒。白い瓶に赤のラベルがトレードマークだと思っていたら、今では味わいもラベルも色々なバリエーションで販売されているようです。上の写真の「(fēi)(tiān)(máo)(tái)」(飛天)というブランドの茅台酒は一瓶(500ml)で2500元(約50,000円)。ビンテージ物は数万元するものもあり、普通では飲めない高級酒です。中国人の同僚曰く、中国国内には茅台酒の空き瓶を専門に回収して売り捌く業者もいるらしく、偽物には注意が必要らしいです…。

 

白酒はそのアルコール度数の高さや独特な香りなどから、日本では紹興酒よりも更にマイナーなお酒として、飲む事はおろか見たことすらない人も多いと思います。

 

私は長く中国料理の業界に身を置いているので常に身近に白酒の存在がありましたが、日本人で好んでこのお酒を飲んでいる人はほんの数人しか知りません。

 

とは言えこれまでの日本のどの職場でも、アルコール類のメニュー表には山西省で作られる「汾酒(fénjiǔ) 」(ふんしゅ)と、四川の銘酒「()(liáng)()」(五糧液:ごりょうえき)くらいは常備されていましたし、「广(guǎng)(dōng)()(jiǔ)」(広東米酒:広東省産の大衆酒)などの比較的安価な白酒は肉や魚の臭み消し、煮込み物の料理酒などとして厨房でも活用されています。

 

汾酒(ふんしゅ)・・・山西省汾陽市杏花村産の白酒。中国四大銘酒の一つに数えられています。すっきりとしていて癖のない香りの「清香型」。

 

 

五粮液(ごりょうえき)・・・四川省宜賓で産する銘酒。そのふくよかな香りは「濃香型」に分類され、このお酒の封を開けるとレストラン中が五粮液の香りで満たされると言われています。実際日本にいた時は中国人のお客さんがこのお酒を注文すると、厨房にいても五粮液が開いたことが分かるほどでした。

 

本場広東省では1瓶8.6元(約170円)で売られている超大衆酒の广东米酒。「米香型」。

 

私自身の白酒初経験は、中国語を習っていた20歳の頃、当時通っていた中国語学校の先生に新宿歌舞伎町の四川料理店<川香苑>に連れて行っていただいた時でした。

 

この日、先生の他に酒好きの同学がもう一人、計三人で沢山の料理と一緒にèrguōtóu(二鍋頭:アルコートー。北京を代表する白酒)を1瓶ご馳走になりました。これが私にとって人生初経験の白酒でした。

 

川香苑の料理が美味しくて、話も盛り上がり気分良く飲めたのでしょう。お店にいる間の記憶は楽しかった記憶しかありません。

 

しかし帰宅途中に完全に酔いが回り、記憶も意識も途絶えてしまいました。気付いたときには新宿から自宅までのほぼ中間地点、東横線の祐天寺駅で救護されていたという苦い思い出があります。

 

 

二锅头・・・北京のお酒と言えば「二鍋頭」。紅星(上)と牛欄山(下)という二大メーカーのものが有名。蒸留冷却過程で一番最初のものは刺激臭が強く、最後のものは不純物が混ざることから真ん中(二鍋)の蒸溜されたものしか使わない((qiā)(tóu)()尾,wěi) (bǎo)(liú)(jiǔ)(xīn))という製法からこの名が付いたと言われています。

 

その後、これまで何度となく中国を訪れた中で、割と正式な接待とか歓迎の宴席に招待された時には「白酒」を振舞っていただくことが多かったと思います。大体どこの地域にもご当地の白酒があるので、その地域名産の白酒が振舞われ、中国式の「(gān)(bēi)」(乾杯・小さな盃で宴席の間中、何回も繰り返される中国式の乾杯。基本一口で飲み干す)の連チャンが始まります。

 

左側が白酒専用の小さなグラス。右側の「分酒器」には目盛が付いていて、大体どのくらい飲んだか把握できる様になっています。五両=半斤(250ml)飲めればそこそこ飲める人の部類に。十両、つまり一斤=1瓶(500ml)飲めればほぼ酒豪と認められます。とりあえずまずは二両(100ml)から…。

 

正直に言って、今回の赴任で中国に来るまでは白酒を本心で「美味しい」と思って飲んだことはありませんでした。独特の強い香りに、喉が焼けるようなドライな飲み心地。何度も繰り返される乾杯では自分のペースで飲むことが出来ず、無理して飲んでいた記憶の方が強いです。

 

しかし、環境は人間を変えます。

結論から言うと、今は「白酒」が好きになってしまいました。ちゃんと心から美味しいと思って飲めるようになりました。数ある「白酒」のなかで自分の好みの傾向も分かってきました。

 

中国では輸入のワインやウィスキーは日本よりも関税が高いため、日常的に飲むとなると私にはあまり経済的ではありません。年齢的にもビールや紹興酒に含まれる糖質やプリン体などが気になり始め、財布にも身体にも優しく?飲める蒸留酒という事で、自然と白酒に辿り着くことになったと自己分析しています。

 

西凤酒(シーフォン)・・・陝西省が誇る銘酒。口当たりが柔らかく、風味も軽くてまろやかな西凤(西鳳)酒。「鳳香型」。1瓶200元前後(約4000円)くらいで個人的に一番気に入っている白酒。多少飲み過ぎても翌日辛い思いをしたことがありません。

 

職場のスタッフと宿舎で飲むときも、彼らは当たり前のように各地の白酒を持参しますし、仕事終わりによく行く山下の「(tiě)(guō)(dùn)」(東北の鍋料理)や「(xiǎo)(lóng)(xiā)」(夏が旬のザリガニ料理)などのお店も基本白酒かビールの二択なので、白酒を選んでいるうちにいつの間にか白酒の美味しさに魅せられてしまったのです。

 

 

「铁锅炖」と「小龙虾」。どちらも白酒をやるのにピッタリ。

 

天台山の山下のスーパーにも中国各地の白酒が取り揃えられています。

大体どの白酒も1瓶で1斤(500ml)。価格は数十元(千円くらい)のものから千元(2万円)近いものまで。売れ筋は150~200元(3千~4千円)くらいだと思います。

 

(酒好きという大前提のもと)中国式の誰かがグラスに口をつける度に皆で乾杯乾杯とやる飲み方も、慣れてくると参加者全員で楽しめている感じがしてとても愉快に感じます。

 

(huā)(shēng)() (ピーナッツ)や(guā)() (向日葵の種)をカリカリやりながら、白酒を飲むその姿は、完全に現地の「(lǎo)(tóu)」(オヤジ)と見分けがつかないはずです…。

 

禁煙には成功しましたが、楽しい飲み仲間がいる限りお酒は辞めれそうにありません。

 

山下の飲み屋のトイレに貼ってある大好きなポスター。

「お酒が辞めれないんじゃなくて、友達付き合いを辞められないんだ」(笑)

 

白酒のこと おわり